弁護士「サービス業」が迫られる選択

     ある意味、不思議なくらい並べて語られることがある弁護士と医師という仕事が、本来、比べようもないほどの決定的な違いがあることは、これまでも書いてきました(「『医師』に例える思惑」 「弁護士は医者と同じ?」)。

     しかし、改めて言うまでもないことですが、実は社会は同一視しているわけでもなんでもなく、「ステイタス」とか「高額所得」とか「エリート」といったイメージで、それこそただ並べているだけ。むしろ、これを本気で、同一視しようとしたのは、この「改革」であり、弁護士自身であったといっていいと思います。

     司法制度改革審議会最終意見書が、法曹のあるべき姿としてうたった「社会生活上の医師」という名(迷)コピーに、その比喩的な意味以上に、医師的存在をイメージ化していた方もいたようですし、それは法科大学院構想においても、医学部イメージが被せられたことともどこかでつながっていたように思えます。つまりは、間違いを恐れずにいえば、養成過程についても、社会的な存在感についても、「医師のように」という欲求(あるいは羨望)は、社会にではなく、ほかならない弁護士界のなかにあった、ということです。

     西田章弁護士が書いて2007年末に出版された「弁護士の就職と転職」(商事法務)という本があります。これは、大手渉外法律事務所から独立し、「弁護士ヘッドハンター」になったという西田弁護士が、主にこの世界を目指す人たちに向けて、その現実を伝えているものです。ご自身の経歴を反映して、いわゆるビジネス弁護士の視点、あるいはそうした生き方に寄った弁護士の現実が中心的に語られてはいるものの、この仕事の実相や生態をとらえていくのには非常に参考になる内容といえます。このなかで弁護士と医師の比較が、印象的に登場するところがあります。

      「『腕のよい弁護士』を探している人は多いし、『腕がよい医者』を探している人も多い。でも、『安い弁護士』を探している人はいるが、『安い医者』を探している人はいない」

     考えてみれば、当たり前のようにも思いますが、これは面白い現実かもしれません。医師のサービスの値段が、基本的に「同じ」とされるのに、弁護士のサービスの値段は、事件から得られる利益で換算されたり、作業時間で決まったり。このことによって、利用者の関心として、医師については、「腕」だけで済むが、弁護士については、当然、この値段の高低が大きなウエイトを占めることらなる、ということです。

     実は、私たち利用者にとって、重要なのは、ここから先です。このことが、弁護士にとってどういう意味を持つのか――。西田弁護士は、こう説明します。

      「一つには、『(金払いの)よいお客さんの仕事を受ければ、大した仕事をしなくともたくさんの報酬がもらえるかもしれない』という期待を湧かせる。でも都合がよいことばかりではない。『よい仕事をしても(金払いの)よいお客さんでなければ儲からない』ことも同時に受け入れなければならない」
      「もう一つ踏み込んだ言い方をしてみよう。『よい仕事をすれば、お金がもらえる』のではない。『お金をもらえなければ、よい仕事ができない』のだ。瞬間的なひらめきだけで『よい仕事』を続けられるならば、そうではないかもしれない。でも『よい仕事』には時間や労力を使う。だから『よい仕事』をしたいならば、『(金払いの)よいお客さん』を見つけなければならない」
      「『よい仕事』をしたいにもかかわらず、『(金払いの)よいお客さん』を見つけられなければどうすればよいか。方法は二つしかない。『よい仕事』をすることをあきらめるか、『商売』として弁護士をすることをあきらめるか。そのどちらかだ」

     こうした割り切り方に異論がある弁護士もいるとは思いますが、多くの弁護士は彼が何をいわんとしているのか、よく理解すると思います。ただ、奇妙な気持ちになるのは、「改革」を推進する側が、こうした弁護士の現実について百も承知であるにもかかわらず、それを社会に伝えていないようにみえるところです。弁護士増員が生み出すサービス競争による、質の確保や低額化への期待感とは裏腹に、当然に弁護士が進む道が、「(金払いの)よいお客さん」とされるかどうか分からない大衆にとって、良い話になるのどうかか。そもそもそういう「お客さん」が、この社会にどれほど存在すると「改革」は見積もった話なのか。

     当然、この話の向こうには、どういう「お客さん」のための弁護士が残るのかというテーマが横たわっているはずです。残された二つの方法のうち、後者でいいじゃないか、といっているような「成仏理論」(「弁護士『成仏理論』が描き出す未来」)が登場すること自体、このテーマにつながることをごまかし続ける「改革」と表裏をなすものに思えます。

     そう考えればなおさら、たとえ「社会生活上の」の前置きをつけた比喩だとしても、弁護士を「医師」に例えて社会に発信すること自体、弁護士と私たちが抱えることになる現実を覆い隠すものになるような気がしてなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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