「ブラック」が増長する状況

      「ブラック企業」という言葉が社会に広がるなか、「ブラック事務所(法律事務所)」という言い方も、にわかに弁護士界のなかで聞かれるようになっています。もっとも、既に書いたように、業界内では同業者による、こうしたとらえ方が以前からなかったわけではありません(「失われた環境と『不幸』な新人の関係」)。もともと「事務所のカラー」的なとらえ方というよりも、ボス弁の姿勢、タイプ、キャラに由来していわれていたことです。

      「あの人のところは絶対にやめておいた方がいい」。新人が入っても長く続かない事務所というのが、どの弁護士会にもあり、会内の評判として伝わり、こんな後輩へのアドバイスにもなりました。個人経営の事業が主体となっている弁護士の事務所の実態を考えれば、当然のことながら、これに中小零細の「ブラック企業」の現実を、そのまま重ね合わせることもできます。

     独裁的なワンマン体質の経営者の存在。私が認識している「ブラック企業」経営者もそうですが、その大きな特徴として、まず挙げられるのは、責任感の欠如があります。自己中心的な経営者が、その事業体の成功は自分の功績とし、失敗は全面的に被雇用者の責任ととらえている、ご都合主義が基本にあります。

     そして、救いようがないという気持ちにさせられるのは、本人は100%、それが通用すると思っているところです。そういう経営者に限って、不思議なくらい、「自分は社員のことを考えている経営者だ」と言ってはばからないことがありますが、自己弁明というよりも、本気で言っている、自覚症状がない場合も少なくないのです。ブラック事務所のボス弁も、ここには共通するものがあります。通用すると思っている。こういうイソ弁の酷使の仕方は当たり前だ、嫌ならば出て行け、という態度です。

     その意味では、ブラック企業にしても、ブラック事務所にしても、それは就職難という状況と密接に関係しています。つまり、有り体にいえば、買い手市場になればなるほど、こういう経営者が暗躍する。なんとか入った企業事務所にしがみつきたい、しがみつかなければならない従業員の足元をみる対応。それができる環境が、そういう経営者をより勘違いさせ、増長させる。「嫌ならば出て行け。他に変わりはいくらもいる」と。

     厳しい経営環境のなかでは、経営者が厳しい選択や自覚を迫られる局面があるとしても、一方で、あるいはそれを口実に「ブラック」が生まれる、増殖する環境というものは明らかに存在します。その意味で、坂野智憲弁護士が最近のブログ(「ブラック事務所に行くべきか即独すべきか」)で指摘しているように、こと弁護士についていえば、現在の状況は、今回の「改革」の結果と無縁ではない、ということです。無理な増員路線、それが生み出した就職難の果てに、新人弁護士が立たされている苦境。そうだとすれば、この点でも、推進派は自覚しなければならない責任があるのではないか、という話になります。

     もう一つ、「ブラック企業」と弁護士を考えるうえで、むしろ私たち市民が見逃せない問題があります。それは、新人弁護士の悪用ということです。これも以前書きましたが、ブラック企業、この場合「ブラック」は、単に労働環境に関するものにとどまらず、企業活動そのもの違法性、不当性にかかわる意味になりますが、要は弁護士を以前よりも安く雇える環境のなかで、新人弁護士に経験がないことや、先輩弁護士の的確な指導のもとに修行していないことをいいことに、弁護士の肩書を相手方への「脅威」の材料にしたり、無理筋な対応の先兵に使う企業が現に登場し始めているということです(「企業『新人弁護士』採用の不安な一面」)。

     こうした「ブラック企業」「ブラック事務所」に未来があるか、といえば、それは明らかにない、というべきです。前記ブログで坂野弁護士は、迷える司法修習生に対し、「ブラック」に行くくらいなら即独(ただし、一人でではなく、三人くらいでの共同事務所)を勧めています。ただ、未来はなくても、こうした事業体は、状況下でこれからも暗躍し、新人の犠牲者を生み続けるだけでなく、悪用によって、私たちが危険にさらされ続ける可能性がある。社会にとっても、何一ついいことがない、というところから、何がこの状況を生んでいるのかをとらえ直す必要があります。

     当ブログと、現在リニュアル中の「司法ウオッチ」では、「ブラック企業」雇用弁護士、「ブラック法律事務所」についての情報を、今後、集めていく考えです。是非とも、情報をお寄せ下さい。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「弁護士の経済的窮状」についてもご意見募集中!
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    テーマ : 弁護士の仕事
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    No title

    四大事務所から、インチキ宗教のインハウス?に移った弁護士を知っています。
    日弁連のサイトで検索すると、所属事務所名が空白、番地の最後にその教団の名、電話番号が教団本部代表番号と同一ではないが非常に近かった。

    あのインチキ宗教は裁判沙汰の多さでも有名だけど、腕を振るえてるんだろうか?

    これからの弁護士は暴力団のインハウスとになって組織のコンプライアンス向上に役立とうという気概が必要かもしれません。

    No title

    まあ、何を言っても弁護士憎しみたいな感じにしかならんでしょうから。
    採用しなけりゃ良いんですよ。
    専門職なんで、企業と同じで、人材の育成も含めて会社の責任みたいな土壌始めからないですけど。
    ブラックと呼ばれないために。
    採用しなけりゃ良いんです。

    No title

    >要求される法的知識・応用力・顧客対応のレベルが高すぎてついていけない者は振>り落とされる・・・こういう事務所をブラックと言うべきではないかもしれません。

    普通の企業の場合も、こういう人を振り落としているだけです。「悪」自体を目的に、労働者を苦しめるためにのみ存在する企業なんてありません。そんなのは、世間知らずの弁護士先生の妄想です。

    企業の利益に貢献しないものを振り落としているだけです。出来ない人を振り落とすと、「ブラック」と言われるのが一般企業です。

    弁護士先生たちも、いい加減に自分たちは特別なんだという特権意識を捨ててください! 出来ない者を振り落とす法律事務所は、世間的には「ブラック」ですよ。

    No title

    要求される法的知識・応用力・顧客対応のレベルが高すぎてついていけない者は振り落とされる・・・こういう事務所をブラックと言うべきではないかもしれません。
    もう、「できない新人」を養成している余裕などないのですから。

    ただ、傍若無人・唯我独尊に陥ったベテラン中堅の弁護士の中には、非常に理不尽な理屈で若手イソ弁を追い込む者(弁護士倫理違反の行為を若手イソ弁にさせる者も含む)もいますので、それはブラックと言ってしかるべきでしょう。

    私は個人的には、法科大学院というサンクコストがなければ、法曹資格取って危険なブラック事務所に勤めるよりは、企業等に勤めたりすればいいんじゃないかなと思うんですけどね。でも、サンクコストのせいでそれが難しいんですよね。で、結果的に法科大学院の存在が、ブラック事務所で使いつぶされる新人の増加を推進するという。

    今後数年で、そういう傾向がさらにはっきりすると考えます。年齢30代後半になっても将来展望の見えない弁護士が一挙に増えるでしょうし。

    罪には罰を

    弁護士の面汚しが出現したのなら、弁護士自治の精神に則り、粛々と懲戒処分をすればいいだけでしょう。逆に、理屈を並べて懲戒処分を拒否し、その面汚し弁護士を庇立てするのであれば、日本の弁護士全員がその面汚しと同類だと認識されるだけです。

    例えば、労働組合弾圧の為に、法律にも判例にも完全に反した脅迫「アンケート」を作成して法外な報酬を懐に入れて恥じないような輩が、どうして速やかに弁護士資格剥奪にならないのですか? 暴力団でさえ、幹部が直々に非難声明まで出したのなら、幹部会が責任もって厳罰にするでしょうに。弁護士会は暴力団以下ですか?

    食うに困った暴力団員が恐喝をやったら即お縄で誰からも同情されません。食うに困った弁護士が同様の事をやっても、同様に粛々と処置するべきです。できないというのなら、懲戒権を取り上げて別の機関で運営するしかないでしょう。

    No title

    イソ弁なんて雇わなければ良いんです。
    どうせ右肩下がりの業界なんですから、事業拡大、設備投資拡張なんて無能なイケイケ経営者です。

    まあ業界では成仏することが最終解脱であるという宗教が流行っているようなので、好きにすれば?と思いますが。

    No title

    ブラック事務所だけでなく、新人弁護士の質が落ちていることも考慮せざるを得ないのではないでしょうか。
    全体的に見ると、旧司法試験の500-700人合格の時代の合格者は、短時間に事務処理できる能力と自分で調べる能力が今の新人より高かったと思いますよ。例えば、以前の新人が5時間で終わらせらることを今の新人が10時間かけて終わらせたからと言って、今の新人に倍の10時間分の給料を支払うわけにはいかないでしょう。逆にその間他の事をやってもらえないのだから、半分の給料しか支払えないでしょう。
    例えば、以前であれば新人に任せて最終チェックをすればよかったのに、手取り足取り教えなければ分からないとなれば、自分の仕事時間まで削られることになって事務所全体の業務処理能力が落ちてしまう。

    ババを引いた事務所、つまり質の悪い新人弁護士を雇ってしまった弁護士事務所はどうすればいいのでしょうか。以前に比べて、ババを引く可能性は格段に高くなっているはずです。皆怖くて新人を雇えなくなっているはずです。今は使えない弁護士を短期で辞めさせるとブラック事務所と呼ばれてしまいますから。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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