「弁護士不祥事」報道に見るお決まりの展開

     弁護士の不祥事を伝える報道は、読者にとって、およそ二つの意味を持つものになります。一つはいうまでもなく、弁護士に対する警戒。問題になったケースを伝えることで、同種事案について、弁護士を利用する依頼者・市民に注意を喚起するものになります。当然、そこでは「弁護士でもそういうことをやる人間がいるんだ」という認識を前提にすることになりますから、弁護士会関係者も懸念する通り、一部の人間の行為で、弁護士全体のイメージダウンにつながることにもなります。

     そして、もう一つは根本的な原因の認識です。つまり、なぜこういうことになっているのか。弁護士という社会的な影響力が大きく、およそ厳格な選抜と養成過程を経ている印象がある「資格」、かつそれに対する利用者の信頼を基本に成り立っているようなイメージがある存在が、なぜ、今、それを裏切るのか、ということです。

     この点が、弁護士を利用する、あるいは利用する可能性がある市民にとって、なぜ、重要なのかといえば、それはまさしく「これから」にかかわるからです。この弁護士との不安な関係がいつまで続くのか、いつになったら弁護士を安心して使えるのか。原因がしっかりと分からなければ、現実的には対策のしようもなく、したとしても効果は期待できない。

     そして、この第2点の方が、利用者にとってより切実であるのは、これまたいうまでもないかもしれませんが、第1点が注意喚起によって期待するような、依頼者の自己防衛が、こと弁護士という存在に対しては、容易ではないという現実があるからにほかなりません。

     弁護士の不祥事をめぐる大マスコミの報道を見ていて気になるのは、いつもこの第2点の扱いです。第2点は素通りするもの、取り上げていても、おざなりな括り・結論で、果たして本当に「これから」を期待できるものなのか、疑いたくなるものを多く目にするからです。

      「依頼人を訴える弁護士…詐欺、横領、怠慢、弁護士モラルはなぜ落ちたのか」(msn産経ニュース2014年2月1日18:00)

     ネットで最近流れたこの記事は、最近、勝訴の見込みのない民事訴訟を起こした弁護士を弁護士会が懲戒処分(戒告)ケース(「『期待にこたえる』姿勢の落とし穴 )や、国有地の架空取引で約2億円をだまし取った詐欺容疑で、弁護士が逮捕されたケース(「『弁護士逮捕』が突き付けている現実」)を取り上げ、さらに日弁連は相次ぐ不祥事を問題視し、昨年、新たな職務適正化のための委員会を設置したり、対策の一つとして事務所の経営や依頼人への対応でストレスを抱える弁護士を対象にした相談窓口などを検討していることを伝えています。7年前に比べると、各弁護士会の市民相談窓口に寄せられる苦情件数も年間で約4500件増加。懲戒請求では年間約650件も増えていることも紹介されています。

      前者のケースについていえば、弁護士の自覚の問題なのか、能力の問題なのか、おそらく一般の市民には区別がつきませんがそのいずれか、後者については弁護士という「資格」への信用の悪用、と読者は理解するはずです。ただ、こうした事態に、日弁連が頭を悩ましているのは分かっても、その具体的対策の一つが弁護士の「経営や依頼者への対応のストレス」に関する相談と紹介されている点は、現実はもちろんそれだけではないとしても、どれだけ読者がその効果に「期待感」を持てる話なのかは甚だ疑わしいといわざるを得ません。

     この記事の最大の問題は、前記第2点の扱いです。原因にかかわる話として、国際法曹倫理学会理事で名古屋大法科大学院の森際康友教授(法哲学)を登場させ、そのコメントとして、背景として考えられる、依頼人の権利意識の向上と、「弁護士の増加に伴う競争激化で、一部の弁護士が生活に困り、倫理を問われるような行動を取る」現実や、過払い金返還訴訟が底をつき、「社会の需要が弁護士の増加に追いついていない」という現状を伝えます。

     しかし、その後に記事は、こう書きます。

      「法曹界を批判する『二割司法』という言葉がある。司法が市民の求める役割の二割しか果たしていないという意味だ。こうした批判を踏まえ、法曹界は人材の増強を進めてきた」

     これを受ける形で、森際教授の話も、弁護士の「従来型の訴訟を中心とした業務形態を続けるのであれば、供給過多」であり、「大切なことは職域の拡大」という、いわばお決まりの論を展開。記事は同教授の、次のコメントで締めくくられています。

      「司法制度がかつていわれた二割司法から脱却するためには、弁護士や自治組織が事件あさりに陥ることなく、埋もれた市民の権利を救済することが必要」

     この記者は、「二割司法」という言葉が、もはや業界内では根拠なき感覚的数値であったとして、悪名をとどろかしていることをご存知ではなかったのでしょうか。この脱却のためという、弁護士と自治組織=弁護士会に森際教授が求める「事件あさり」に陥らない、「埋もれた市民の権利」の救済の話に、弁護士の「事件あさり」と、市民の権利「掘り起こし」の区別が、依頼者・市民に果たしてつくのか、という疑問は持たなかったのでしょうか。

     この最後の下りで、記事はなぜか「法テラス」のことを取り上げています。ブロク「PINE's page」も指摘していますが、これは国費をもっと法テラスに投入し、弁護士の職域拡大や「埋もれた市民の権利」救済につながらせよう、という「期待感」につなげる話と読んでいいのでしょうか。

     この記事を読んで感じるのは、一つは、残念ながら、この記事もまた、前記第2点の「これから」の期待感につながるなる話になると、途端に中身が薄くなってしまっていること。そして、もう一つは、「二割司法」論の幻想にとりつかれているうちは、結局、「職域拡大」の可能性という結論と、利用者にとっては危なっかしい「掘り起こし」論が繰り返しいわれることになる、ということです。


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    テーマ : 弁護士の仕事
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    No title

    あ法テラスとご契約されておられるんですか。
    宅弁さんには人気だそうです。
    私は事務所を借りておりますので、そのようなところとお付き合いが出来ないのが残念です。

    法テラスに対して文句タラタラの弁護士が多いですが、だったらなぜ法テラスと契約してるのでしょうか?
    そのあたりの弁護士心理を分析してみると面白いでしょうね。
    ハッキリ言って法テラスでお願い!なんて最初から言う人たちは、弁護士の仕事にこれっぽっちも価値を感じてないだろうし、だからこそ文句ばかり言ってくるし、弁護士の求める書類提出に協力してくれないし、それでいてネットのデタラメ情報であれができるはずだのと言い出すし、そのための説明に手間取るし、もともと理解力が低いために説明が大変だし、本人の説明能力も低いし、思い込みで話すから聞き取りも難しいし、打ち合わせ時間は守らないし、すぐキャンセルするし(いわゆるビジネス感覚のない世間知らずな人たちなので弁護士が打ち合わせのために準備していることなど分かってないから)法テラス自体の事務手続きが面倒極まりないうえ職員の対応スキルもかなり?だし、それでいて報酬がなぜか日弁連標準より安いのは不思議。
    弁護士はボランティアではない。

    No title

    法テラスとの契約なんか,報酬が安すぎるんだから,個々の弁護士が自覚を持って,個々に辞めればいいのにね。
    そうすれば,契約者が誰もいなく困るので,報酬が変わるかも。

    本来は,弁護士会が音頭を取って,「報酬がいくらいくらになるまでは,契約しない。ストライキだ。」といって強硬姿勢で団体交渉をすべきだと思うんだけどね。そのための利益団体なんだから。高い会費払ってるんだし。

    ただ,どうしても法テラスの仕事がしたい,安くても構わないという弁護士がいるのであれば,それはもはや個人の自由なので契約すればいいとは思うよ。
    ただ,その場合,「安い」とか「DQNはNO」とか「電波は嫌やや」とか「DV夫怖い」とか,グダグダ愚痴るのは「なし」だよね。分かってて自らを法テラ畜の身分に貶めているんだから。

    No title

    「べき」などと言っても、どうせ聞く耳持たれないのです。
    つぶすしかありません。
    このサイトもガス抜きにしかなっていない気がします。
    まあ、もともと報道名目でそれ以上を期待すべきでもなく、行動しなければならないのは私たち自身なんですが。

    自滅するしか間違っていることを正せないというのでは人間の知恵ではありません。
    日弁連執行部という膿をどうやって排除するかということが真剣に問われています。

    No title

    結果的に、大企業は企業内弁護士や有資格者を、自治体は有資格者を、安い価格で雇用できているわけです。

    しかし、一方で、民事法律扶助は安いボランティア価格のままであり、アクセス改善が十分とはいえません。

    司法改革は、要するに、弁護士を、金のある側に偏在させることが目的だったことは明白です。

    こんなことも見抜けないで両手を上げて賛成し助力してきた日弁連は万死に値するといえます。

    No title

    弁護士(ロイヤー)が100万人以上いると言われているアメリカでも、「埋もれた市民の権利」の救済などはろくに行われていません。法律関係の業務に就けずタクシーの運転手などをしている名ばかりの「ロイヤー」と、貧困のため弁護士も利用できない一般市民がともに増えているだけです。
    職域拡大と言っても、弁護士が自主採算で食べていけるような業務は他の士業やアメリカのローファーム、あるいはコンサルタント業者などが既に進出しているので、実際に「拡大」できる余地があるのは、国が予算を出さないと成り立たない分野だけです。
    また、埋もれた市民の権利を救済するというのは、いままで法廷に持ち込まれなかったような問題を法廷に持ち込むということでもあり、「事件あさり」とはいわば表裏一体の関係にあります。弁護士による「埋もれた市民の権利の救済」を奨励する一方、「事件あさり」を批判する態度は全く矛盾しているというべきです。

    No title

    司法制度改革は当初から、弁護士を市場で競争させ、経済的に追い込んで社会の隅々まで事件あさりをさせることにより、それまで事件にならなかった事案を事件にしようという意図に基づいていますから、事件あさりをやめさせるというのは司法制度改革の趣旨に反しています。
    弁護士の不祥事も当然付いてきます。不祥事を起こした弁護士は淘汰され、それによって弁護士の室が維持されるというのが推進派の主張でした。

    「埋もれた市民の権利」を救済するのは弁護士の経済活動としてではなく、政治問題として救済すべきなのではないかと感じています。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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