「朝日」法科大学院記事の微妙な「兆候」

     朝日新聞が、久々に9月13日付け朝刊の教育面で、法科大学院の現状に大きくスポットを当てています。タイトルは、「法科大学院 背水の策」。来年度からの過去最多の18校への補助金削減という事態が生まれるなかでの、各校の「生き残り」にかける姿を報じています。

     取り上げられているのは、2015年から募集停止を決め、新たに他の大学との「広域連合法科大学院」を目指す島根大学、提携協議をしている静岡大学、受験勉強期間を長く確保するために9月入学を始めた駒沢大学、メールを使った添削指導をしている愛知大学、新人を直接企業、自治体に就職させる道を広げることを目指し、キャンパス内法律事務所を設置して地元機関での経験を積ませるという岡山大学――。

     ここまでの記事は、こうした動きを伝えるだけの、いわば紹介記事で、明確に朝日がこの事態をどうとらえているのかの、論評はありません。今年の合格率で全国5位となり、実施していることと成果を結び付けやすい愛知大を除けば、効果のほどは未知数。その点で朝日は、後段で言及するような、志望者の法科大学院敬遠、さらには法曹界離れに、こうした追い詰められた法科大学院の「背水の策」が、果たして根本的な解決の道を開くものとみているのかどうか。実はここは肝心なところのように思えます。いうまでもなく、扱い方、あるいは取り方次第では、期待感として、社会、とりわけ志望者に、ひとつのメッセージとして伝わるからです。

     朝日は、法曹養成制度検討会議が示した「法的措置」の方向や、文科省の補助金削減基準厳格化を「荒療治」としつつ、相変わらず、予備試験を本来の趣旨と違う使われ方をしているとみて「抜け道」と表現しており、疑うことなく、依然あくまで法科大学院本道主義に立っていることは明らかです。

     ただ、あえてこの記事のなかで、朝日のスタンスの微妙な変化の兆候を読みとるとすれば、前記成果がはっきりしているととれる愛知大法科大学院の森山文昭教授の次のようなコメントで、この記事を締めくくっているところです。

      「法科大学院の多くは、受験要件という特権によって何とか存在しているだけ。教育の中身で勝負する学校だけが残る制度に変えてゆくべきだ」

     森山氏はご存知の通り、弁護士でもあり、近著「司法の崩壊の危機」(共著)のなかで、法科大学院制度導入そのものの立法事実の希薄さを冷静に分析し、合格年3000人目標が放棄されるのであれば、法科大学院そのものが本当に必要だったのか、という疑問を投げかけるとともに、合格者1000人以下、前期修習・給費制復活、法科大学院については、受験要件を外し、予備校と対等な立場で競争して司法試験合格を競う形に転換することを求めている方です。

     前記コメントの抜き方をみる限り、朝日は「分かっている」という印象を持ちます。つまり、森山氏がこうした論者であることも、そして、彼が指し示しているように、もう小手先の合格率回復策では法科大学院がもたず、根本的な中身の評価、あるいは志望者にとっての価値で、その存在意義が判断されなければ、どうにもならないところに来ている、ということをです。そして、さらにいえば、受験要件という、「強制化」で制度が持ちこたえさせようとすることの無理も「分かっている」ととることもできるのです。

      「変化の兆候」というのは、言い過ぎかもしれません。現実問題として、受験要件をやめることは、すなわち本道主義をやめることと、多くの人はとらえていますし、朝日もそのことも十分承知しているはずです。ただ、「プロセス」が本当に本道となるためには、強制ではなく競争、別の言い方をすれば、利用者の内容・意義に対する評価によらなければならない、ということ。そして、その議論が、どういう優先順位で行われるべきことなのかについて、「朝日」はどこかで(あるいは、これまでもあったように、しれっと)論調を変えてくるかもしれません。

     少なくとも、この記事が、前記したような意味では、「背水の策」への期待感を煽るだけでは終わっていないようにとれるところは、注目できるように思えるのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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