「自治体採用」というニーズの見方 

     注目されている自治体での弁護士・法曹有資格者の採用。「社会の隅々」に弁護士をいきわたらせるため、増員が必要としてきた「改革」路線の唱導者からすれば、強調・歓迎したい傾向だとは思います。ただ、ひとつ確認しておかなければならないことがあります。自治体に採用されるという形の弁護士ニーズが意味するものです。つまり、見方を変えると、市民のなかにある、大量の無償性の高いニーズに弁護士が対応するためには、基盤・下支えが必要ということを実証しているのではないかということです。いうまでもないことかもしれませんが、市民が行政に期待する、税金の使い道と結び付いたニーズに、弁護士が行政に組み込まれる形で応える形。つまりは、税金が使われて初めて活用される弁護士の在り方です。

     その意味では、これまたいうまでもなく、弁護士が自ら個別の業務で稼いだお金を会費という形で投入して、公的な活動を行う弁護士会とは全く違います。もっといえば、弁護士が努力して掘り起こしさえすれば、市民が司法におカネを投入する用意は沢山あり、どんどん現出すると見積もるような、増員楽観論とも違うというべきです。

     山岸憲司・日弁連会長のブログに、弁護士市長として、前記したような「改革」路線の発想に沿った、いわば「先駆的」ともいえる対応で注目されてきた兵庫県明石市の泉房穂市長との対談が掲載されていますが、この中でも同市長はこう語っています。

      「医者と弁護士はよく比べられますけれども、例えばけがをしたら病院に行きますよね。市民は、医療費に対して市民のお金を使うことには了解しています。同じように法的紛争に対しても、もしものときに備えて、保険制度のようにみんなでカバーできないか、知恵を絞る必要があります。地方自治体のお金も、ある意味みんなのお金なので、それを市民の法律問題へのサポートのために使うこともありうるのではないか」

     同市長は、このあと「一定規模の地方自治体には、法律の専門家である弁護士が少なくとも1名、常勤の職員として勤務」することとして、「その費用分は国が負担」する、全国で800市すべておいて弁護士が常勤職員として働くことになるように国が支援する形を、弁護士会が積極的に提案するよう求め、会長も、それに前向きともとれる受けとめ方をしています。

     つまり、はっきりしていることは、こうした動きを注目する(注目できる)ためには、まずはどこまで自治体がおカネを投入する用意があるのか、さらには税金の使い道として、市民がどこまでそれを了承するのか、という根本的な問題、あるいは前提か横たわっているということです。しかも、泉市長の発言のなかにあるような、国の負担や、800市すべての採用という形をいうのであるならば、なんていうことはない、実は無償性の高いニーズに対する、弁護士活用の公的基盤整備の是非にすべてはかかっていることになります。そこでは、今、弁護士のなかでも問題になりつつある「法曹有資格者」という括り方に対して、それで足りるニーズなのか、それともあえて「弁護士」なのか、という点(「ツンデレblog」 「福岡の家電弁護士のブログ」) も、ぼやけたままでいくわけにはいかないことになるはずです(「宮城県富谷町の『困惑』」)。

     自治体側には、弁護士の外部活用との関係では、実は現実の自治体行政に詳しい弁護士が地域に少なく、一定期間の職員体験が、そうした弁護士を育てるという発想もあるようです。今回、必要とされているのは、弁護士としての経験や能力よりも、「資格」であるというとらえ方についても、裁判所や検察庁同様、「若くて優秀な」人材を得て、育てるという発想に置き換えてみる見方もあるのかもしれません。ただ、いうまでもなく、明らかな違いは、自治体の場合、法曹が法曹を育てるのではなく、あくまで行政の内情に精通した弁護士・有資格者を行政機関の中で育てるということです。

      「改革」路線が、市民について描いてきたように、弁護士におカネを投入する用意を、今度は自治体について、楽観的に見積ることがあっていいわけもありません。しかし、それに加えて、そもそも本当に求められるものが何なのか、弁護士なのか、司法試験合格なのか、司法修習終了なのか、はたまた法科大学院修了なのかをぼやかしたまま、日弁連・弁護士会が期待・歓迎の姿勢を示すというのも、市民にとっては決して分かりやすい話でないことは、分かっておくべきです。


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    No title

    スタッフ弁護士である太田弁護士の取り組みが
    民業圧迫になるとは到底思えないのですが
    (それこそやりたい人がやればよい)
    弁護士HARRIER氏はいかなる論拠で
    スタッフ弁護士が民業圧迫だと主張されているのでしょうか。

    司法改革って、元々、二割司法の改善や、国際的紛争解決や、ビジネスローヤーを育てるとか、立法分野に法曹を配置して、法の支配を社会の隅々に行き届かせるといった、大袈裟な目的でしたよね。
    しかし、今では、アウトリーチだとか、福祉介護だとか、ミクロな分野に。もしくは、過払い回収とか交通事故とか、定形的事務処理をする弁護士ばかり。国際的紛争解決から随分と変節しましたね。
    もう、介護士に弁護士資格与えたらどうですか?名前も似てるし。
    ローで福祉を教えろというご意見がありましたが、どこの誰が高い金かけてわざわざそんなことするのか見ものですが、そんなコスパの悪いことに手を出す弁護士さんがいるとしたら、どこまでいきのこれるか、興味があります。

    No title

    朝日新聞が特集した弁護士は、かつてNHKクローズアップ現代に登場した太田晃弘弁護士です。
    当時は法テラスではなく公設事務所の所属だったのですが、「これが社会が求める弁護士像なのか?」とか「こうした社会ニーズには行政が応えるべきでは」と話題になったように記憶しています。

    明石市長はこれを正面から行政の役割と位置づけ、そのために弁護士を公務員として雇用しようと主張しているわけですが、司法制度改革は最初からこうした社会を目指していたのでしょうか。
    であれば、法科大学院に費やした税金を、福祉行政に従事する弁護士職員養成に充てたほうがよかったのでは。
    とりあえず、ローのカリキュラムに「ホームヘルパー実習」のような福祉系の授業を入れたほうがよさそうだと思いました。

    No title

    そういうのは、やりたい人がやればよいですが、そんなことのためにわざわざ新卒・一流企業への就職のチャンス=高収入のチャンスをふいにして、費用と時間のかかる法曹資格を取ろうなどという人は滅多にいないでしょう。
    どうも、そういう記事を書く人は、経済原理に基づく発想ができないのが残念なところですね。

    No title

    今朝の朝日新聞(土曜日版beの「フロントランナー」という記事)が、
    「社会の隅々に法の手助けを」との見出しで法テラスのスタッフ弁護士を特集しています。
    相談を待っているのではダメと、デイケアセンター、都営住宅、病院等を自ら廻り、
    区役所の福祉部門とも協力して高齢者救済等の仕事をしている、とのことです。
    「高齢者が安心して暮らせるのは大事だが、法律問題を掘り起こすために公金で弁護士を雇うのはコストがかかりすぎないか?」との記者の質問にも回答しています。
    司法改革が目指す先に、弁護士の福祉職化、公務員化があることは否定できないのかもしれません。

    明石市の弁護士市長の活動についてはこちらのブログでも何度か取り上げてらっしゃいますが、
    http://kounomaki.blog84.fc2.com/blog-entry-681.html など)
    色々な話題を提供され続けていますね。
    個人的には、かつて「職員の1%を弁護士に」と唱えたときや、
    市議会で「弁護士は謝罪という二文字は使いません」と答弁したと聞いたときには、
    とても驚いたものです。
    弁護士市長会を立ち上げたという話もありましたが、現在も活動中なのでしょうか。
    こちらの会を通じて弁護士職員を増やすのでしょうか?

    弁護士の価格破壊を、弁護士同士の競争ではなく、法テラスと自治体がやっちゃったわけですが、これは、日弁連が何でもタダでホイホイ協力する姿勢が招いたといえるでしょう。
    法テラスに弁護士を握らせたのが失敗でしたね。今からでも遅くないので、法テラスとの関係は断ち切らないといけないでしょう。ますます力が強くなり、弁護士会では抑えが効かなくなります。そうなれば弁護士自治は崩壊します。

    No title

    各地の弁護士会が次々と無料法律相談に乗り出している中で,若手弁護士を敢えて常勤職員として雇う必要性があると主張しても,大半の市民は納得してくれないような気がします。もともとタダで利用できるものに税金を投入する理由はありません。

    No title

    >くだらない困りごと相談

    >いま、日弁連は、そういう任期付き公務員の枠の拡大に躍起ですが、多くは任期切れから先、野垂れ死にするので、問題の先送りにすぎないと思われます。

    全くそのとおりで,店を畳んで,任期付き公務員になろうとする中堅以上の弁護士はいないでしょう(食い詰めたものを除く)。
    とすると,応募するのは,即独宅弁は嫌だという若葉マークの若手くらいではないでしょうか?
    日弁連のお偉方も,そんなことは100も承知ですが,若手の雇用対策やってますのポーズとして利用しているだけではないでしょうか?
    若葉マークの若手がじゃんじゃん来て,給料泥棒じみたことになっても自治体も困るので,結局,こんな方法は,一時的なもので,長続きはしないでしょう。
    そして,日弁連のお偉方も,一時しのぎで長続きしないことは百も承知で,ただ,自分の任期中さえ乗り切ればいいと思っているんじゃないでしょうか?

    実際のところ,そんなもんじゃないですか。

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    カテキン様

    お問合わせありがとうごさいます。
    info@shihouwatch.com までお願いします。

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    くだらない困りごと相談

    くだらない困りごと相談が自治体に雇われた相談員弁護士に集約されるならいいですね。ただ、そんなつまらない欲求満たすために税金使われるのかと思うと、納税者としては腹が立ちますが。
    あと、そんなことのために自治体に雇われても、当の弁護士もしくは有資格者にすれば、何のスキルアップにもならず、将来の顧客獲得もできないので、役所を辞めたら何もできないでしょうね。
    いま、日弁連は、そういう任期付き公務員の枠の拡大に躍起ですが、多くは任期切れから先、野垂れ死にするので、問題の先送りにすぎないと思われます。

    No title

    自治体の行動力に加え、無料で対応するといえば、潜在的需要をどんどん掘り起こせることでしょう。
    (そういえば、弁護士過疎地域というのは単に弁護士がいないというのではなく、金を払ってまで弁護士に依頼したいと思う人がいない地域だと聞いたことがあります。)
    社会の隅々まで法の光を照らすには、無償で弁護士ニーズに応えることが必要なのでしょう。

    そのためには国や自治体が税金で弁護士を雇わざるを得ません。
    (そうしたことに税金を使うことについて社会的コンセンサスがあるのかは疑問ですが。)
    少なからずの弁護士が、介護保険制度の下で給料水準が縛られている介護職員と同じような立場になるのではないでしょうか。

    自治体内部の法務については、普通の弁護士ではあまり役に立てないと思います。
    自治体の顧問をしていても行政の法律相談に適切な回答ができる先生は少数派だと聞きます。
    立法法務に至っては完全に専門外です。
    任期付職員として若手弁護士を採用しろというのは、自治体法務を草刈り場か何かと思い違えているのではないかとの批判も聞きます。

    No title

    内部的業務処理のために「弁護士」を傭うのであればともかく(この場合なら「有資格者」でも構わない)、傭った「弁護士」を利用して、対外的に「集客」することを問題視しています。
    法テラスと同じ問題です。法テラスも、単に弁護士費用立替機関であれば何も問題なかったのですが、自ら弁護士を傭い、「集客」して民業圧迫しているところに根源的な問題があります。

    弁護士が個人事業主(在野)でありながら日弁連及び弁護士会として結束して作り上げてきた市民との架け橋を、税金でもってすべてを取り込むことなどわけないことでしょう。
    が、弁護士があくまで在野でいつづけた理由は、いざというときの国家権力との対峙ができるようにするためだと理解していますので、税金でもってすべて取り込まれてしまえば、この構造が壊滅することになります。

    今進められていることは、税金による、在野法曹枯らし作戦であり、在野性を奪うものです。

    もっといえば、税金という裏付けで収入が保障される国や自治体の味方に弁護士はなるでしょうが、逆に、国や自治体を訴える場合、誰がその味方になるのでしょうか。弁護士が今以上に強者に偏在し、しかも支配されることになるのではないでしょうか。
    そのことに日弁連も早く気づかないとダメだと思います。

    いや、気づいているのかもしれませんが。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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