「改革」と「存在意義」をめぐる疑問

     制度を変えるには、それ相当の理由が要る――。言葉にしてしまえば、当たり前のことと片付けられてしまいそうですが、法改正の賛否をめぐる在朝・在野法曹のやりとりで、そのことが立場を越えて、強い共通認識として存在し、あるいはぶつかり合うのを見てきました。制度を変えようとする側と守ろうとする側。案件によって攻守を変えて、それが示される場面。「問題」法案を阻止しようとするときも、現状の改善を求める新制度を提案するときも、対峙する側に、それこそ相当の説得力をもった根拠性を示せなければ、事は成就しない、という自覚を両者のなかに見る機会は少なからずありました。

      「5分5分ではもちろんダメ。4分6分でも困難」。かつて弁護士の口から、異口同音にこんな趣旨の言い方を耳にすることが度々ありました。確固として現行制度が存在しているなかで、それをあえて変えるということが、どれほど難しいのかという例えです。制度を維持しようとする側がどうにも言い逃れができない、圧倒的な根拠性を突き付けられなければ、山は動かない。それを甘く見てはいけない、ということを突き付ける同志側への叱咤ととれました。

     思えば、議論で今でもよく登場する「国民に通用しない」という忖度論も、その「どうにも言い逃れのできない、圧倒的な根拠性」の有無の点を、強調してみせる、程度の表現ということができます。

     ただ、一方で、この目線で議論を見ると、妙な気持ちに陥ることが度々あります。制度を変えるにあたって、示さなければならない「圧倒的な根拠性」は、いうまでもなく、これまで「確固」として存在し、時に法律で強制してきた制度の、いわば存在意義の証明でなければならないはず、という点です。つまり、有り体にいえば、変える理由が必ずしも「それ相当」にはとれず、あっさりと鞍替えするように受け取れるものが現実化した時、疑問はむしろ長く存在してきた既存の制度の意義にいく、ということです。「じゃあ、これまでは何だったのか」と。

     時に立派な理念と存在意義が掲げられ、維持・推進する側が胸を張ってきた制度、あるいは国民が信じ、信頼してきたその制度が、変えられること。今回の司法改革では、前記共通認識に対する推進側の自覚については、少々、疑いたくなるときがあったといわなければなりません。常に新制度が過去の全否定によって、成り立つわけでもなければ、その違いは新制度の「成果」によってのちに示されていくこともある、ということがいわれそうですが、そうだとしても、どうなんだろうという疑問の焦げ付きが残るのです。

      「決してこれまでの司法研修所教育が悪かったというわけではない」。法科大学院制度に協力するという立場になった最高裁の関係者は、「改革」当初、繰り返しこう語りました。彼らには、その制度導入の先に台頭する修習無用論への明らかな脅威がありましたが、それと同時に、いわば前記「確固たる」の部分への強い自負がありました。ここを強調しなければ、これまでの理念や実績との間で、「筋が通らない」と彼らが考えたのだとすれば、それはむしろ分かりやすい話です。

     その時、「では、なぜ、今、法曹養成の中核を法科大学院に譲るのか」と問えば、そこで必ず返って来るのは「数」でした。「改革」の規定方針化されていた法曹人口増員政策の前に、司法研修所の現実的物理的な限界が強調されたのです。司法修習も含め、いわば協力関係で構築される新「プロセス」であったとはいえ、今にしてみれば、「数」の問題を除いたときに、その内容、法曹教育の「質」において、自分たちが支えてきた現行制度ではできなかったことを、その時、裁判所関係者がどこまで新制度に期待したのか、そこには率直にいって疑問があります。あくまで印象と断りますが、いうなれば、多分に「お手並み拝見」的な面があったようにも思えるのです。

      「改革」の流れのなかで、ここであくまで慎重論や疑問を掲げるのは、得策ではない、結果はやってみれば分かるといっているようにとれる、政策的な方針選択です。当初反対していた司法への国民の直接参加に、一転、協力姿勢を示すことになった裁判員制度についても、その匂いがあります。

     平成28年(2016年)までに司法試験年間合格者を1500人程度とすることを盛り込み、公開された4月9日付けの自由民主党政務調査会司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議の「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」(「司法試験合格『1500人』で問われるべきこと」)を見て気になるのは、やはり前記焦げ付いてしまう疑問です。そこで掲げられているのは、いまや見飽きたような「改革」の理念を踏まえたうえでの、1500人方針に転換しなければならなくなった理由としての現状認識。後者に当たる、「法曹となるまでの時間的・経済的負担感の増大、司法試験合格後の就職難等を背景とした法曹志望者(法科大学院受験者、同入学者等)の減少が続き、有為な人材が法曹を目指さないという深刻な状況」はどれも的確だと思いますし、少なく合格数目標について減員方向に舵を切ることに迫られた、まさしく緊急の「理由」であることは、もちろん理解できます。

     ただ、どうしても全体を読み通して不十分さを感じてしまうのは、むしろ「過去」への示しといっていい部分です。つまり、なぜ、今こうした問題が起こっているのかにつながるはずの、「改革」がどこをどう間違えていたのかという点。それは、旧制度を否定した「改革」の存在意義への説明でもあるはずだし、これからも続けられる「改革」についてのそれでもあるはずです。こういう現状なので、こう変えることにしますだけでは、この間に代償として失われたものを考えても、すべての説明になっていないように見えるのです。

      幸いにも、この部分に関しては、「想定外」という、推進派にとって非常に都合のいい、とらえ方があります。あるいは「責任」という問題が見えてくる過去にさかのぼる検証を避けようとする意図からは、まさしくこの言葉は、「いまさら過去をほじくり返しても建設的ではない」といった調子を伴った、推進した彼らにとって非常に穏当な形の括り方になるのかもしれません。しかし、これからの更なる代償を考えれば、こここそ、今、ここでこだわらなければいけない点のように思えるのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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