「朝日」的「民の声」の扱い

      「民の声 聴かぬのか」という見出しで、11月23日付け朝日新聞朝刊が、特定秘密保護法案提出前に行ったパブリックコメントで、8割近くに上った法案への反対意見を無視する動きを問題視する記事を掲載しています。これに対して、ブログ「一聴了解」が、給費制復活意見が90%超、貸与制反対を含め95%、現行法科大学院制度に反対する意見が80%に達した法曹養成制度ら関するパブコメが無視された現実を取り上げて、朝日に突っ込んでいます。

      「これについて朝日新聞は『民の声、聴かぬのか』と問わないんですか?今後も『民の声』とは反対に現行法曹養成制度を推進する社説を展開するのですか?ある政策について多数の『民の声』を振りかざす一方、別の政策では多数の『民の声』を無視するのはなぜですか?別の政策は自らの業務の利害に直結しないからですか?こういう“ご都合主義”がマスコミ不審を増大させているんだと思います」

     前記「朝日」の記事を見たときに、私も一瞬、「一聴了解」氏と同じことを感じました。全く違うテーマではありながらも、法曹養成制度のパブコメの内容の扱いに疑問を抱いている方のなかには、同じような印象を持たれた方もいたと思います。

     なぜか、と言われれば、そこはもちろん「一聴了解」氏の指摘の通り、「自らの業務に直結」しているかどうかの違い、つまり、全く性質の違うテーマということは、基本的にありますし、その意味ではバリューも違う、ということはあると思います。その点で、「ご都合主義」という突っ込みもできます。

     ただ、かつて実際に「改革」問題にかかわった「朝日」の論説経験者に接して感じたことが、もう一点あります。それは、端的にいえば、彼らの「司法改革」観です。繰り返すまでもなく、彼らは司法制度改革審議会の最終意見書を、今でも「バイブル」として扱うかのような、熱心な「改革」教の信者です。そこには、事後救済社会の到来とともに、法曹の役割が拡大するという発想、一方、「二割司法」という言い方が示すような、膨大な司法の機能不全が存在しているという発想のもとに、法曹、とりわけ大量の弁護士が必要であり、かつ、彼らによって公正さや救済が確保されるという、確固たる市民社会観が存在します。前記論説経験者からは、「改革」路線で行く、という、いわば社としての「方針決定」のようなものが、司法審や「中坊(公平)さんの時代」にあり、そのうえを今も走っているというニュアンスの発言までありました。

     彼らの「改革」教の信者からすれば、「バイブル」が描いた新法曹養成制度も法曹人口増もすべてそのためであり、それに資するものは「正義」という位置付けがあります。そして、逆に「給費制」復活も、法曹人口増員反対・抑制論も、すべてその発想に結び付けた「反『改革』思想」という、はっきりとした色分けをし、そこにあたかも、自分たちはブレない、ブレていない、といわんばかりの、頑迷ともいうべき「改革」路線への固執があります(時々、「3000人合格」にこだわってきたわけではない、と、しらっとした論調を掲げたりもしますが)。

     そして、このスタンスを維持する論調のなかで、「朝日」をはじめ大マスコミが、彼らに「反『改革』思想」というレッテルを被せる、典型的なイメージ化の手法で使われるのは、「自己保身」的位置付けです。「改革」の問題性、負の影響をいう主張は、この社会のためにいわれているものではない、「給費制」復活も、法曹人口増員反対・抑制論、さらには、新自由主義や、根拠のない「二割司法」に裏打ちされた「バイブル」の根本的な見直しをいう「声」も、いずれも利害当事者が、自分のために掲げているという描き方。要は「抵抗勢力」的なとらえ方を、国民に刷り込もうとするものです。

     つまりは、「一聴了解」氏の疑問に立ち返れば、あくまで法曹養成制度に対するパブコメは、そもそも「民の声」ではない(業界や志望者の利害が絡んだ「声」)、という扱いのように思えるのです。逆にいうと、これが「民の声」として耳を貸すべきものだということになる要素、例えば、法科大学院にも国民の税金が使われていることとか、無理に弁護士を増やして経済的な困窮や就職難が発生し、そのなかで「給費」がカットされることは、弁護士や法曹志望者が困るだけではなく、結局は利用者である国民にめぐりめぐっていい話にはならないことについては、極めて抑制的な報道しかしません。つまりは、問題に気が付かせない姿勢です。

     以前も書きましたが、私は朝日の元論説経験者に、「すべてはあなた方の書き方ひとつだ」と言いました。「市民は納得しない」などという民意忖度の表現も、度々用いる大マスコミですが、いうまでもなく、そもそも市民がフェアに判断する材料を提供しているかによって、話は大きく違ってきます。

      「ご都合主義」と括ってしまえば、まさにその通りですが、国家が恣意的に「秘密」を運用し、国民が情報に対して目隠しされることを問題視する、同じ大マスコミが、同様に恣意的に、国民に目隠しをしているような、皮肉な現実です。


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    大マスコミにとって,ロースクール・大学は大広告主。

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    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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