「責任ある回答ができない」とした弁護士会

      「検察改革の今」と題して、9月17日付け朝日新聞朝刊が、全国の弁護士会に行ったアンケート調査の結果をもとにした記事掲載しています。大阪地検特捜部で起きた証拠改ざん事件発覚以降の、検察改革に対して、多くの弁護士会が「進んでいない」ととらえていることを伝える内容です。弁護士会の受けとめ方として、それは当然だと思いますし、そのことを社会に伝えることにおいても、この企画は非常に意義があるとは思います。

     ただ、この記事が伝える結論とは、少し離れたところに目が止まってしまいました。それは、アンケート結果を詳しく取り上げた37面の記事(ニュース記事は3面)の隅に小さく書かれた「アンケート方法」の中にありました。このアンケートは、全国52弁護士会に朝日が質問用紙を送付し、42会の刑事弁護士員会の委員長・副委員長らが、「個人として、また会を代表して対応した」とされているものですが、この部分の説明の中に、こんな記述がありました。

      「42弁護士会が回答し、内容の一部について朝日新聞が補足取材した。残りは『責任ある回答ができない』といった理由で答えなかった」

     記事本文の大部分は、この結果を基にした、朝日の取材で得られた弁護士の実名コメントで構成されています。問題は、この「責任ある回答ができない」という部分です。10弁護士会は、この件で「責任ある回答」ができる立場にない、としたのか、と。ただ、「残り」という言葉の読み方によっては、前記補足取材の「内容の一部」という部分にかかっていて、その対象者がここで紹介している点以外については、答えなかったという意味にも、とれなくはないので、一応念のために「朝日」に確認したところ、やはりこれは10弁護士会の回答拒否の反応なのだそうです。10会からの書面回答拒否に対して「朝日」はそのままにせず、何で答えられないのかを質したり、また、会の対応として拒否理由を通知してきた結果であるとしていました。

     弁護士会の役割として、「責任がある回答」ができない現実を、問題視する見方は会内にもあると思いますし、あるいは読者のなかには、弁護士会の意外なほど腰の引けた対応をここに感じる人もいるとは思います。ただ、あえていえば、ここに等身大の弁護士会の現実があります。

     朝日の記事は、今回の弁護士会の反応から、例えば「改革は進んでいない」と答えたのは6割以上といったとらえかたで、前記のような結論を導き出しています。そのことは前記したように、検察改革の現実に対して重たい意味を持ちます。ただ、こと弁護士会のイメージをこれから逆算して描くと少々違うものになるかもしれません。いうまでもなく、すべての結論は、「全回答」を母数にするものだからです。

     つまり、有り体にいえば、弁護士会の実像は、すべての消極意見に、「責任がある回答」を拒否した10会を足したものになるということです。検察改革の進捗については、「進んでいない」方向の回答を出来きる会と、出来ない会は拮抗。「供述の強要・誘導」「起訴すべきではなかった事件」については、「ある」と回答できるのは全弁護士会の半数以下、「新たな捜査手法」について「不必要」の方向で表明できる会は、必要論・実質無回答会のほぼ半数というのが、現実です。

     朝日の37面の記事には、肩に本文との関連記事として、笠間治雄・前検事総長の談話記事を掲載しています。お読み頂ければ分かる通り、そこにあるのは全過程可視化・検察証拠開示への消極論。「弁護士は『一人の冤罪も許さない』という立場だが、検察は『処罰されるべき人を逃すわけにはいかない』とも考える」というのが、彼が考える検察改革が「及第点」をもらえない根本の認識にもあるようです。少なくともあの有名な「一人の無辜を罰するなかれ」の格言に沿った優先順位の認識を疑いたくなる発言ではあります。

     ただ、あえていえば、彼も現在、弁護士です。弁護士会のなかにいる、多くのいわゆる「ヤメ検」といわれる元検察官弁護士にも、それこそいろいろな考え方をする人はいますが、私の知る限り、刑事弁護に関して、少なくとも根っからの刑事弁護士とは発想を異にする方々が沢山いらっしゃいます。古巣の立場に深い理解を示す方がいるのも当然ですが、それだけでなく、弁護士会的な発想や刑事弁護の実務においても(例えば、情状の主張など)で、根っからの刑事弁護士からは聞かれない違和感をいう本音を耳にすることもあります。

     それだけではありません。そもそも、ヤメ検ではなくても、それこそ笠間・前検事総長が指摘たした二つの価値観の間で、濃淡のあるさまざまなとらえ方が弁護士の中にはあります。「新たな捜査手法」に対して、少なくとも6会の刑事弁護士委員会関係者が、「ある程度必要」と回答していることでも、それは明らかです。

     もし、この現実が、前記「責任ある回答」ができないことを拒否理由に挙げた弁護士会の対応につながっているのだとすれば、少々話は違ってきます。これを弁護士会の役割に引きつけて「腰が引けている」ととるか、強制加入団体としては妥当な、あるいは当然の姿勢ととるか、ということにもつながるからです。もっとも、それで意見が割れているのも、弁護士会の現実ということもできるのですが。

     弁護士会外の人が考えているほど、あるいはこの記事がイメージさせるほど、日弁連・弁護士会も、弁護士も、一枚岩ではなく、その活動にははっきりとした「限界」を抱えています。それを抱えて彼らがやってきたことを踏まえたうえで、この国にはこれからもどういう提言を、どういう立場からいう人間たちが必要なのかを考えなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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