日弁連の意見表明をめぐる感性と自覚

     先日、ここで書いた弁護士と元弁護士の逮捕(「『弁護士逮捕』が突き付けている現実」)に関して、日弁連のコメントがホームページ上に掲載されています。それは日弁連が両逮捕に絡む、情報収集を行い事実関係の把握に努めている(努めてきた)ことと、事件を深刻に受けとめていることを、極簡単に伝えるだけの、6行の文面です。

     正直、これを読んだ時、この文面が、社会に対して、一体何をアピールすることになるのか、ということの方に、まず頭がいってしまいました。いうまでもなく、それがあまりにも形式的な、弁護士の強制加入団体として「やることはやっている」式の言い訳、弁明に読めたからです。もっとも、これを発表した側にいわせれば、まさにその弁明にこそ、このコメントの役割がある、ということになるかもしれません。ただ、それにしても、この文面からは、社会から形式的な文面ととられることや、そうした視線そのものを意識したり、躊躇するものがみじんも感じられません。その感性の方が、気になってしまったのでした。

     日弁連のホームページには、このコメントが出されたのと同じ10月4日に開催された人権擁護大会で採択した4つの決議が並べて掲載されています。福島第一原子力発電所事故被害の完全救済・脱原発、貧困と格差が拡大する不平等社会の克服、「国防軍」の創設に反対、憲法改正発議要件の緩和に反対。まさに日本が今抱える、「人権」にかかわる喫緊なテーマであり、これに日弁連が切り込む意味を率直に評価する見方もできると思います。

     しかし、この脱原発の決議に対しては、異論も弁護士の中から聞こえてきます(Schulze BLOG弁護士のため息)。決議が被害救済や健康被害防止にとどまらず、はっきりと国に対し、原子力推進政策の抜本的に見直し、原子力発電・核燃料サイクルからの撤退を求めたのは、強制加入団体として行き過ぎではないか、という見方です。いうまでもなく、原子力政策に関する所属する弁護士会員の価値観は多様で、こういう形で方向性をひと括りにする決議は、おかしいという話です。

     前衆院議員・元法相で、大会に参加した平岡秀夫弁護士は、ブログで今回の大会が、安倍・自民党政権が推し進めようとしている政策が「基本的人権に非常に大きなダメージを与える危険性が高い」という危機感の中で開催され、「危機感を胸に抱いて出された激しい意見を踏まえて策定された」、「決議は、安倍政権が進めようとしていることと真っ向から対立するもの」として紹介しています。

     前記異論が指摘するように、会内に原子力政策に対するさまざまな意見があることは事実であり、その一方で、平岡弁護士の指摘するような危機感のもと、日弁連が団体の使命として、これを「人権」問題として決議せざるを得ないという判断が多数決によって選択されたという見方ができます。問題は、これが日弁連の使命として当然に括りきれるものなのか、それともこれはむしろ強制加入に対する、許されざる感性の鈍磨をはらんでいるのか、ということです。

     この問題は、国家秘密法問題をはじめ、これまでも日弁連の対外的な意見表明をめぐり会内で取り上げられてきたテーマではあります。結果として、日弁連は、あくまで「人権」ということで括りきれるという立場を押し通す形になってきましたが、時に政治性を帯びるこうしたテーマに対して、度々、強制加入団体としての妥当性という問題が指摘され、くすぶり続けてきました。積極論の立場からは、たとえ政治性が帯びても、なお「人権」擁護という使命がそれを超越し、むしろそのことをもって、日弁連が尻込みすることの方を問題しする会員もいましたが、一方で、多くの一般会員が、たとえ多数決で決した案件だとしても、すっきりとこれを理解・納得してきたかどうかには、疑問の余地もありました。

     それでも、これまで日弁連は、このスタイルでやれてこれた。それが、この「改革」とともに、会内の空気も大きく変わってきました。会員の意識は、加入を強制されている方に敏感になり、いわば、組織としての日弁連が、このスタイルを続けることの限界が指摘され始めています。有り体に言えば、「人権」で括れば会員が取りあえず納得し、会員の意思を形として束ねられる時代ではくなってきている、という現実です。

      「弁護士には、いろいろな立場における正義がある。弁護士にとって正義は一つではない。電力会社の顧問弁護士だっているのだ。国民の意見が割れるような問題では、もちろん弁護士の意見も割れる。この決議だけではないが、平気で『日弁連の意見ですよ、日弁連所属弁護士は皆こういう意見ですよ』というふうに公表されるのはたまったものではない。こういう決議や宣言をしたいのなら、もういいかげん、強制加入団体であることを、やめてもらいたいと思う」(前記「弁護士のため息」)。

     強制加入団体として、こうした決議をやめるのか、それとも、強制加入を外しても、こうした決議をするのか――。その対外的な意見表明に際し、会内にじわじわと広がる、強制加入をめぐる批判的な見方が、もはやこうした二者択一を迫るところまできていることは、果たしてどこまで認識されているのでしょうか。冒頭で指摘した、社会から注がれる目線と同時に、会内から注がれる目線にも、日弁連主導層がどこまで自覚的なのかが気になってきます。


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    是非強制加入団体であることを辞めていただきたい。
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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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