弁護士の経済的困窮データから読みとるべき未来

     一見して目を疑いたくなるような、驚くべき数字が、ブログ「仙台 坂野智憲の弁護士日誌」で紹介されています。2012年分の確定申告をした弁護士人3万5902人中、損失のある者、要は赤字が全体21.68%を占める7786人。納税者人員は同年までの5年間で、4696人増えながら、業界総所得は600億円減少。同年については所得70万円以下は弁護士納税者全体の19.6%に当たる5508人、500万円以下は42.2%の11890人で、前記赤字の人と500万円以下の人の合計は、弁護士確定申告者の実に54.8%を占める――。

      「『改革』って、一体何がやりたかったの」。誰が見ても一目瞭然の、異常な弁護士の状況を伝える、このブログの数字を見た、ある市民は、こう率直な疑問をもらしました。弁護士を増やすという政策が、「改革」によってもたらされたことを知る、その市民がそうした疑問を持ったのは、もちろん弁護士増のメリットをいまだ実感できていないからではありますが、もう一つ挙げなければいけないのは、この「改革」の旗を日弁連・弁護士会が振ってきたことを知っていたから、でありました。

     つまり、この弁護士の異常状態を招いている「改革」について、なぜ弁護士会自らが積極的に旗を振ったのか、そのことが理解できなかったのです。業界の生存にかかわるといってもいい、ここまでの事態を「予想もできなかった」ということが、一般的な感覚としてにわかに信じられない、ということでもありました。

     こうした弁護士の経済的な困窮を伝える統計に対しては、一方で、必ずといって、ネット上などで、「それがどうした」という意見が出されます。別にいいではないか、と。赤字だろうと500万円を下回ろうと、やっていかれないのならばやめればよし。弁護士を特別扱いする必要はないし、この状況で「淘汰」されればいいわけで、それこそそれが「改革」がもたらしたものではないか、と。

     こうした論調は、この経済的な状況を問題視するのは、あくまで生存をかけた弁護士の問題意識に基づくものであり、あたかも国民・市民はこうした状況を含めて、この「改革」に期待しているという前提に立っているようにいわれます。しかし、前記市民の率直な疑問の声などに触れるにつけ、果たしてそうなのか、という気持ちをずっと持ってきました。国民・市民は、必ずしもそんな楽観的な、明るい未来をこの状況から読みとってはいないのではないか、と思えるのです。

     いうまでもなく、前記論調のように、この状況を見るためには、こうした弁護士の経済的困窮という犠牲の先に、国民・市民に利がもたらされるという見方に立たなければなりません。でも、多くの人たちは、前記赤字組や所得500万円以下の弁護士、さらにはこの統計から当然に推測できる、500万円以上であっても、相当な経済的なダメージを受けている弁護士たちが、キレイにあっさりと、この世界ら退散するなどとは少しも思っていません。別の言い方をすれば、当然行われる必死の生き残り策に、キレイな競争を見ていない。そして、その先に、「淘汰」によって、良質だけが残り、万事丸くおさまるなどという、楽観的な見方もしていないのではないか、と。

     実際に、本音の部分で、弁護士の競争による「淘汰」が良質化をもたらすという見方には懐疑的な弁護士の方が多いと思います。この生き残り策の勝者こそ、「市民のための」弁護士だ、とはならないということです。弁護士が経済的に追い詰められて、サービス業化に目覚め、心を入れ替えるように、態度を改め、手を出さない採算性の悪い案件にも良心的に望むようになり、いままで「不当」に稼いでいた部分を減らし、市民が弁護士に投入するおカネを低額化させる結果を生み出す――。そんなことになるとは、これまでも書いてきたように、そもそも弁護士という業態の特殊性(他のサービス業と同一化できない点)からして、あり得ないし、多くの弁護士はあり得ないと思っています。

     ただ、国民・市民は、本当にこの現実を理解せず、前記論調が前提としているような「期待感」をもって、この悲観的な状況を受け入れないのだろうか、と思ってしまうのです。弁護士の不祥事多発という現象も、伝えられるなかで、そんなに楽観的な未来を想定するだろうか。むしろ、弁護士があぶれ、質が保証されない状況が生まれ、それだけ問題弁護士に遭遇する機会が増えたという危機感を持っていないだろうか、と。

     逆に語弊がある言い方をすれば、ある意味、前記論調を掲げる人ほど、弁護士に対する一般的な信頼感は、もはやないのではないかということです。

      「それでも」という意見もありそうです。質の保証なき弁護士の社会放出も認め、その経済環境の激変によって、私たちが仮に問題弁護士と遭遇する機会がかつてより増えたとしても、選ぶのは利用者・市民、あとは「自己責任」でいいではないか、という意見です。事前の規制を外し、利用者の「自己責任」で、というのは、確かにこの「改革」の底に流れるはそういう発想でした。そして、皮肉なことに、その発想のもとで現実的な事後的救済に当たる役割を担うために大量に必要とされたのが、ほかならない弁護士でした。これまでも書いてきたように、利用者に選択の自己責任を課すのが他のサービス業に比べて極端に酷な弁護士という業態で、それを押し付けたうえで、この「規制緩和」で発生する実害の事後救済を、市民は一体、誰に委ねればいいのでしょうか。

     こう考えると、なおさらのこと、冒頭の歴然たる異常なデータを知りながら、ペースダウンといいつつ、依然、「改革」の増員基調を改めず、前記個々の弁護士の本音にあるような、良質化・低額化への楽観的な未来は来ないという現実を、その「期待感」にはっきりと「あり得ない未来」をぶつけようとしない、日弁連・弁護士会内推進派の姿勢は、理解しがたい気持ちにさせられるのです。


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    No title

    >最近無理筋な裁判(原告側の無理筋な訴えの提起,被告側の敗訴の時の無理筋な控訴の提起)が増えたなあという気がしています。

    これを統計化してみると面白いですね。

    No title

    無理筋の事件については、最近相談者と出会う機会も減っているから、「仕事になるかな? なんとか訴状書けるかな?」というようなレベルの相談があると、頑張って受任しちゃうところがあるのではないかと。特に、若手は、なんとかして客をつかまないと食っていけませんし。
    ちょっと昔であれば、証拠に不安があるなど勝てるかどうかわからない事案・費用倒れになりそうな事案・訴訟では本質的解決にならない事案等については、サクッと訴訟提起なんてことはなかったでしょうけど。

    No title

    弁護士法1条は廃止すべきだと思います。

    No title

    国税庁の数字とは直接関係ありませんが,最近無理筋な裁判(原告側の無理筋な訴えの提起,被告側の敗訴の時の無理筋な控訴の提起)が増えたなあという気がしています。
    たまたま,私の受任する事件だけなのかもしれませんが・・・・。

    No title

    ついに、ベテランの請求退会が。

    いよいよ椅子取りゲームも、佳境ですね。

    嵐の前触れの予感です。

    なぜクーデターが起きないのか不思議でしょうがない。

    No title

    私が所属する事務所ではイソ弁の自己受任事件(自ら事業主として行う事件)を推奨しています。事務所としてもこの先彼らの人生に責任を持てませんから、いざというときに1人で船出できるよう、自己受任事件を勧めるのは道義上当然です。このようなイソ弁は個人事業者の性格をもち、たんなる給与所得者(従業員)でもありませんから、それぞれ申告しています。したがって、国税庁の統計には、このようなイソ弁が多数含まれています。
    余談ですが、事務所としては、イソ弁をいつでも追い出せると考えています。かりに事務所とイソ弁の関係が雇用契約としても、借入金が多額に上って採算が取れない場合には、業績回復の見込みはありませんから、連帯保証もしないイソ弁について、解雇権濫用の法理などまったく当てはまりません(解雇に正当理由があるというわけです)。

    私が体感するところでも、国税庁のデータは現実を反映しています。
    おおむね登録5年以内の若手弁護士(60期以降)の惨状は言うに及びません。給与をもらえないノキ弁はザラですが、そのノキ弁ですら1~2年で事務所を追い出されます。その後親の退職金を融通してもらってやむなく独立したという話も聞きますが、経営が軌道に乗るのは2割以下でしょう。つまり、即独・ノキ弁の8割は、借金の額を増やして事務所をたたむ運命にあるわけです。その後、彼らにどのような選択肢があるのか、私にはわかりません。
    給料をもらえるイソ弁にしても、その額は平均25万円~30万円/月あたりです。賞与も社会保険もありません。そして、そのうちの7割くらいが5年以内に事務所から追い出されています。公務員になる人もいますが、そのほとんどは数年の期限付きですから事情は変わりません。
    60歳以上の弁護士たちの大半も内情は火の車です。数千万円の借金を抱えている弁護士は数えきれませんが、一括弁済できないため、引退したくても引退できません。冗談ではなく、1人で事務所を構えている高齢弁護士のうち10%以上が顧客の預り金に手を付けているだろうと思っています。
    中堅の弁護士たちも、もちろん例外ではありません。顔を合わせるたび、君はどうやって仕事を獲得しているのか、イソ弁や事務員を辞めさせたいがどうすればいいか、といったカネに関する暗い話が延々と続きます。家賃や弁護士会費を滞納しているとか、給料を遅配しているという話にはこと欠きません。もちろん大きな事件が入ったという景気のいい話もまったくないわけではありませんが、比率でいえば暗い話が9割です。
    ですから、いい悪いは別にして、国税庁の数字はフェイクではありません。

    もし子弟を弁護士にしようとお考えの方がいるなら、あるいは、これから弁護士になろうと考えている人がいるなら、絶対に考え直すべきでしょう。少なくとも私は、わが子にこの職業を継がせるつもりは一切ありません。

    No title

    一つ前の人

    何に噛みついているのか知りませんが、業界の実態を示す数値として、信用性の高いデータであることにつき争いはないのでしょう?

    弁護士オワコンということですね。

    No title

    >このデータに含まれているのは、自ら事業主(経営者)となっている弁護士だけ、つまりボス弁とか即独が中心で、サラリーマンである弁護士(イソ弁や、インハウス)が入っていないのではないでしょうか。

    インハウスはさておいて,イソ弁の所得は給与所得なのでしょうか?
    ボス弁は,イソ弁の雇用保険料や社会保険料を支払っているのでしょうか?
    そんな事務所は,寡聞にして知りませんが・・・・・。ひょっとしたらあるのでしょうか?

    本当に雇用契約なら,ボス弁が使えないイソ弁の追い出しをかけようとしても,解雇権乱用の法理などにより,追い出しができないはずなのですが。
    ・・・少なくとも,ボス弁は,形式的には,準委任や請負契約にしているのではないでしょうか?

    にもかかわらず,イソ弁が事業所得として申告していないのであれば,ただ,イソ弁が間違った申告をしているだけの話ということになると思いますが・・・・。

    No title

    静岡弁護士会は丸ごと成仏するということでしょうか?
    そうやって泥をかぶることで、司法改革の失敗を世に問うのでしょうか?

    対岸の火事では済まないと思います。
    いよいよ業界全体の沈没が始まったということですね。

    ローマンセーから沈没すべきなのに。

    No title

    イソ弁でも、個人事件を受任している人や弁護士会費を自己負担している人は基本的に入ります。完全に会社員となっているインハウス(個人事件不可で弁護士費用も会社持ちの場合に限る)は数に入りませんが、日弁連の統計によるとインハウスの弁護士は全国でも1,000人に満たない程度です。

    No title

    このデータに含まれているのは、自ら事業主(経営者)となっている弁護士だけ、つまりボス弁とか即独が中心で、サラリーマンである弁護士(イソ弁や、インハウス)が入っていないのではないでしょうか。

    No title

    弁護士業界に未来などありません。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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