司法試験合格「1500人」で問われるべきこと

     わが国の法曹人口は、毎年何人増やすことが、適切・妥当なのか――。このことについて、現実的には今、弁護士会のなかにはさまざまなとらえ方が存在しています。具体的には、年間司法試験合格者数について、かつてのような「500人」規模、「1000人以下」、日弁連が掲げた「1500人」、あるいは現状の「2000人」規模の維持、さらには口外するかどうかは別に、「改革」路線がひとまず旗を降ろした「3000人」にいまだに未練ありげのようにとれる向きまであります。

     ただ、こうした状況とはうらはらに、今、この具体的な合格者数をどうするかというテーマが、必ずしも会内の最大争点でもなければ、最大関心事でもないという話が聞こえてきます。もちろん、この数の危機感そのものにも、弁護士会内の意識にはハラツキ、格差があり、違うとらえ方をされている方もいるとは思います(「『司法を考える会』発足の危機感」)。しかし、あえて前記とらえ方に沿ってみると、やはり「3000人」の旗が降ろされ、それこそひとまず減員の方向がみえた現在の状況が反映しているようにみえます。

     そもそも法曹人口の数の問題は、明らかな根拠性を示しにくい議論ですが、「改革」路線を維持している日弁連・弁護士会主導層の発想としても、とりあえず「1500人」目標を、会内の最大公約数的な扱いとして、更なる減員を求める会内世論に対応する姿勢で、なんとかなるとみているようにとれます。また、会員間に本音の部分で更なる減員を求めたくても、当面、現実問題として事態は大きく動かない、とみるとらえ方、さらには「法曹有資格者」や法科大学院問題などを優先視すべきとするとらえ方があることも、前記した話が聞こえてくる会内ムードに反映しているとみることもできます。

     最近の動きとして、自民党の司法制度調査会が司法試験合格者数を平成28年(2016年)までに「1500人程度」、公明党のプロジェクトチームが「まずは1800人程度」とする提言をまとめたことが報じられています(4月9日付けmsn産経ニュース)。自民調査会の議論では、当初「500人」というラインが取り沙汰されていたこともあり(「待ったなし法曹養成・法曹人口の抜本改革~①合格者数は当面年間五百人以下に~」)、弁護士会内にはその点でさらに期待を寄せる声もありましたが、とはいえ流れとしては、「1500人」が今後の軸になる可能性が出てきていることも確かです。

     ただ、それだけに今、この数の問題について、冷静に確認しておかなければならないことがあるように思います。ひとつは、まず「1500人」で一体何が変わるのか、ということ。いうまでもないことですが、この数にしても、現下の過剰状態のなかで、弁護士はさらに増え続けます。有り体にいえば、今、問題となっている就職難や経済的な窮状が「2000人」で起きていることから考えて、この数がどれだけの変化をもたらすのか、ということです。

     現実的なことをいえば、この数が現下の状況を大きく変えるだろうと考える弁護士の方が、おそらく圧倒的に少ないと思います。逆に言うと、現在、日弁連は弁護士の活動領域拡大を唱えていますが、その効果・成果によって、この数でも前記問題が解消に向かうというヨミに立っていなければならないように思いますが、果たしてどこまでそうした発想から逆算されているのか。そこは、問われなければなりません。

     前日弁連会長は以前、経済誌のインタビューのなかで、「1500人」は「肌感覚」で出てきた当面の数値といったことを述べていますが(ダイモンド・オンライン「弁護士界の憂鬱 バブルと改革に揺れた10年」)、現会長も前記ヨミを含めて「肌感覚」で大丈夫ということなのでしょうか。

     もう一つは、法曹養成全体のなかでの「1500人」の意味です。法科大学院制度を中核とする新法曹養成に被せられた、法曹量産の要請が大きく減退すれば、キャパという意味を含めて、かつて「物理的に不可能」とされた司法研修所を中心とした法曹養成の限界論には、一定限度反する状況が生まれた、とみることができます。逆に言えば、いよいよ法科大学院制度は、その教育内容の「価値」で勝負しなければ、その存在意義がさらに問われる状況になった、ということです(「法科大学院本道主義強制に見合う『価値』」)。ここをどう見るのか。

     そして、もう一つ付け加えるならば、司法審「改革」路線は何だったのか、という点です。来るべき事後救済社会で、国民生活の様々な場面で法曹に対する需要が、多様化・高度化することが予想される中で、司法を支えるための人的基盤の整備として、その量の大幅拡充が不可欠とした「改革」路線。「3000人」方針は、そのどうしても必要となるわが国の未来像、あるいはそのヨミの先に導かれた数のはずでした。その少なくとも半減が現実化するとすれば、「改革」の描き方は一体何だったのか。これはどういう見積もり違いなのか、あるいは根本的な描き方そのものに欠陥があったのではないかを含めて、当然、見直されていいはずです。

      「数」をめぐり、弁護士会のなかに広がる「小康状態」的なムードのなかで、今、問われるべきことが問われなければ、弁護士・会はさらに後戻りができないところに落ち込んで行くように思えてなりません。そして、その先に果たして私たち社会にとって、果たして何かよいことが待っているのか、そこもまた疑わしくなってきているのが、この「改革」の現実というべきです。


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    No title

    司法試験のザル化は確かに問題ですね。
    確か、一年目から合格率48%でしたからねぇ。

    No title

    司法試験がザル化?
    法科大学院の入試と教育が厳正なら、そんなもんザルでいいはずでしょ。
    医師試験は9割が合格してますが、誰がそれを問題にしてますか?

    司法試験の合格率じゃなくて、法科大学院の入試と教育こそを問題にすべきでしょう。
    まずは、デタラメで恣意的な入試をやって、しかもそれを誇示(短答合格者を故意に落とし、法律など何も知らない外資系企業出身だの東大理系だのを優遇)した挙げ句、未だに失敗の責任を認めずに居直り続ける輩の排斥。組織に大損害をもたらした幹部をそのままのさばらせる連中が、コンプライアンスがどうのなどと、笑止千万。

    No title

    ロー入学者が2200人程度という話がありましたが、合格者1500人だと、滞留者の問題を考えても、あまりにも司法試験がザル化することは、避けられないように思います。
    合格者数が何人という問題よりも、そっちのほうがかなり問題だと思っています。これで司法そして弁護士は市民の役に立てる集団になれるのでしょうか。

    No title

    受験者が500人を切るのは時間の問題
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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