司法改革の「度外視」

     あれも大事、これも大事と言っていても、結局は優先順位がつけられる。というよりも、むしろ、もともと、どうしても一方のことを実現したい人が、それを押し通したいあまり、話の駒を進めるために、あたかもバランスをとるかのように、それを付け加えたのではないか、ととれることはしばしばあります。しかし、物事には、結局、真剣に両者を実現するのでなければ、あるいは実現できるのでなければ、うまくいかないことはいくらもある。「改革」を急ぐものが陥る弊竇というべきかもしれません。

     今回の司法改革をみてくると、この「改革」が今、陥っている状況にも、そのことがあてはめられるのではないか、という気持ちを持ってしまいます。法曹養成は、そのあるべき法曹や司法の姿・理念とのバランスにおいて、どこまで利用者のことを念頭に置いたのか。予備試験を申し訳のよう設けても、さらに「給費制」廃止を断行した側に、経済的な負担を「負担できる者」だけが利用できる制度になることと、その実害はどこまで念頭にあったのか。弁護士の増員にしても、競争・淘汰による「低額化」を期待させても、法テラスという窓口を作ったといってみたところで、結局は、司法におカネを投入できない「ニーズ」をどう想定していたのか。結局、「もてる」ものだけが、進める法曹養成、利用できる司法に向かいつつあるだけではないのだろうか、と。

     法曹の改革ではなく(あるいは、それでは足らないとみて)、国民の「常識」を導入して、裁判を変えようとした裁判員制度は、「裁きたくない」という国民の信条、あるいは意思を度外視し、「強制」によって実現しようとしました。その信条や意思は、民主主義社会ではけしからん、「お任せ司法」を作っている「統治客体意識」だという位置付けで。ところが、今、裁判員制度が、はっきりと直面しているのは、その度外視が生んだ無理のツケのように見えます。

      「適正・迅速な裁判」という常とう句は、法曹関係者から聞かれても、このバランスがとれている、という話よりも、「迅速」のために「適正」が犠牲になっているという話ばかりが、伝わってきます。予想通りという方も少なからずいますが、悪い意味で、当然、想定しながら、「実現できる」と見た人もいたように思います。

      「度外視」には、「想定外」という言葉よりも、むしろ「過信」とか「軽視」という言葉を当てはめたくなります。

     新しい枠組みでの、法曹養成制度改革の論議が始まっています。今、なぜ法曹養成が現在のような状態に陥っているのか、ということを、マスコミ関係者の取材などで問われ、話してきましたが、もう一つ、なぜ、法曹養成論議がこういう状態に陥っているのか、という問いかけが、もっとあってもいいような気がしています。「法曹の養成に関するフォーラム」で1年、その後、多くの委員をそのまま横滑りさせて法曹養成制度検討会議で10ヵ月。「給費制」廃止と、司法試験年合格3000人目標撤回が決定したものの、新たな数値目標は未定で、法曹人口、法科大学院、司法試験、司法修習の在り方について、新検討体制でさらに2年、調査・検討へ。そして、今回の検討体制は、これまでになく、なにやら重層的な体制で臨むことになっています(法曹養成制度の検討体制)

     ならば、なぜ、はじめからこうやらないのか――。前身でも、前々身の体制でも、結論が出なかった結果、今度こそという意気込みをここから読みとるべきなのか、それともむしろ「追い詰められている」とみるべきなのか。ただ、ここでも当初、この問題に、もっと早期に一定の方向を導き出し、政府が判を押して発表できるとみるような、甘さがあったのではないか。なぜか、あまり深く問われることがありませんが、そちら方が気になります。

     その新たな枠組みの一つ、法曹養成制度改革顧問会議の9月24日に開かれた第1回会議では、参加する6人の顧問の方々が、この問題に関する基本的な考え、立場を表明しています。坂野真一弁護士がブログで、詳しく論評の連載をしていますが、この会議のなかで、顧問の宮﨑誠・元日弁連会長が、しきりと強調していることがあります。

      「平成25年7月の関係閣僚会議で3000人の閣議決定は現実的ではないとした上で、法曹人口については、ニーズの内容や制度的な整備状況を踏まえて調査を行うというようにされています。調査を行うことは必要でありますし、慎重な調査が行われるべきだと思いますが、一方、その調査結果を待って、更にそれから検討するということでは、現在、危機的状況にある法曹離れが進行していく。その間、法科大学院や養成制度の危機的状況は深刻化するだけだと思っています」
     「私は、危機的状況にある法曹離れを一刻でも早く食いとめるためには、まずもって合格者数を大幅に減少させるため、顧問会議で緊急の提言や協議が行われるべきではないかと考えておるところであります」

     この日の宮﨑氏は、この後も、早期提言を強調し、議論の長期化と提言先延ばしによる「実害」拡大の方を問題視しているようにとれました。一方、座長の納谷廣美・前明治大学学長の口からも、「ある種の見切り発車が今日のいろんな問題を引き起こしているのかもしれ」ないといった認識が示されながら、スピード感のある対応の意向が示されました。

      「度外視」の先にあった「実害」を、度外視するわけにはいかなくなっているのが、今の司法「改革」の姿です。まず、その前提に立てるのかによって、今後の議論も、司法の運命も、大きく変わってくるといわなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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