「欲望」と闘う弁護士

     弁護士というのは、本当に大変な仕事です。大変ではない方がいるとすれば、それは本当に弁護士という仕事を極めていないのじゃないか、とみていいようにすら思ってしまいます。どの世界もいいかげんな人はいるでしょうが、徹底して、真面目に弁護士業に向き合っている方をみれば、つくづく厄介な仕事をやっているなあ、と思う時がたびたびあります。

     何が大変なのかといえば、結局は一口に言えば、「欲望」にかかわるからだと思います。法的紛争には人の「欲望」が交錯します。訴えられれば、相手の「欲望」と向き合い、訴えようと思えば「欲望」の肩を持つことにもなります。

     紛争は、しばしば法律を武器にとった「欲望」のぶつかり合いとなります。矛となり盾となり、相手の攻撃とも向き合いながら、依頼者の「欲望」の実現に努力しなければならなくなります。

     それだけではありません。実際は、依頼者も説得しなければならない局面もあります。もともとこちらに分が悪くても、相手との闘いに負ければ、責められるのはもちろん、和解の説得にしても、「納得できない」として、逆恨みされることはいくらもあります。

     つまり、仕事の宿命として、底なしのような人間の「欲望」と向き合わなければならない仕事なのです。

     弁護士の仕事には、「救済」とか「擁護」という言葉がよくかぶせられます。もちろん、彼らの仕事のスタンスはそうくくれるものですか、主張で使われる「当然の権利である」というような、いわば良心と正義に基づいた主張を擁護するイメージでは、実際の仕事はとてもとらえきれない、と感じます。

     ここは、実際に身近に弁護士の仕事を見ないと、なかなか大衆に伝えきれません。それこそ、弁護士自身の口から、そうしたことが言われれば、またぞろ都合のいい自己弁明とされたり、「いや、弁護士はなんだかんだ儲けているんだから当然だ」という話にもなりかねません。ずるい弁護士、不誠実な弁護士のために、この辺の弁護士の苦労も伝えにくい社会的ムードになってきているといってもいいのかもしれません。

     「時間無制限、1回1万円」を掲げた介護福祉系弁護士が、自分の都合しか考えない非常識な相談者の殺到にショックを受けたことをブログで赤裸々につづっているのを見ました(「介護・福祉系弁護士外岡潤の毎日おかげさま」)。

     この弁護士がとった良心的な対応がどういう結果を招くのか、実は多くの同業者には分かっています。ただ、そのことも分かったうえで、改めて自分の覚悟と決意を新たにしているところがりっぱです。

     これも、むき出しの「欲望」と向き合う弁護士の仕事の一端を見る思いがします。「敷居が高い」といわれて久しい弁護士の仕事ですが、「低く」した瞬間に、まるで小説の「蜘蛛の糸」のように追いすがる人びとで、その糸は切れてしまうかもしれません。彼らはもちろん地獄に堕ちた悪人たちではありませんが、時に人として道も踏みはずす「欲望」の化身にもなります。

     そして、「ニーズ」とひとくくりにされるものの中身の多くを、実はこうした殺到することになる低額や無償化に群がる「ニーズ」が占めることを考えれば、大量増員された弁護士を「ニーズ」が経済的に支えるという見通しも、よくよく考え直した方がいようにも思います。

     弁護士は「品位」を重んじることが求められている仕事です。弁護士法56条1項で「品位を失うべき非行」は懲戒の対象となっていますし、弁護士職務基本規程6条でも、「品位」向上が努力義務となっています。

     弁護士がこれまで書いてきたように、宿命的に人間の「欲望」に向き合うものと考えるとき、改めて依頼者・市民にとっての、この「品位」の意味が見えてくるように思えます。

     それは、彼らが依頼者の「欲望」の虜になってしまうことも、また、「欲望」を彼ら自身の利益のために利用しようとすることになっても、結局、市民のためにも、この社会のためにもならないからです。弁護士は自らの「欲望」とも闘ってもらわなければなりません。

     弁護士にとって、「品位」が孫悟空の頭にはめられた「緊箍児」(きんこじ)のようになるべきことも、また、この仕事の宿命というべきかもしれません。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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