「給費制」廃止違憲訴訟への目線

     若手弁護士ら原告211人、代理人463人で、8月2日に東京、名古屋、広島、福岡の各地裁に一斉提訴された司法修習生「給費制」廃止違憲訴訟に対して、弁護士会の内から、さまざまな目線が向けられています。全面的否定派、心情的賛同派、全面賛同派。その境目は複雑で、やや分類しにくく、否定派がいう、このテーマを違憲訴訟というステージに持ちこむこと自体、技術的に「ナンセンス」という見方に対して、心情的賛同派は、「無理筋」であることを認めつつも、まさに「やむにやまれぬ」提訴の若手の心情に理解を示し、むしろ現状の問題性に目を向けているようにみえます。もちろん、この制度の有難味は、それを享受てきた現役には、よく分かっていることです。

     心情的賛同派のなかには、違憲訴訟の目的も、「給費制」廃止という問題の社会的アピールにあると理解し、その効果を認める人がいる一方、むしろ若手が社会的に非難の対象になるとか、「合憲」という司法判断を引き出す、「やぶへび」訴訟になることを懸念する見方があります。また、全面反対派のなかには、あくまで法律家として、法的な手段に出る妥当性の点にこだわるべきとする人もいます。全面賛成派とくくりましたが、この方々が違憲訴訟としての難しさを理解していないわけではないようにも見えますし、根本に若手に対する心情的賛同と、放置できない現状への問題意識があると考えれば、実際は心情的賛同派のなかに、この訴訟を進めることについての消極派と積極派がいる、という分類の方が正しいのかもしれません。

     あくまで印象ですが、やはり心情的賛同派が圧倒的に多い印象です。提訴前の、あるベテラン弁護士たちの会合でも、この訴訟が話題になっていましたが、この訴訟が前記したような「運動」としての効果を期待したものとの認識を基本に、関心は、社会的な反応を含めた「戦略的効果」や、若手グループに対して、違憲訴訟のブレーンは付いているのか、それは誰なんだ、といったものでした。それは概ね、私の印象としては、この訴訟に対する、なんとかしてやりたいというような温かい目線のように感じました。

     問題は、この訴訟に対して、社会がどういう目線を送るのかというところにあります。既にネット上には、弁護士が金銭的な不祥事を起こしていることとつなげて、あたかも弁護士たちの不当な金銭要求、要はお決まりの、どんな仕事も修養費用は自弁だ、「甘えるな」式の批判が見られますし、「朝日」紙面にも、既に2月の段階で、社会の共感が得られないことを前提とするような記事も掲載されています(「『朝日』がくさす本当の理由」)。

     しかし、これは本当に奇妙な現実です。「給費制」問題は、アプリオリに「国民に理解されない」とくくられるべきことなのでしょうか。「給費制」そのものを知らなかった、あるいは依然として、過去の制度としても知らないという人もいますが、そもそも法曹三者共通に国費で養成されること、されてきたこと自体を「不当」とする見方を、果たして多くの人間がするかといえば正直疑問に思えるからです。

     今、起きていること、法曹界の人材枯渇、さらには借金を抱えることになる経済的不安定弁護士に、市民が遭遇するリスクをとってまで、廃止すべきという問題意識が市民のなかにあるとは到底思えません。さらには、この制度が廃止される背景的な事情に、法科大学院制度の予算確保、その制度を必要とするとされた法曹人口増があり、それらが破綻している現実があることを伝えても、なお「廃止が必要」となるのかどうか。要は、今、起きていることがもたらす、市民にとっての現実的なリスクを考えても、そこまでして「廃止」にこだわるような話には、とてもならないからです。

     では、どうして「理解されない」という話になるのか、といえば、そういう伝え方をしているから、というしかありません。弁護士の不祥事と絡めた、「甘やかすな」「けしからん」という話は、大衆に受け入れやすい面があっても、本質的に「給費制」の妥当性の問題ではありません。まして、国費の無駄をいうのならば、前記伝えられていない事情の方が重要です。修養費自弁にしても、法曹という仕事の特殊性を伝えられれば、話は違います。「甘やかすな」「けしからん」という感情論よりも、現実問題としての安全性確保の方が、市民によって重要なのは明らかであり、とにかくまずは、それを最優先させろ、という話になって当然です。

     これは「改革」全体についていえることですが、前記「朝日」を含めた、大マスコミの伝え方の問題、つまりは「伝えない」ということと、とりわけ「給費制」については、法科大学院制度を含めた「改革」全体のなかで、投げかけない。現実のリスクを伝えず、要は「けしからん」論の喚起につながるような話だけで、「理解されない」前提に立っているように思えてならないのです。

     冒頭の弁護士会のなかの反応でも、この問題では、はなから「理解されない」という前提に立っているものが多々みられます。あるいは「改革」論議のなかで、常に推進派側が「現実論」として掲げてきたものでもあるように思いますが、それもまた、不思議な感じがしてなりません。


    ただいま、「『給費制』問題」「弁護士の経済的窮状」についてもご意見募集中!
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    No title

    冷たい、と言われるかもしれませんが、私は、この訴訟に、大変な違和感を持たざるを得ません。

    1年間そこそこの司法修習生の報酬の手取額は、せいぜい200万円前後。
    これは、弁護士会の会費の、2年弱から4年分程度に相当します(所属単位会による)。

    結局、
    「そんな高額な会費を払えるなら、給費なんて必要ないのでは。
     給費制にしても、結局、弁護士会が吸い上げるのでは。」
    という、子供でも分かる理屈で、違憲訴訟は簡単にいなされます。
    この批判をかわすならば、日弁連任意加入化運動などが必要です。

    しかも、彼らの感覚は、世間からかなりずれているようです。彼らのウエブに、飲み会の経費がかさんで生活が苦しい、飲み会の企画が大変、という内容の文章がありました。こんな理屈が世間で通ると思っているのでしょうか。

    No title

    もともと法科大学院への補助金を与えるために廃止された給付制なのだから、法科大学院に一度も在籍したことのない予備試験組みの司法試験合格者には給付制が維持されるとしなければ、不公平なのではないでしょうか。
    かれらは、一度たりとも間接的にですら補助金の恩恵を受けていないのだから。

    対象が

    >「法曹というのは国家に不可欠な制度だから、今後なくなることはないだろう」などという思い上がりを平気で開陳する弁護士を見かけると、
    >「ああ、こいつらダメだ。こんな思い上がりがあるからこそ、どんどん立場が悪化しているのに危機感も持てず立ち向かおうとしないんだ」と呆れます

    普通の街弁達は、司法改革によって業界がズタボロされたのを、人生かけて実感してますよ。日々の食費でも。
    893-5910さんが誰を対象に発言しているのかわかりませんが、まだまだ安泰だみたな態度の人達は、本気でそう思ってるのではないでしょう。
    単に司法改悪をマンセーしたいから、業界をズタボロにした事実に触れたくないだけでは。

    この惨状を招く片棒を担いだ卑劣なマンセー派が、「惨状に立ち向かおうとしない」のは、当たり前ですよ。

    No title

    バカだから死ななきゃ直らないでしょ。
    もう弁護士なんて職業は終わりです。

    思い上がりが馬鹿を滅ぼす

    修習廃止、それこそ「弁護士が弁護士を育て〜る!」とか豪語してた、あの恥知らずの3流詐欺師が一番望んでることじゃありませんか? それで法科大学院制度を絶対維持すれば、司法研修所に替わって、法科大学院が法曹養成を独占できるから。これで予備試験も潰せば完璧だ。

    「法曹というのは国家に不可欠な制度だから、今後なくなることはないだろう」などという思い上がりを平気で開陳する弁護士を見かけると、「ああ、こいつらダメだ。こんな思い上がりがあるからこそ、どんどん立場が悪化しているのに危機感も持てず立ち向かおうとしないんだ」と呆れます。他の職業に、「俺たちは国家に絶対不可欠の職業だ!」などと、それも人前で公言する(「お前らとは違うんだ!」という醜悪な見下しでなくて何ですか?)ほど思い上がった馬鹿は見た事がありません。

    法務省の幹部が国会答弁の場で、弁護士法は社会保険労務士法など各種士業の法律と対等であり上位下位の関係にはない、と明言したこともあります。こういう思い上がった特権意識を捨てて立て直さない限り、弁護士とか言うのはどんどん劣化して、第三世界の部族長にも劣るような、実権どころか権威さえない存在に成り果てるでしょう。

    No title

    どうせ、裁判なんて箸にも棒にもかからないいい加減なものですから、何のアピールにもなりません。
    法曹になりたいという人間が居なくなるようにとの深謀遠慮に基づく、壮大な計画だと思われます。
    さすが宇都宮弁護士です。
    貸与制に猛反対するフリをして、実は法曹を破壊しようという。

    No title

     すみません,ちょっと誤解していました。
     私などが「心情的賛同派」に含まれるという前提で記事を読み直すと,河野さんの言われる全面的否定派というのは,むしろ「無視派」と呼んだ方がいいのではないかという感じがします。
     2月の段階では,給費制は国民の理解が得られないことを前提とするマスコミの批判もありましたが,さすがにあのパブコメの後ではそのような論理は使えず,提訴後にマスコミが訴訟について論評する記事は,今のところ出てきていません。
     提訴後に公表された訴状の要旨は,私が読んでも確かに「無理筋」と評するしかないものであり,その点だけを捉えて原告団や弁護団を批判し,給費制復活の要否という本題には触れないという目線もあるのかも知れませんが,それは自分の立場上,法科大学院制度を廃止に追い込むような意見を公言するわけにはいかないので,敢えて無視を決め込んでいるのではないかと思います。

    No title

    黒猫さん

    ご指摘ありがとうございます。
    黒猫さんは全面否定というよりも、心情的に理解しつつ、この訴訟の負の影響から否定的なお立場と理解しておりました。消極、積極賛同者のなかにも、その認識自体は共有されている方はいると思いますが、それでもこの訴訟が社会に訴える意味の方を重く見るという点で、黒猫さんと見解がわかれるところのように思えます。
    ただ、ひとつ気になるのは、私の認識では全面反対派が一番問題視しているのが、法曹養成問題の矮小化というような、改革への問題意識等では到底なく、給費制廃止を問題視することも、法科大学院を叩くことにも、冷ややかな方々のようにみえます。黒猫さんのような、問題意識からが全面否定派の主流とも思えません。

    そういう分類でいいの?

    河野さんの括りで行くと,私などは「全面的否定派」に分類されるのでしょうが,否定派の中で一番問題視されているのは,技術上の問題などではなく,法科大学院にも法曹人口にも目を背けたまま,法曹養成制度全体の問題を給費制の問題に矮小化してしまうことではないかと思います。
    旧試験時代の弁護士にも,給費制復活が必要と考える人自体は多いと思いますが,現在の合格者数を維持したまま給費制を復活すべきと考える人は,旧試験時代の弁護士の中にはほとんどいないと思います。今回の記事にそういう視点が全くと言って良いほど欠けているのは,非常に残念です。

    No title

    >目先しか見えてない愚か者の感情論は所詮そのレベルなんでしょうね

    おまえの方が上から目線じゃん。

    三権分立も国民の理解が得られているとは言えません。最高裁判所を法務大臣の監督下におく憲法改正は結構国民の支持が得られるのではないかと思っています。

    No title

    多寡の知れている司法予算についてだけは目くじらを立てて修習廃止ですか
    目先しか見えてない愚か者の感情論は所詮そのレベルなんでしょうね
    一体何のために修習があるのかすら考えようとしないんだから恐れ入ります

    コップの中の嵐と斜め上から目線で評して格好付けているものの
    何一つ問題の本質が分かってない馬鹿も同類でしょうか

    No title

    私は、給費制廃止の経過の中に、それこそ違法性の強い間違った法曹人口の激増に対する問題意識のない弁護団に、給費制廃止をとやかく語る資格があるなどと思っていません。
    ようするに、少しでも多くの共感を得ようと、問題意識の対立の大きな部分は避けて通りたいという政治的意識が優先するので、そんな奴が裁判における法律の解釈を語るのは、それこそ内閣に裁判をやらせようと言うのと同じで三権分立のなんたるかを理解しているとも思いません。
    元々法曹不適格者が集まって裁判をしているのではないですか?

    No title

    好きにすればいいんじゃない?
    所詮コップの中の嵐

    No title

    修習制度をなくそうという世論につながる可能性もあるのではないでしょうか。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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