失われた過去の扱い方

      「古き良き時代」という言葉が、弁護士会内でよく使われるようになった印象があります。もちろん、20年前にも、30年前にも、それを口にする弁護士はいましたし、そもそもどの世界、どの時代にも、過去への「郷愁」として、それを語る人はいます。ただ、今、弁護士会で聞かれる、この言葉は、どうしても、そんなありきたりでセンチメンタルな言葉として、聞き流す気にはなれないのです。

     多くの弁護士がこれを今、口にする時は、いうまでもなく、「改革」がもたらした経済的な激変につながる話。今に比べて、安定していた過去の経済的な環境を振り返るものです。ただ、ここはつとに、この「改革」に絡めて、弁護士会外から、弁護士の「甘え」として批判され、むしろその点で、「古き良き時代」を懐かしむこと自体「心得違い」、「楽して儲けていた」過去にしがみつく姿としてとる見方があります。それだけに、この意味で弁護士が使う文脈も、多くの場合、必ずしも肯定的にではなく、「『古きよき時代』を懐かしんでいる場合ではない」という自戒を込め、現状に向き合おうとする自覚を促すものです。

     実は、もう一つ使われる場面があります。それは、若手弁護士の意識変化につながる話。つまり、それは弁護士会活動、人権、公益性、あるいは弁護士自治といったことに対する、弁護士の既存の価値観が大きく変化していることについてです。これは、必ずしも批判的な論調のなかで語られるものではありません。それは、前記した経済的な環境、あるいは修養期間の安定的確保といった、自分たちの時代に担保されていたものが失われていることへの、「同情」の響きもしばしば伴います。なぜならば、その現実をもたらしたのが「改革」であることを知っているからであり、さらに、口にするかしないかは、現在も「改革」に対して、どういうスタンスに立っているかによるものの、その「改革」を推進した「責任」があることも、実は分かっているからです。

     この言葉が、前者の経済的な変化について、ある種の自覚のなかで使われる場合も、後者の意識変化について使われる場合も、共通して彼らのなかに見え隠れするのは、実は「もう元には戻らないのではないか」という諦めに近い感情です。それだけに、弁護士会活動も、弁護士自治もこれまで通りを前提に、現在の「改革」を依然推し進めようとしている弁護士会執行部に近い推進派の方々ほど、少なくとも後者の意味では、この言葉を使いたがらないようです。彼らは、「改革」が若手弁護士にもたらしている決定的な価値観の変化と、その影響から目を逸らし、努めて過小評価しているようにすら見えます。

     ただ、私が冒頭、聞き流す気になれないと書いたわけは、こうしたこと以外にあります。それは「古きよき」とあたかも弁護士の「郷愁」のように括られる、この国の弁護士のかつての経済環境や意識を、「市民のため」という言葉のもとに、本当にこの「改革」が破壊する意味があったのか、本当にそれが「市民のため」になっている、あるいは今後なっていくのか、という気持ちに、どうしてもなるからなのです。

     そのことを大マスコミも、弁護士・会も、当の市民も振り返らないまま、覚悟や諦めが固められていくことに、不気味な違和感を覚えます。


    ただいま、「弁護士自治と弁護士会の強制加入制度」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ





    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    失われたのが過去だけみたいな言われ方されてもね。冷笑するしかないね。
    日弁連から、66期の就職にご協力下さいみたいなふざけたFAX届いていたけど、
    マンセーが自分達で採用するんだろ?
    右肩に名前の載っていた、Y岸弁護士はまず自分で採用してから言えよ。
    自分の年収が300万になるまで雇ってあげればいいじゃないか。
    人に頼むのはそれからだろ?
    頼まれても断るけど。

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR