「国選弁護」をめぐる無理のツケ

     国選弁護をめぐり、近年、「奪い合い」とか「群がる」という表現が、ネット上で目についてきました。報酬は少なくても、背に腹は代えられない弁護士たちが、そこに殺到する現象が生まれている、と。こういう話になると、今度は「改革」推進論調のなかから、時々「結構じゃないか」という声が出されます。かつて、「妙味」から見向きもされなかった分野に、否応なく、弁護士を「誘導」できた「改革」の効果だ、と。以前、ここでも書いた典型的な「追い詰め」式をあてはめるものです(「弁護士『追い詰め』式増員論の発想」)。

     少なくともこの論調を掲げる人たちには、この問題で弁護士の側からしばしば出される本音、例えば「必ずしも成り立つからやっているわけではない」とか、「全力でやったらば、事務所を維持できない」といった、低廉な報酬と採算性の点での反論は、ほとんど通用しないように見えます。なぜならば、彼らは頭から弁護士の、いわば「心得違い」を正すメリットの方を強調し、あたかも弁護士の採算と前記「追い詰め」式で得られる社会的な「効果」をはかりにかけて、どっちが重要だ、といった切り口で迫って来るからです。

     そもそもまともにやる限り、ほとんど薄利多売はできないと言われる弁護士の仕事で、前記採算性を無視して「成り立つ」かどうかを、弁護士の「心得」とか「やる気」で片付けようとする論調には、明らかに非現実的なものがあります。ただ、それとは別に、弁護士のメリットよりも社会のメリットを強調するような前記論調が、もう一つ、無視していることがあります。それは端的にいえば、こうした無理を強いた場合のツケが一体、どこにくるのか、ということです。

      「国選弁護で稼ぐ方法」。こういうエントリーを立ち上げた弁護士ブログがあります(「刑裁サイ太のゴ3ネタブログ」)。このタイトルを見ただけで、あるいは前記「改革」推進論者のなかには、弁護士の「心得」次第を確信してしまう人もいるかもしれませんし、同業者からは逆に「心得違い」とか「非現実的」といった異論も出されてしまうかもしれません。ただ、この一文は、エントリーが示すような「裏ワザ」伝授を意図して、書かれたものではありません。ブログ氏ははっきりとこう書いています。

      「客観的には、弁護人として恥ずべき行為を推奨するようにも見えるかも知れないので念のために最初に声を大にして言いますが、【本エントリーで当職が訴えたいのは、法テラスの基準がおかしいという現状に対する壮大な皮肉です】」

     詳細は、読んで頂ければと思いますが、ここで書かれているのは「効率化」を重視し、弁護士として「やってやれないことはない」といっていいような国選弁護の稼ぎ方モデルです。正直、国選弁護の実務の現実を知らない人がこれを見た場合、そもそもここで言われていることが実際に成り立つのかどうかも分からないばかりか、そこに提示されている額だけ目を追って見てしまえば、やはり「やってやれないことはない」方の印象を強く持ち、あるいは前記「改革」効果論者を、またぞろ勢いづかせるものになるかもしれません。

     ただ、実は弁護士の利用者が、このエントリーで一番見落としてはいけないところは最後に出てきます。

      「こうして、20日勾留されてその間接見に行きまくり、地裁の被告人国選になってから被害弁償ボーナスを得て、無駄に2期日+判決言渡し期日を入れさせた場合の国選弁護報酬は、25万8200円にもなります!これに対して、2回だけ接見に行き10日間で証拠不十分で不起訴にした場合はたったの4万6400円です。法の光を浴びた弁護士がどちらの弁護活動を選ぶかは自明ですよね」
      「概ね、上記の弁護方針と真逆の弁護をするのが最良の弁護だと思います。だけどそれじゃ稼げないからね。仕方ないね」
      「法テラスの基準は『弁護人はきっと最善弁護してくれるはずだ!』という『性善説』に基づいて設定されているような気がします。しかしながら、いざ報酬請求の段になると『もしかしたら接見してないかもしれない』から接見資料の提出を求め、『公判時間をごまかしているかもしれない』から公判時間を書記官に問い合わせるなど、『性悪説』に立った運用をしているように思われます。 善意によってのみ支えられている制度は早晩崩壊すると当職は考えます」

     現実問題として私たちが危険にさらされているのは、「最良の弁護」だということです。社会は、無理のツケが現実的にこういう形で回ってきかねないことを十分に認識しているでしょうか。ここでも「心得違い」だけで異論を唱える人もいるとは思いますが、少なくとも前記メリットだけで括れる問題かを伝えなければ、民意の忖度などできるはずもありません。しかも、後段にもあるように少なくとも「善意弁護」に対して、業界関係者は懐疑的でもあるわけで、その意味では、現実的にどういう展開になる危険があるのかは、一般は認識していなくても、彼らは十分に予想がついているということも分かります。そして結果的に「最善弁護」が、いかにして保証されるのかも、私たちには皆目分からないという状態です。

     メリット論に引きずられず、私たちが直視しなければいけない「改革」の現実が、ここにもあるように思います。


      「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
     【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
     【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
     【法曹養成】「予備試験」のあり方をめぐる議論について意見を求めます。
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    テーマ : 弁護士の仕事
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    No title

    え?若手の間では、接見が飯の種だから、必要もないけどとりあえず接見行って稼ぎ、被告人国選では接見最小限というのが普通だぞ?
    まあ、国選は、余暇でやらないと、事務所にかかる経費にもならないんで、やればやるほど機会利益を喪失するんだよね。機会利益という概念がわからない人にはこれ以上何を言ってもムダだけどね。

    No title

    ›手を抜くくらいなら最初から国選なんてしなければいい。

    公益義務化の弊害だよ。
    それさえなくなれば,即辞める。

    ›国選でも手を抜かずに一生懸命やりますっていう若手弁護士は増員の結果山ほどいるんだなら。

    おいおい。大丈夫か?
    だったら,弁護士会で新人研修なんかするなよ。
    刑事部裁判官が激怒りした話も聞いたし。
    手を抜く以前の問題だって。

    No title

    手を抜くんじゃなくて、報酬が費やす時間の上限を決めているんだろ?
    まあ、赤字一直線の全力投球を若手弁護士にしてもらって、そのまま力尽きて市場から退出していただくと、競争相手が減ってうれしいかなと思うので、一生懸命がんばってほしいね。

    手を抜くくらいなら最初から国選なんてしなければいい。国選でも手を抜かずに一生懸命やりますっていう若手弁護士は増員の結果山ほどいるんだなら。

    No title

    最大手事務所に、「当事務所は、国選弁護等の公益活動に積極的に取り組んでいます!」などとわざわざ公言しているところがいくつもありますが、その国選弁護を何件受任したのかまで明かす気はないようです。日本の弁護士の1%以上が集中する大手事務所が「積極的」に受任したんなら、日本の国選対象事件の何%を受任したんだろう? 当事務所は、独占資本の用心棒以外の仕事「も」するんですよ、と言い訳する為に、最低限の数だけやってるんだろうな、と想像します。そんな了見でやってる連中に当ってしまった人が気の毒でならない。無実だろうが、拷問されていようが、ものすげー手抜きされそうだから。他に仕事がない(こっちに全力を注入しても、他で損をしない)困窮弁護士ならまだしも、事務所に戻れば時給何万の連中なら、どうなるか。最大手事務所の幹部連中が、揃って弁護士大増員断固推進、でも自分の事務所で責任持って面倒は見ないぞ、絶対に! という恥知らずな態度を止めないのも、儲からない仕事を押し付ける身代わりが欲しいという一心ではないのですか。

    「金にならない仕事でも公益の為なら全力で取り組む」というのならまだしも、「金にならない仕事は手抜きするのが当然。仕事して欲しかったら(法外な)金払え」という了見なら、そんなのは単なる職業であり、何一つ社会に特権的な地位など認めるべきではない。例えば、修習生の給費など論外ということになります。

    No title

    値段に見合った商品でいいんじゃないですか

    歯医者さんだって、いい歯を入れるには自費だし
    保険の場合にはそれなりでしょ

    レストランだって値段に見合ったサービスだし

    弁護士だけ、安くても高くても同じサービスというのがおかしいのです
    建前はともかく、私選と国選の対応を変えている人は多いですよ

    実際に、全く同じサービスをしている人は、私選で高額のお金を払っているお客さんに対して、不誠実ともいえるのではないでしょうか

    No title

    建前はどうあれ,報酬が低廉なんだから
    (1)ばれないように適当に手を抜く。
    あるいは,
    (2)とある被疑者から聞いたんだけど,同部屋の被疑者について
    「チャリパクなのに,そいつの弁護士しょちゅう来るんだよね。暇な弁護士さんなのかしら?」
    みたいな石鹸乞食活動『のみ』に精を出す(毎日何のお話をしているんだろう?),

    という流れになるよね。


    No title

    法テラスが業務を開始してからまだ十年も経っていません。
    その前はどういう制度になっていて、バブル期も含め国選弁護人はどれだけ貰っていたのでしょうか。
    まるで何十年も前から法テラスが存在していた事を前提にして議論しても無意味なのでは。

    No title

    でも、弁護士の心得違いとか、法科大学院マンセーとか言っているやつはたぶん刑事弁護なんて金にならないからやらねえと言うと思うけど、頼んだら時給7万円らしいから、4~500万円というところかな。
    タテマエとホンネなんてそんなもんだよ。

    No title

    刑事の否認事件なら、まあ詳細は事件内容にもよりますけど、大体80万円くらいからですかね、請求する弁護費用としては。
    あ、もちろん方テラスのほうが安いですから、そちらをオススメします。

    No title

    もう少しすれば、カジノが解禁になって、破産犯罪いずれの件数も激増すると思われます。
    弁護士うはうはですね。
    カジノの利益は全部外資が持っていき、国内には貧困と犯罪の嵐が蔓延
    CDPは目に見えて減少し、自給率も低下、略奪社会の到来です。
    まさに事前抑制から事後救済の社会へ。
    司法改革の成果です胸熱です。

    No title

    年々増加する弁護士の数と比べて刑事の国選事件の数が足りません。
    収入を国選事件に頼る多くの若手の仕事を確保するために,弁護士会は警察に積極的に一般市民をどんどん逮捕するように申し入れをするべきではないでしょうか。
    検察にも証拠が不十分でも起訴を躊躇しないように申し入れるべきでしょう。
    証拠が不十分で起訴する事件が増えると弁護士にとっても無罪判決をえる機会が増えます。
    一般市民の方も裁判員や検察審査会だけではつまらないでしょうから,事件の当事者として司法をより身近に感じてもらう機会になるのではないでしょうか。
    取り調べの可視化の重要性など自分が取り調べを受けてはじめて実感できると思います。

    No title

    最初の方へ。
    被疑者国選をやっている弁護士のすべてが真面目に仕事をしているとは限りません。
    平成26年4月に法テラスの国選報酬規定が改正され,6回目以降の接見についてもある程度報酬が出るようになりましたが,従来の規定では6回目以降の接見は報酬ゼロでした。
    その結果,「国選の弁護人は5回までしか接見に来ないよ」と警察に言われた被疑者がいる,という話も聞いたことがあります。伝聞なので真実性の保証はできませんが,少なくとも,報酬の決め方次第で働き方を変えてしまう国選弁護人が相当数いる可能性は否定できないでしょう。
    国選弁護人があまり仕事をしていなくても,情状により検察官が起訴猶予にしたり,証拠不十分その他諸々の理由で不起訴にするということは十分にあり得る話であり,だから法テラスも不起訴処分自体を成果加算の対象にはしなかったものと想像されますが,それはそれで問題が生じるということです。

    No title

    一つ前の方へ。
    そんなことはありません。
    虚偽自白後であっても、明白な客観事実の齟齬を指摘され、嫌疑不十分どころか、書類送検すらできずに釈放された事案すらあります。
    まあ、国選でそういうことをするな、という話になったとき、それが本当の国民のためになるのか、という話なんでしょうけど。
    で、お決まりの心得違い?
    まあ、いいですよ。どっちでも私は国選やってませんし、できませんけど。
    「法テロ(り)すと」の契約してないといけないらしいんで。

    証拠不十分で不起訴っていうのは、否認事件で嫌疑不十分不起訴ってことですよね。否認事件なら虚偽自白を防止するために連日接見に行くのは当たり前だし、検察官が勾留延長せずに一勾留で終わるということもあり得ないです。否認事件なのに二回しか接見にいかずに一勾留で不起訴にするってモデルがほぼ不可能な話ですよ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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