「予備試験」制限をめぐる一場面  

     予備試験の存在が、法科大学院本道主義に深刻な影響を与えている、なんとかしなければならないという認識が、参加者から次々と示された2月25日開催の法曹養成制度改革顧問会議第6回会議で、吉戒修一顧問(前東京高等裁判所長)が、次のように述べています。

      「なぜ、こういうふうな状況になったかと言えば、それは、法科大学院の教育が本来の理想に沿った形で運営されていないと、要するに期待に応えていないということがあるわけです。しかも、現在の法曹養成は、旧制度に比べますと、非常に修業年限が長くなっています。法学既修者でも法学部の4年に、法科大学院が2年と、そして修習の1年ですから、昔より長いわけです」
      「だから、なるだけ早く司法試験に合格して、早く実務に出たいと、あるいは経済的な負担をなるべく軽減したいという気持ちで学生が受験するということは、これは、ある意味で自然な流れでありまして、それを余り人為的にだめだというふうに言うのは、それはちょっとどうかと思います」
      「だからこそ、現在でも司法試験法の規定そのものが、受験資格を経済的に困難な者とか、あるいは社会経験がある者という形で絞り込もうとしたけれども、結局、できなかったわけですね。そういうふうに制度的に予備試験を制限するのは非常に難しいのです」

     この日の参加者のなかで、予備試験制限の方向に、はっきりと慎重な姿勢をとったのは、吉戒氏唯一人でした。と同時に、彼だけが法科大学院側の提供できていない「価値」の問題の方を重く見ているようにとれました(「法科大学院本道主義強制に見合う『価値』」)。彼は文科省のアンケートが大学側の声を聞いたものであれば、予備試験組増加を懸念する否定的なものになるが、ユーザである法科大学院の学生の声も聞くべき、としています。また、参加者から出た年齢制限の必要性についても、こうした資格試験の年齢制限は憲法上の問題があるとまでして反対しています。

     これに対する、他の参加者の反応は、必ずしも彼の主張とかみあっていないように見えました。要は、予備試験の現実的な影響と、同試験の「本来の趣旨」論で、「なんとかしなければ」の方向を押し切ろうとしているようにしかとれませんでした。こうしたなかで、気になったのは、宮﨑誠顧問(元日弁連会長)の姿勢です。

      「もちろん弊害をもたらしている予備試験の改革も必要だけれども、やはり、多角的な制度改革、例えば法科大学院の大幅な統廃合による合格率の上昇、あるいは司法試験合格者数の抑制による就職難の緩和、更には経済的な支援、こういうものが相まった対策をとられなければ、こういう風潮に歯止めをかけるということはできないと考えているところです」

     彼は、司法試験合格者数問題を含めた対策の必要性を強調していますが、予備試験の法科大学院への影響を「弊害」と指摘しているように、あくまで「なんとかしなければ」の立場です。吉戒氏の予備試験制限は法制度的に困難とする主張にも、彼だけがはっきりと「決してそんなことはない」「世論とか、そういう動きがきちんと盛り上がってくれば、いろいろな方法が考えられる」などとしています。

     世論が盛り上がれば、法制度的に困難ではなくなるようにとれる発言もよく分かりません。ただ、気になるのは、最近、日弁連内で、法曹人口抑制の方向の主張と予備試験制限・法科大学院本道主義の擁護の立場をつなげる論調が強まっているという話が聞こえてくることです。論拠として分からない部分がありますが、要は前者を主張する以上、予備試験のなんらかの制限はやむなしという立場で、制限反対は、あたかも会内にある合格者減の主張と両立しないという点を強調するもののようです。

     宮﨑氏のこの日の発言は、こうした日弁連内世論を反映しているようにもみえなくありません。「カップリング」論ともいえるものが、今後、日弁連・弁護士会内から、さらに強く主張されて来るのでしょうか。宮﨑氏が盛り上がることを期待する「世論」とは、それこそ予備試験「けしからん」という「抜け道」論のようにもとれますが、それもまた日弁連・弁護士会主導層が強く後押しすることになるのでしょうか。

     吉戒氏は、こう言います。

      「問題なのは、ロースクールに進学していながら予備試験を受験しているという方が増えてきているのが懸念されるところなのだと思いますけれども、やはりロースクールの方もしっかり教育してほしいわけです」
      「例えば、ロースクール在学生は受験してはならないなどというルールを作ると、恐らく今度はロースクールに行かなくなるのではないかと思います。問題は、ロースクールの教育をきちんと期待されるようなものにすべきだと思うのです。それが実現できていないから、こういうことになるのです」

     この会議でいかに少数の意見であっても、どちらが問題の本質と現実を直視しているのか、そして、今後、どういう立場が、それについての「世論」の正しい理解を阻害しかねないのか。そのことを私たちはしっかり監視していなければなりません。


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    No title

    「地域に根づく法曹云々」→地方の法科大学院適正配置論、というのは、結局のところ、せっかくつくった城を落城させたくないがための、後付の屁理屈にすぎない、と断ぜざるをえないでしょう。

    こういう無理な屁理屈を唱え続けること自体、弁護士の品位を下げ続ける行為として、とても耐え難いものがあるのですが・・・

    No title

    法科大学院推進派からは、予備試験が本来の趣旨とは異なる利用の仕方をされているとの批判がされていますが、それならば法科大学院は、本来の趣旨をまっとうする形の運用をしているのでしょうか?

     地方の法科大学院は、地方に在住する人のために、そして「地方に貢献する法曹」を輩出するために創設されたのではないのでしょうか?
     適正分布を盾にとりわずか数人の入学者でも立て籠もるという態度は、「法曹養成」目的というよりも、一年でも長く存命する目的としか映りません。
     各地方法科大学院のHPをご覧になってみてください。全国主要都市での受験会場の設置、ひどいローになると修了生のための就職先斡旋の勤務地のすべてが東京というものもあります。
     地方に根付く法曹の養成など眼中にない、ということはこのことで明らかではないでしょうか? (参照:福岡の家電弁護士ブログ) 
     なぜ、法科大学院の矛盾に対しては問題視されず、予備試験受験生ばかりが批判されるのでしょうか?

     武本夕香子先生がブログを更新されました。関係者諸氏には、この弁護士のブログを最初から拝読していただきたいものです。
     司法改革についてのご意見に、当初からまったく矛盾もぶれもない、違和感も感じない、極めて公正なご意見が論理的に美しい文章で展開されており、弁護士とは法律家とはかくあるべきだと感じ入りました。
     

    No title

    この宮崎誠とかいうのは、元日弁連会長ということは弁護士なんだよね、たぶん。
    自分の事務所では法科大学院、それも下位のロー卒の弁護士を採用しているのかな?
    予備試験の合格者を採用するくらいなら、下位でもロー卒を選ぶんだよね。
    本道主義の法科大学院優先だよね。

    もし違うなら、言動不一致だろ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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