「依頼者の嘘」というテーマ

     弁護士の間でずっと語られているテーマに、「依頼者の嘘」という問題があります。依頼者の最大の利益を追求する立場に立ち、できるだけ有利に、その語られる「真実」をもとに闘おうとする弁護士が直面する現実です。ただ、これに対して、困惑したり、やりづらさを口にする弁護士もいますが、むしろ印象として、多くの弁護士は、ここを割り切っている、割り切ってきたというべきかもしれません。

     弁護士の中の言い方として、「依頼者は、必ず嘘を言う」というのも聞いたことがあります。取り方によっては、依頼者・市民に、不愉快な感じを与えかねないものですが、むしろ、これは弁護士側の覚悟というか、心構えをいうもので、この現実を踏まえて、弁護士は対処すべき、ということを後輩に伝えるものにとれました(「弁護士に関する苦情(3)『素人扱いされた』」 「弁護士の『優しさ』」)。

     それは、まさに「割り切れ」という指南であると同時に、時に、そうした依頼者心理と「向き合え」ということを伝える文脈のなかで語られることもありました。真実を語りきれない依頼者に、翻弄されているうちは、まだ弁護士としてはダメなのだ、というように。

     かなり以前の弁護士のブログに、依頼者がなぜ嘘をつくのか、その理由を推察して列挙しているものがありました(「弁護士三森敏明の徒然なるままに業務日誌」)。この中で、三森弁護士は、体験的に考えて、次の3点(カッコ内もブログの引用)を挙げています。

     ① 弁護士を信用していない(だって、弁護士は、今まで人間関係がない他人に過ぎないから最初からどこまで本当のことを話せるかわからない)。
     ② 人は自分に不利な情報は極力出さないものだ(これが一番多い気がする)。
     ③ 自分に都合の悪いことを認識していない(これも、多い。この場合、嘘をついているといえるか疑問となる)。

     弁護士への不信感、一般的な人間の行動パターン、法的な対処や現在の自分が置かれている状況への認識不足ということになるでしょうか。大方、他の弁護士からも、こうした推察は聞かれるところですし、この指摘は的確なように思います。前記先輩弁護士が教訓として伝えるところに被せれば、弁護士が信頼関係の構築に努力することや、あくまで事情が飲み込めていない「素人」に対して、丁寧に接するべきといった、むしろ「嘘」という状況に対して、弁護士側に「やれることがある」というとらえ方にもなる、といえます。

     とりわけ、直接、依頼者・市民の方々に接してみて感じることは、②③につながることですが、実は、弁護士に対して、ものすごく気を使う依頼者の心理があることです。「こんなことを言ったり、聞いたりしたならば、先生に嫌われないでしょうか」。こんな質問を、弁護士に接している市民から、尋ねられることがあります。弁護士によく思われたいという気持ちは、自分がたどりついた弁護士、助けてくれようとしている存在に見捨てられたくないという心理とつながっているようにとれました。そこでは、さらに市民なりに、「これは自分にとって不利な情報ではないか」と思う点を弁護士に伝えたならば、勝ち目がないという判断の下に、弁護士が早々に自分の案件から身を引いてしまうのではないのか、という恐れがあることも分かりました。

     もちろん、こうした市民の声に接した時は、とにかくそこで「素人」判断を交えた情報の取捨をせず、包み隠さす、すべて弁護士に伝えなければ、弁護士も十分に力が発揮できない、ということを伝えるのですが、半面、弁護士側が、この市民の「恐れ」を果たして十分に理解しているのだろうかと思う時もあります。

      「しかし、私は、多分、3年くらい前からは、依頼者に嘘をつかれても、怒らないことにした。理由は、嘘をつくと依頼者が不利になるが、それは私に責任があるわけではないと割り切ることにしたことと、客観的な証拠との齟齬について冷静に話をすることにより結果的に依頼者が正直に話をしてくれるようになったためである(これは、自分の聴き取り能力が向上したためであろう、と善解しているが)」

     三森弁護士は、前記ブログで、こんな風に書いています。弁護士の中には、とにかく「割り切る」方に比重を置いて、依頼者の自己責任の方を強調される方もいますが、同弁護士のように、前記教訓につながる自らの努力とのバランスなかで、割り切られている方も少なくないように見えます。

     ところで、この「依頼者の嘘」ということをめぐり、もう一つ、むしろ弁護士界外でしばしば話題になるのは、逆にこれに積極的に加担しているとされる弁護士の話です。相手側弁護士が相手当事者の「嘘」を知っていて、弁護しているという疑惑の目。とりわけ、「真実」を知っている一方当事者からすれば、その弁護士は、相手当事者の「嘘」の加担者でしかありません。この場合、私も経験があることですが、市民感情としては、時に「加担」どころか、この「嘘」の「主犯」が実はその相手方弁護士なのではないのか、という気持ちにすらなってくる。つまり、裁判を有利に進めるためのなんらかの指南も含め、この「嘘」に対する弁護士の深い関与を連想しがちなのです(「相手方弁護士から生まれるネガティブイメージ」)。

     このことについて弁護士について聞くと、現実に存在するも、しないも、また、現実的には「嘘」の加担には利がない、という意見まで、さまざまな声が返ってきますが、ただ一つ、共通しているのは、弁護士が「嘘」と分かって加担したかどうかは立証しにくい、逆に言えば、そこを追及しようとしても、弁護士は現実的には逃げられるというニュアンスです。

      「依頼者の嘘」のまえに、「騙される弁護士」になる現実に向き合わねばならないとともに、一方で、嘘の加担者として、裁判官を「騙そうとしている弁護士」ととられる現実とも向き合わなければならない。弁護士とは、弁護士本人にも、また、ある意味、私たち市民にとっても、つくづく厄介な仕事というべきです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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