弁護士「独立」の非常事態

     ここのところ、弁護士の「独立」に絡む界内の話題といえば、「ソクドク(即独)」、つまり、若手の経験のない弁護士が、いきなり独立するケースの話が中心である観があります。日弁連・弁護士会として、彼らを支援しようとする動きが2008年くらいから出てきたのです。

     日弁連では新規登録弁護士・司法修習生で、弁護士登録と同時にまたは登録後1年未満の早期に独立開業することを考えている人のメーリングリストへの参加を求め、開設手続きから事件処理についての質問・意見交換の場を作ったり、即時独立弁護士1人へ原則登録後1年間、5~10年経験の弁護士2人がサポートする「チューター制度」を設けたりしています。また、現在までに全国52会中29の弁護士会が、なんらかの独立支援策に乗り出しています。

     こういう形での若手の独立に懸念はないのか、と思われる市民の方もいると思います。実は、日弁連・弁護士会が、積極的に若手の独立を推奨している、というわけではなのです。弁護士の急増策の影響で、若手弁護士が既存事務所への就職ができない状況が生まれ、やむなく独立する事態を放置できなくなった、窮余の策というべきものなのです。

     弁護士は、登録後、法律事務所に勤めて3~7年くらいで、一本立ちして事務所を構えるのが、一般的な形とされていました。その間に、事件処理から業務全般を習得するのです。以前にも書きましたが、かつては事務所を経営する「親弁」から、それこそ弁護士道ともいえるような心得から人間教育的なことまでを指南された時代もありました。近年、その関係もドライなものになり、かつての「師匠」「恩師」は、単なる「上司」「トレーナー」のような存在にはなってきていましたが、それでも一通りの修業ができる場にはなっていたと思います。

     独立の時の状況はさまざまです。勤務していた、いわゆる「イソ弁」(居候弁護士)時代に自ら開拓した顧客もあるわけですが、そこは「親弁」あってのという場合もあります。「のれん分け」のように、顧客をつけて独立を後押してあげる「親弁」もいれば、有力顧客の流出にまゆをしかめる「親弁」もいるという話も聞こえていました。

     ただ、それでもこのスタイルは基本だったと思います。徒弟制度のようなムードは消えても、OJTの確保として有効だったのです。委員会活動や派閥を通した人間関係がこの間に形成され、独立しやすい環境も整えることができる、という人もいます。

     日弁連・弁護士会が、このスタイルを崩そうと思っているわけでもなければ、支援付き「即独」がこれより望ましい形と考えているわけでもありません。あくまで状況変化への対策です。

     ただ、この状況変化をどう見るかです。異変は、むしろ既存事務所のなかで起こっているのです。前記した独立モデルが崩れている、ということの方、つまり、独立したくない、したくても独立できない弁護士が増えている現実です。

     一般的に勤務弁護士に比べて、経営弁護士は3倍近い年収をとっているといわれてきましたが、当然、事業者として、事務員の給料をはじめとする事務所運営費を考えなくてはいけません。勤務弁護士の気楽さの妙味とくくれなくはありませんが、弁護士増員に見合う事件数がなく、収入につながる仕事が追いついていない現状からすれば、もはや年収の多寡や、自由業者の「夢」なんてことはいってられないという、これもまたやむを得えない選択として、独立しないという道を選んでいるというべきかもしれません。

     それでも「ボス弁」が肩を叩かなくてはならなくなったり、「イソ弁」がそれを恐れていたりというストーリーが沢山展開されているようです。「ボス弁」自身が、独立を匂わさない「イソ弁」たちの本心をつかみきれず、また方針も立てきれない、というケースも聞こえてきます。

     こう考えてみると、本当に独立支援が必要なのは、この本来の独立時期を迎えている弁護士層、さらにはそこから上の中堅の勤務弁護士層なのではないか、という気がします。彼らが、独立できれば、単純に若手の受け皿となる事務所も増えることになります。

     「それができれば苦労しない」という声が聞こえてきそうです。ただ、根本的な解決方策としては、「なぜ、それができなくなっているのか」というところに踏み込まなければならないと思います。

     増員問題を含めて、法律事務所の経営環境の問題について、もっと弁護士側が意見を発信し、国民に伝えなければなりません。弁護士にとってというより、利用者・市民にとって望ましい「独立」の形ということが、今の支援活動からは伝えきれていないように思えます。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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