「財政事情」で消される「給費制」の意味

     司法修習生の「給費制」廃止の根拠として、最も強調されたのは国の財政的な問題です。つまりは、今回の司法改革で、新法曹養成制度や日本司法支援センター、裁判員制度といった多額の財政負担を必要とする諸施策が導入されており、制度全体の整備を進めるうえで、これ以上の国庫負担は国民に理解されないのだ、と(「『法曹の養成に関するフォーラム』第一次とりまとめ」)。

     そもそも「給費制」の実態も、その趣旨も多くの国民に伝わっているのか疑わしいなかで、どうして早々に「理解されない」、つまりは認めないという国民の意思を忖度できたのか、という疑問はあります。それはともかく、要は増員政策とともに増え、2007年には年間100億円を突破した「給費制」予算は、現在の財政事情からいって、当然に削らなければ、「国民の理解」が得られないものとされたわけです。

      「給費制」を存続すべきという側から、その趣旨に関わるさまざまな反論が出たなかで、最近でこそ、あまり耳にしなくなった印象がありますが、当初この「財政事情」にかかる部分について、あることがよく言われました。「仮に財政的な問題がなくなれば、『給費制』はいつの日にか従前のように復活することもあるのか」――。

     こういうことを言えば、人によっては、ほとんど想定できないようなことをいう揚げ足取りのように、片付けたがる向きもありますが、必ずしもそうとばかりはいえません。なぜならば、上記のような仮定が成り立たない、つまり、今後の財政的な事情如何にかかわらず、「給費制」は戻って来ないというのであれば、じゃあこれまでは一体、何だったのかという疑問が当然に起きてしまうからです。つまり有り体に言えば、これまで国の財政的に潤っていたときはそれほど問題にならなかった制度だけれど、そうでなければ、そもそも削られてもいい制度という扱い。別の見方をすれば、ある種の「恩恵」的に与えられてきた制度のような扱いになってしまうからです。

      「当然」のあるべき制度ではなく、あくまで「恩恵」的制度でわれわれは法曹になったのか――。かねがね「給費制」問題とは、一面、この制度を使った現役法曹自身に対して、このことを突き付けるものでもあるようにも思えていました。

     そう思っていたところ、今年、ある弁護士によって、そのことが裁判の場で直接問い質される場面を目にすることになりました。1月20日、給費制廃止違憲国家賠償九州訴訟第1回口頭弁論での、共同代表・德田靖之弁護士の意見陳述です。このなかで、德田弁護士は、2年間の修習期間に支払われた給与によって、実家への仕送りと生活ができた、そして法曹になれた自らの経験をもとに、2年間の修習は仕事に献身できる弁護士として育てるために憲法が定めた法曹養成システムであり、修習生に対する給与は、それゆえに「憲法が私に支払ってくれたもの」と思ったとしたうえで、裁判長に問いかけます。

      「貸与制は、詰まるところ、国の財政事情をその制度設計の最大の論拠にしているものです。法曹養成にこれ以上莫大な国家予算を割くことはできないという、いわば政策的な理由で給与制を転換したものにすぎません」
      「ですか、裁判長、考えてみてください。私が司法修習生になった昭和42年の私たちの国の財政事情はどうだったのでしょうか。否、戦後司法修習制度が創設された当時の日本は、敗戦による経済的破綻から全く立ち直ることができなかった時代です。その財政的事情の厳しさは、今日の比ではありません」
      「そうした中で、司法という国の大本を担う法律家を育成することが、日本国憲法の基本的要請であるということを共通認識としてスタートしたのが、給与制という司法修習制度だったのです。ですから、こうした制度は、国の財政事情に左右されることのない権利として、憲法によって確立されたものだと私は確信してきました」
      「裁判長、あなたが、あの2年間の修習時代に受け取った給与は、たまたま当時の国の財政事情が良かったために、国の政策として維持された恩恵的なものだったのでしょうか」

     この言葉が、裁判長の胸にどう響いたのか、今の段階では、もちろん分かりません。このあと德田弁護士は、もし今の国の財政事情から裁判長が貸与制やむなしと考えるならば、給与は国に返還すべきであり、自分は本件訴訟が敗訴すれば返還を決めている、憲法によって支払われたという根幹が崩れる以上、そのままもらっておくわけにはいかない、とまで言っています。

      「給費制」という制度がいかなる意味を持った制度だったのか、ましてや德田弁護士のような強い思いを持った弁護士が現実にこの国にいることなど、およそ多くの国民は知らないはずです。「財政事情」を掲げた「改革」からの一方的な「理解されない」という民意忖度で、この制度がこの国から永遠に姿を消してもいいのか、果たしてそれが本当の民意なのか――そのことがもう一度、問われていいように思うのです。


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    誇り高き医師と、誇りなき輩ども

    反インターン闘争で国家試験ボイコットを敢行した、当時の医学士の皆さんを尊敬します。

    司法試験ボイコット、やってみたらどうです? すごいインパクトがありますよ。
    絶対にできっこないと、確信しますけどね。特に、四大事務所とやらに入って書類イジリで金儲けしたいだけの連中がひしめいてる東大の法科大学院は。

    No title

    真に受けなくてもねえw

    行政書士には天下無敵の片山さつき先生がついておられる。

    弁護士とは比較にならない高い市民サービスを実績に
    いまに行政書士は街の法律家として司法の中核を担うことになるでしょう。

    No title

    >弁護士は自分の金で「自己」研鑽をつんでせいぜい競争して市民サービスを提>供しなさい。
    >行政書士や暴力団の方がよほどサービスがいいですよ。

    じゃあ、行政書士や暴力団に頼めば?
    というか、比較できる時点で、もう依頼しているんだよね。

    競争したら市民サービスなんて非採算的な分野からは撤退するに決まっているだろ。情弱の上に救いようがない思考の持ち主だな。


    No title

    9:36投稿の方へ
    依頼者のお金の横領は最低限の職業倫理すら守れていないことになりませんか?依頼者の自己責任ではないでしょう。

    No title

    給費をなくすのが正しいとは思いませんが、売名行為のために裁判をしている人たちも非難されなければなりません。

    給費をなくすということは、少なくとも弁護士は単なる商売とみなす、ということですから、最低限の職業倫理と法律さえ守れば、あとは何しても良いということになりますね。
    まして、金の払えない人のために動く必要などないはず。
    新人は借金だらけですが、これを返済するために、依頼者に上乗せして請求することや、借金苦の挙句おそらく多発するであろう横領も、依頼者の自己責任ですよね。だって、これだけ、65期以下は、借金だらけと報道されてるのですから。

    No title

    国公立医学部も私立医並にとは言わないまでもしっかり学生にも請求すべきですよね。
    医者という個人資格のために国が特別援助する必要なんてないでしょう。
    私立医の学費を考えたら相当の税金をつぎ込んでるはずです。
    国が無職を1年間拘束することが何ら憲法上支障がないんですからもっと他の部分の支出も削減すべきです。

    No title

     こんな訴訟なんの意味もない。こんな無駄なことしてないで、日弁連が自民党の最大派閥に小切手でも切ればいいじゃないですか、昔の歯医者さんたちみたいに。市民運動的なやり方よりそっちの方がよっぽどいい。

    No title

    弁護士は自分の金で「自己」研鑽をつんでせいぜい競争して市民サービスを提供しなさい。
    行政書士や暴力団の方がよほどサービスがいいですよ。


    まして,国民は三権分立なんか求めてないんだから

    高等文官時代はなかった自営業である弁護士候補へ、戦後のどさくさに紛れて行われてしまった給費が、廃止になったことは、一市民として、司法改革の数少ない成果だと思っています。

    No title

    弁護士の仕事なんて趣味で勝手にやっていることで
    社会的にも意義がないんだからで税金を使うなんて論外ということか。

    さらに政治家だって趣味で勝手にやっているんだから
    政党助成金はもちろん歳費だって支払うべきではない。
    自分の金で勝手に政治活動をやれってことになるんだろうか。

    No title

    裁判はほぼ確実に敗訴でしょう。
    終戦直後の修習生の給与っていくらなんですかね?
    物価スライドを考慮せずに、全部で5000円くらいだったから、と返すのですね?
    自分の言葉に酔っていらっしゃるようですが、そんなんだったら裁判せずに代理人が自分の給与を貸与制の修習生にあげたらいいじゃないですか。

    裁判に負けたら給料返納?弁護士として尊いとか気高いとか思っている気持ちの悪い人の寝言でしょう。

    それで裁判所に圧力をかけたつもりなんでしょうが、吐き気がします。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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