「経済的安定」という弁護士ニーズ

     弁護士を選ばなければならないとして、仮にここに経済的に安定した弁護士と、そうでない弁護士がいた場合、あなたはどちらを選ぶか――。多くの人にとって、これは聞くまでもないことのように思います。おそらく、経済的な安定度を基準としないといった中間的な意見も少なく、圧倒的多数の人は前者の弁護士と回答すると思います。

     これは、弁護士との、より「安心」な出会いと関係を求める、依頼者・市民の心理として、理解することは容易です。これから弁護士を含め、司法におカネを投入しなければならなくなる依頼者・市民にとって、弁護士のカネ取り主義には巻き込まれたくない。素人として、弁護士がこれから繰り出してくる提案の妥当性を100%判断しきれない、いうなれば弁護士のペースで進められかねない状況下にあって、やはり経済的に不安定な弁護士が、自分たちに不利益な結果をもたらすことを市民側が恐れるのは、ある意味、当然といえば当然です。昨今の依頼者のおカネに手をつけた形の弁護士不祥事の多くが、経済的に行き詰った弁護士によるものととれる報道を目にしていれば、なおさらといわなければなりません。

     もちろん、経済的に安定している弁護士がカネ取り主義に走らないとも、逆にカネ取り主義ではないために経済的に不安定な状況に置かれている弁護士がいないとも、いえません。ただ、残念ながら、前記した中間的な意見に、依頼者・市民が立てるほど、もはや弁護士一般に対する社会的な信頼が担保されているかどうかは疑問です。むしろ、現実的には、経済的な安定・不安定だって、必ずしも依頼者・市民が見抜けるわけではなく、弁護士側がいくらでも、それを装うことができると考えてしまえば、やはり依頼者・市民の立場は、不利ということもできてしまいます。

     そして、こう考えてみて、改めて思うことは、弁護士になった時点で、既に1000万円もの借金を背負う状態まで生み出している新法曹養成制度は、本来、「安心」な弁護士との出会い・関係を求めている依頼者・市民の求めにこたえていない、むしろ完全に反しているといえないか、ということです。多額の借金を抱えたような弁護士の量産を、社会が求めているわけがないということです。

     法曹の卵の経済的な状況を決定的に追い詰めることになった「給費制」廃止をめぐっては、弁護士は結構儲けているという前提で、あたかも「やれるか」「やれないか」という視点や、彼らだけ修養費用が自弁でないことの「不公平」感ばかりが強調され、社会に「通用しない」論が廃止論の立場から振りかざされた印象があります。しかし、本当に「通用しない」のでしょうか。経済的に不安定な弁護士の量産という現実的なリスクを負ってまで、本当に「給費制」に目くじらを立てる利用者・市民がどれだけいたのだろうか、という気がしてくるのです。

     たまたまつけていたテレビで、司法修習生たちの経済的窮状を伝える、短いリポートを目にしました(FNNニュース「『法曹の卵』が直面する、厳しい現実を取材しました」)。リポートは「給費制」廃止によって、「借金を抱えて弁護士デビュー」を余儀なくされている「卵」たちの現実にスポットを当てます。夕食をカップ麺で済まし、1年間の給料ゼロを乗り切るため司法修習生の姿。毎月23万円の貸与金で生活。家賃や食費などの生活費はもちろん、弁護士の登録費用や交通費なども、全てここから賄わなければならない状態の彼は、「まだ恵まれている方」で、大学、法科大学院のころの借金(奨学金)150万円で、毎月の返済は1万5000円ずつ。「借金で借金を返済している」と話す。司法修習終了時、貸与額はおよそ300万円、奨学金とあわせて410万円借金でのデビューへ。「お金になる事件ばっかりを追いかけるような弁護士」の増加や、自分がなることへの懸念ももらす。貸与制利用は、司法修習生の85%。借金の平均額は、340万円。1,000万を超えている人もざら――。

     リポートは給費制廃止違憲訴訟のことにも触れ、短い時間のなかで、それなりに「卵」たちの置かれた経済的に苦しい状況、さらにいえば、大衆のなかにあるイメージとは相当に懸け離れた現実を伝えているように見えました。

     それは、ある意味、経済的な苦境を伝えながら、さまざまな分野に挑戦している若手の姿を映し出して、最終的に「改革」への望みをつないでいるようにもとれてしまう、新人弁護士たちにスポットを当てた番組や新聞報道(「NHK『司法改革』番組の後味」 「弁護士『追い詰め』式増員論の発想」)の扱いとも、若干違うという印象を持ちました。今回の司法修習生が置かれている現実を報じているリポートは、問題だけをそのまま伝え、「救い」や、この現実を肯定する余地を伝えていない。いうなれば、よりストレートに「改革」がもたらした現状に対する疑問を視聴者に喚起するもののようにとれたのです。

     この「改革」が現実的に利用者にどういうリスクを負わせる方向で進んでいるのか、そうしたリスクを負ってまで、大衆はこの「改革」に価値を見出し、支持するのか、そして、それでも進もうとする「改革」は、本当は一体、「誰のため」のものなのか――。依頼者・市民が求める「安心」「安定」した弁護士との関係が、より崩れる方向に進んでいるとしかとれない現実から、今、改めて問われなければならないことのはずです。


     「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
     【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
     【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
     【法曹養成】「予備試験」のあり方をめぐる議論について意見を求めます。
     【弁護士の質】ベテラン弁護士による不祥事をどうご覧になりますか。
     【裁判員制度】裁判員制度は本当に必要だと思いますか

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    ジャンル : 就職・お仕事





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    No title

    二つ前のコメントはアベシンゾーくんです。
    本心でしょう。

    No title

    ネタですか?

    だから弁護士も裁判官もいらないって。
    国民が国家の権能としての司法を否定してるんだから。
    裁判所を行政機関の下部組織にして、弁護士会も変な意地はってないで、偉いお役人を天下りに迎えたら楽になるよ。

    No title

    弁護士は経済的に安定していないと精神的にも安定できません。
    したがって、経済的な安定は必要不可欠です。
    公益活動をする弁護士というのは金も時間も余っている人たちなので、その境地に至ることのできない弁護士は、まず経済的に安定することを目指さなければなりません。

    No title

    非弁だろうがなんだろうが、どうせもう日弁連は弱体化して何も言えなくなったぜ。
    弁護士の弊害を焚きつけて、素人相手の裁判コンサル始めちゃうぜ。

    No title

    弁護士犯罪の比率の話。わたくしは、弁護士など信用していないので、給与制、貸与制も関係ない。職業として弁護士を選ばなければ1000万の借金もないはず。医者ならもっと掛かっている。
    現実問題として弁護士犯罪は増加の一途。
    弁護士会が普通の会社なら、これだけの逮捕者だせば潰れてる。

    No title

     弁護士は特別ですよ。前のコメントにだって弁護士は特別じゃないなんて一言も言ってません。弁護士は特別です、国家権力に対峙しなければいけない社会的責務を負った大切な人たちです。だからこそ国に経済的に寄りかかっていいのかと言ってるんです。
     国に金を出させることが弁護士にとって本当にいいことなのか疑問です。現に給費制やめますってだけで弁護士業界は大弱りじゃないですか。別に私の考えが100%真理だと言ってるんじゃないですよ。しかし経済的に国に頼ることで付け入る隙を与えているという考え方も出来るでしょうということを言ってるんです。スポンサーは強いんですよ、どこの世界も。

    なぜ弁護士は給費制のような特別扱いを当然と考えているのか、という疑問が出ていましたが。

    特別でしょう?
    特別の対義語は普通。
    普通の人が、司法試験に受かりますか?二回試験に耐えられますか?弁護士としての職務をこなせますか?たとえば、被疑者から必要なことを的確に聞き出せますか?人の人生を変えかねないジャッジをできますか?捜査機関による取り調べに対して、その不当性を堂々と批判できますか?怖い暴力的な相手方と対峙できますか?そのような極限状況の中で、正確な法律的判断ができますか?
    これが全てできるのは弁護士だけでしょう。

    No title

    一つ前の方
    釣り?
    真面目に相手して方が良いの?

    修習生時代の給費制と弁護士になってからの着手金に何の関係があるの?

    つか、着手金50万円にしたら着手金が50万円で費用対効果の合う事件しか弁護士に持ち込むなという話だよね。
    元々弁護士強制じゃないんだよ。

    まあ、コメント主は司法書士なんだろうけど、釣られてあげたよ。
    これで満足?

    弁護士費用の最低額カルテルを認めるほうがいいでしょう。民事訴訟の着手金を最低50万円からにすること。それなら、給費制度なんかいりません。
    新聞など、あれほどまでに人権を侵害し、今や世の中を堕落させるような報道まがいのゴシップペーパーに成り下がっているのに、再販制度で守られていることを思えば、弁護士の社会的貢献度からすれば、みとめられるでしょう。立憲主義とか一般の人に関係ないという書き込みがありましたが、ならば、一般の人は弁護士になど用事はないですよね?したがって、実害ありませんよね。
    日弁連は、運動の方向性を間違えています。

    No title

    冗談抜きで、弁護士にもソルベンシーマージン比率が1を切った場合には資格停止にするくらいの運用があってよいと思いますけどね。
    そうすれば預かり金に手を出す=即資格剥奪になりますからね。

    この導入に反対するのはむしろ司法改革を進めてきたアホどもだと思いますけどね。

    No title

    >今、依頼者のお金に手を付け懲戒もしくは、実刑判決をうけているのは、給与制だった弁護士の犯罪。

    そんなに給与制だった弁護士が信用できなければ貸与制の弁護士に依頼すれば。
    彼らも借金1000万円抱えてイソ弁にすらなれずにいきなり実務に放り込まれるから、あなたのような理解のある依頼者は喜ぶと思うよ。

    No title

    >三権分立なんてのも時間がかかるだけなんだから憲法改正してさっさと廃止。

    アベシンゾー君がこのブログに投稿しているとは知りませんでした。

    No title

    今、依頼者のお金に手を付け懲戒もしくは、実刑判決をうけているのは、給与制だった弁護士の犯罪。
    私が弁護士をつけて訴訟をしていた頃、和解の場合は、和解調書作成当日、自ら和解条項骨子案を作成し、和解金を自分の口座指定にした書面を、直接、裁判官に手渡していた。なぜなら、裁判終了後、代理人であったその弁護士を紛議調停に付すつもりでいたから。今後、さらに増えるであろう弁護士犯罪に向け、高額金額を扱う弁護士には、各弁護士会が保証人になり所属する
    弁護士に多額の借財がないこと把握しておく必要がある。

    立憲主義、罪刑法定主義、適正手続、無罪推定、黙秘権諸々一般国民にとってはムラ用語でそんなのいるの?
    国民の感覚からすると犯罪者を守っているだけの悪しき制度。
    三権分立なんてのも時間がかかるだけなんだから憲法改正してさっさと廃止。

    No title

    そう遠くない将来において、弁護士が代理人として判決に基づく執行や和解金の受領をする場合、依頼者本人から、担保を要求されるようになるのでしょう。
    もしくは、口座を分離しており、依頼者のお金には一切手を付けませんという念書を作成するよう求められるとか。

    まさに司法改革の成果ですね。
    胸が熱くなります。

    No title

    東京では,既に年間刑事事件数(正式裁判になったもの)より登録弁護士数の方が多いという状態になっており,国選弁護人の仕事は抽選制になっています。国選を年に4件もやるなんて,どう考えても不可能です。
    また,法科大学院の授業料に関しては,他の大学院専攻課程との均衡という問題があって,制度発足前から「なぜ他の専攻課程と比べて,法科大学院(生)ばかり優遇されるのか」という批判がかなりありました。現行の奨学金制度さえ,給費制の廃止を引き換えにするぎりぎりの交渉で,かなり無理をして勝ち取ったという経緯があるのです。
    現状では,法科大学院教育が法曹の質の向上に全く役立たないことが明らかになっており,明らかな税金の無駄遣いである法科大学院制度を維持するという前提では,もはやいかなる構想も国民の理解を得るのは難しいと思いますね。

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    No title

    一つ前のロー関係者へ。
    ローの補助金も否定しろよ。

    間抜けなローを関門にしなければ、給与制が貸与制でも文句を言う奴は今よりずっと少ないと思うぞ。

    No title

     給費制か貸与制かの議論を聞くといつも思うんですが、どうして弁護士さんたちは国から資金的援助を受けることを当然のことと捉えているんでしょうか。弁護士だけ特別と思うな、ってことではなく、国家権力と対峙するはずの弁護士が国からの資金援助を受けることに疑問を持たないのかなと感じるんですよ。
     在野精神溢れる弁護士なら、「国家権力の施しなど受けない」と叫ぶ人の一人でもいそうな気がするんですけど、給費制の時代にそんな人はいなかったんでしょうか。
     給費制が廃止されたこと以前に、そもそも国に経済的命脈を握られていたこと自体が問題だったのではないかと思います。給費制に戻せではなく、修習専念義務を緩和してアルバイトを認めろとか主張した方がいいんじゃないですか?先日少しだけ緩和されたんですよね?そうゆう主張の方が弁護士らしいと思います。あとはそれでも困窮する修習生に日弁連が何かしらの援助をするとか。

    No title

    報道レベルでは、若手の経済的問題として捉えられる事が多いですが、かかる問題に矮小化することは問題の所在を見誤ります。
    本当の問題は、ご指摘のように、そういう経済的問題を抱えなければ弁護士になれないことで、どういう問題が起きうるかという点です。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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