法科大学院「教育的な効果」資料のバイアス 

     12月9日に行われた法曹養成制度改革顧問会議第4回会議に提出された、文部科学省の同日付け説明資料「法科大学院の現状とその改善方策について」のなかに、「在学生等」、「修了生」、地方弁護士事務所・企業・地方自治体などの修了生の「受入れ側」の声を借りて、法科大学院制度を中核とする新法曹養成の「成果」を報告しているととれるものが盛り込まれています。タイトルは「プロセス養成の導入による教育的な効果」。

     内容は、要するに司法制度改革審議会最終意見書以来、言われて続けている「多様な人材の確保」や「理論と実務の架橋」といった制度の在り方が、現実化していることが「在学生等」から言われ、「修了生」からは弁護士や企業法務、国家公務員として活動するうえで、法科大学院での「学修」成果が役立っているとの声があり、さらに、修了生を受け入れたところでも、その能力と意識を評価している、という話です。

     既に弁護士のなかでは、相当な違和感をもって受けとめられてもいるようですが(「福岡の家電弁護士のブログ」)、率直な印象をいえば、これは制度を堅持したい側にとっての「だったらいい」という、まるで「願望」をビックアップしたような、と言いたくなる内容です。

     もちろん、こういうことをいえば、この資料にも明記されているように、「在学生等」については、法曹養成制度検討会議や法曹の養成に関するフォーラムでの視察、ヒアリングでの意見等、「修習生」「受入れ側」については、今年5月開催の法科大学院協会シンポジウムでの発言をもとに作成している、というのですから、彼らのれっきとした「反応」というでしょう。

     ただ、基本的なことをいえば、「在学生等」という人たちの回答は、おそらくはいまだ実務家以前の感覚での評価ですから、「価値の高い能力を学ぶ場」とか「現場において事情が複雑に絡まったものをどう解きほぐしていくかというところを教えてくれる」といっても、実際の実務経験に照らしたものではないという言い方もできてしまいます。また、「修了生」が例えば、原賠ADRや離島の法律相談で、法科大学院で学んだことが活かされている、という感想を述べたとしても、逆にこのプロセスしか体験していない人の感想としてみてしまえば、本当にそれが旧制度下では得難い程度のものかも即断はできません。

      「受入れ側」については、第三者的な評価に結び付けやすいものですが、前記したような「受入れ」先が増えてきているのは事実としても、ここにあるような「様々なリサーチ能力やコミュニケーション能力を含め、知識を活かす・使いこなす方法を身につけている」とか「社会経験から問題意識を持って法曹を志した他分野出身の弁護士が一つの層として生まれ始めている」という評価が、少なくとも既に一般的である、つまりは定評があるという話までは聞いたことがありません。

     とりわけ、「在学生等」の声として紹介されているもので、突っ込みたくなるのは、冒頭に登場する、次のような一文です。

      「法科大学院がなければ他学部出身の自分は法律家になろうとは思わなかった。多くの人にチャンスを与える制度」

     これは、ある意味、皮肉というべきでしょうか。以前も書きましたが、むしろ、法科大学院制度が存在していたならば、その経済的負担とリスクから、自分は法曹の道を選択していなかった、あるいは選択できなかった、という声は、弁護士の中からいくらも聞くことができます。この経済的、時間的負担を強制すプロセスが、かつての制度よりも、法曹へのチャレンジ機会を広げたという評価を、少なくとも今、耳にすることに違和感を持つ人は多いはずです。しかも、他学部出身ということであれば、未修者コースの無理が露呈化したといえる現実を踏まえると、この「評価」はどれだけの意味があるのか、という気持ちにもなります。確かに「チャンス」は与えられた、という話で現実的には終わる話ではないでしょうか。

     要するに、ここで書かれている指摘は、たとえそういう発言をした人がいたとしても、どこまでそれを制度の評価として敷衍し、一般化していいのか、直ちに躊躇を覚えるような話ばかりなのです。そもそも、社会の多くが、ここに書かれているような評価を、この制度について下し、かつ、そこに制度の負担や強制よりも重い価値を見出しているのならば、法科大学院離れ、法曹界離れなどという現象が、今、起きているわけもないはずです。もっとも、その結果に関しては、合格させない司法試験と、増員に抑制的な弁護士会のせいであり、法科大学院制度が元凶ではない、という立場かもしれませんが。

     この資料が、議論のなかで、具体的にどのように使われることが意図されているのかは、分かりません。ただ、よく見ると、この資料部分には、説明書きとして「プロセス養成の導入・運用の結果、以下に掲げる教育的な効果が実現できるようになった」という記述がありました。効果は「実現した」のではなく、あえて「できるようになった」という表現をしたところを深読みすれば、実はこれを書いた側の人間は、心から「成果」に胸を張っているというよりは、現実を分かったうえで、肯定的評価集を作ったようにとれます。

     むしろ、私たちは、「認知バイアス」的ともいたくなる、あるいは志望者や世論を幻惑するような資料が、議論の素材として提示されていることの方に、注目しなければなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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