奇妙な気持ちにさせる「改革」推進論

     いまだにこういうことを言う専門家たちと、その発言を「あるべき論」のように取り上げるジャーナリストがいることの方に、ため息が出る思いです。11月29日付け、日経ビジネスオンライン「司法制度改革は本当に不要なのか?合格者抑制策でロースクールは崩壊寸前」(「磯山友幸『政策ウラ読み』」)

     この記事の冒頭、11月22日に行われた「ロースクールと法曹の未来を語るセミナー」で講演した新堂幸司・東京大学名誉教授の次のような言葉が、引用されています。

      「弁護士の数が増えるのを恐れているのは既得権益の保持者なのです。行政官僚や政治家、司法官僚、それに弁護士の大半です」

     もはや誰の目にも、破綻状態にある法科大学院と法曹人口政策。その原因として、この「既得権益」という言い方が持ち出されること自体は、もはや別に目新しいものでもありません。この記事全体も、要は弁護士や官僚ら「既得権益」を守らんとする側が、増員抑制に傾いたために、司法試験に受からない法科大学院が現出し、「改革」を狂わした、という描き方です。

     しかし、現実が、そうではないことも、多くの人の目には明らかなはずです。前記引用の言葉に被せれば、現実的には、弁護士増員を自らへの影響はないものととらえ、かつ、その社会的な負の影響を全く恐れない、顧みないところにいるのが、むしろ「既得権益の保持者」というにふさわしい者たちではないのか、ということです。

     前記引用が指す「既得権益」が何を指すのかは、不透明なところもありますが、これが「保身」という、分かりやすいネガティブ・イメージで、「改革」路線正当の弁論に立つものであることはよく分かります。しかし、「ロースクールと法曹の未来」を守る立場で、ここに登場されている方々が、もっとはっきりした、ある者たちの「既得権益」を守ろうとしているのではないか、ととることはできるはずです。

     法曹界に人が来ない、その未来が危ぶまれている、その元凶が法科大学院という存在ではなく、前記弁護士増員抑制であり、それを生み出す何やら分からない「既得権益」なのだ、というのは、もはや無理筋というよりも、この「改革」の結果に巻き込まれている志望者、弁護士、さらに市民に対して、むしろ無神経という気すらします。志望者にとっても、弁護士にとっても、市民にとっても、この「改革」路線を何が何でも守るべき、などという了解は、そもそもない。「改革」推進論者が設定し、そして、その理念を実証する実績を作れず、さらに作れる見通しもないものを我々は、目の当たりにしているだけです。そこで、悪いのは「既得権益」といわれて、そうだそうだと応じられるのは、もはや頭から弁護士憎し、と思われている方々だけではないでしょうか。

     そして、もう一点。さらに、この記事にため息をつきたくなるのは、「法曹一元」を引き合いに出しているところです。こういう下りがあります。

      「1964年当時、法曹人口は8129人で、裁判官は2000人。余りにも弁護士数が少なかったことが、法曹一元制を不可能にしていたという。それだけに、弁護士が自ら、試験合格者を減らして法曹人口を抑制しろという主張は、新堂氏からすれば『敵に塩を送るようなもの』だというのである」

     この表現に、現在の弁護士たちが、どれだけ共感できるかは疑問です。もちろん、弁護士経験者から裁判官を採用する法曹一元制度は、弁護士会の長年の悲願とされてきましたし、その根本的な意義を認める人は沢山います。以前も書きましたが、この「改革」以前、一貫して増員に慎重姿勢だったようにいれている弁護士会にとって、実は増員と最も親和性のあるテーマだったのが、法曹一元でした。いうまでもなく、増員問題は、裁判官輩出を担うことになる弁護士側に突き付けられた、「給源の確保」という、一つの壁だったからです。

     この「改革」で、確かに「法曹一元」の実現は、その目標として、度々掲げられてきました。「改革」が描く弁護士増員社会とともに、「法曹一元」が訪れるという描き方は、前記このテーマをめぐる事情からすれば、発想しやすい面がなかったとはいえません。ただ、当時の状況を思い出してみても、日弁連の「改革」宣言などに賛成した多くの弁護士が、本当にこの「改革」の向こうに「法曹一元」が実現するといった、「革命前夜」的な高揚感のなかにいたとは、とても思えないのです。むしろ、前記事情から、臨時司法制度改革審議会(臨司)以来の、弁護士会内有力な司法運動家を含めた、広範な層をこの「改革」に動員させるための、一つの題目として、この「法曹一元」は使われたのではないか、という印象を持っています。

     その「法曹一元」が、この破綻寸前の「改革」に対して、今再び、「伝家の宝刀」のごとく抜かれる奇妙さです。法曹一元を本当に支えるはずの、弁護士という存在への社会的信用、なるほど裁判官は弁護士から選ばれるべき、という社会的了解おいても、そして、経済的激変のなかでの、弁護士の意識や質確保においても、「改革」路線がもたらしている現実は、およそ「法曹一元」を支える環境とはほど遠いものだからです。法曹一元は以前よりも遠ざかり、逆に実現不可能になったという指摘がなされています(武本夕香子弁護士ブログ)。

     今、「法曹一元」の意義が、この「改革」の現状のなかで、まさかまた、「官僚司法打破」の旗のもと、多くの弁護士の支持を得る「宝刀」になると考えているのではあるまいな、という奇妙な気持ち。それと、「法曹一元」の実現=弁護士による「給源」確保=弁護士が主導する法曹養成=弁護士による法科大学院制度推進というとらえ方をした弁護士会内法科大学院推進派の「野望」(「『法科大学院』を目指した弁護士たち」) がいまだ生きているのか、という奇妙な気持ちを、この記事はどうしても起こさせるのです。


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    No title

    法曹一元て何?
    おいしいの?

    No title

    未だに法曹一元とか言っている奴はさっさと成仏すべきだ。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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