横浜弁護士会「顧問弁護士紹介制」白紙撤回の現実

     弁護士会の紹介で、月5000円程度を払って顧問弁護士がつけられるという横浜弁護士会が「小規模事業者顧問弁護士紹介制度」(E-Comon)が暗礁に乗り上げています。7月からの試行を予定していましたが、会執行部が「会員の理解が得られない」と判断し、計画を白紙にすることを決定したことが報じられています(8月2日付け朝日新聞朝刊「湘南版」)。

     前記記事でも会員から反発が出て意見がまとまらなかったことが、白紙決定の事情として書かれていますが、実は会内の実情は、この記事で連想されるような穏やかなものではないようです。理事者決裁での試行が決まったのち、報道でそれを知った会員が猛反発。理事者は、7月の常議員会に正式にこの件を諮ったが、既に会員のメーリングリストは炎上、会内の業務改革委員会が反対の意見書を提出するなど、反対論が噴出してしまい、結局、意見が割れ、理事者が議案を撤回。その後、担当委員会である法律相談センター運営委員会は、この構想を白紙撤回する意向を固め、その旨の意見書を理事者に上げたことが会員に伝わると、今度は今回の騒動の責任追及が会員間で取りざたされているというのです。

     会員の反発の最大の理由は、顧問弁護士料の価格破壊という点にあります。弁護士にとって、顧問契約による安定収入は、事務所経営上魅力があるものですが、かつて月数十万の顧問料をとる弁護士もざらにいた世界が、いまや月10万円から5万円、さらに下は2万円というラインへ相場は移行しつつある、ともいわれています。この価格破壊に、この制度の「月5000円」が拍車をかけるという懸念があるのです。

     特に問題な点は、それを弁護士会がやる、というところにあります。弁護士会自らがこれを打ち出すことで、これが標準化される点です。実は、弁護士個人が自らの努力として、既に月5000円、年間6万円という顧問料で応じているところもあるわけですが、これを弁護士会がやることは話が違うという意識が、会員にあるのです。

     6月にこれが報道された後、横浜弁護士会のある会員にこの件を聞いたところ、彼は即座に、「この件は、おそらく無理」と言いました。会員間のムードとして、反発は必至で、スムーズに実施にもっていける状態ではないということでしたが、初めから「無理筋」というとらえ方が会員間にあったのは事実のようです。その意味では、執行部の勇み足的な印象は拭いされません。

     この件の最初の報道(6月12日付け朝日新聞夕刊、同月16日朝日デジタル配信)を見て、私は個人的に驚きました。実は、私はこの報道の1年以上前に、同様の制度を、ある民間会社と共同で企画していたことがあったからでした。こちらの企画も頓挫していたのですが、地元の神奈川だけに、正直「どこかから漏れたか」みたいな感じを持ってしまったのです。

     横浜弁護士会の制度案では、個人事業主やフルタイムの従業員が5人以下の法人を対象に、顧問料は月5000円以下を目安にする、というものでしたが、「月5000円」という相場も全く同じ。前記朝日デジタル版の記事では、「八百屋さんも顧問弁護士を」というものでしたが、この一般の商店にも、というコンセプトも、私がかかわっていた企画でも、常々、話に出ていたことでした。

     結論からいうと、調べたところ、全くの偶然。たまたま同じ時期にこんな発想が持ち上がったということのようで、企画そのものは、弁護士会が発想しても何も不思議ではなかったということのようです。

     ただ、ここは考えどころのように思います。やはり、ここでも弁護士会がやるべきなのか、という点です。民間がこうした制度を事業化するということになれば、当然、有料紹介を禁じている弁護士法が問題となります。逆に言うと、同法に抵触しない形で、なんらかの収益を得る形を考えないことには、民間は参入できません。こうした民間の持ち込み企画の話では、ともすれば私の役割は、いつのまにか「イケイケ」になる企画会社の要望に対し、そうした現実を伝えて、ダメ出しや慎重さを求めることが多くなります。今回も、収益確保の面はもちろん始めから議論対象でしたし、それに加えて、会員の反応も予想し、マイナス情報として伝えていたところでした。その点は、案の定だったわけですが。

     一方で、ニーズがないわけではない、と思います。弁護士会にはこの件での事業者から問い合わせがあった、といいます。私たちの構想をめぐる議論でも、商店のような事業者が、自らのホームページ上で、顧問弁護士名を掲載できるとすることを企画のなかに入れていましたが、それ自体、信用という意味でも、トラブルの抑止という点でも、一定のニーズが期待できるという見方が前提にありました。

     それだけに、横浜弁護士会については、逆に今回の提案と撤回劇が、「市民のため」になることが、いかにも弁護士会内の利害で潰された、というとらえ方がなされる可能性があることの方を恐れる会員の声もあります。

     民間事業者のなかには、一律に紹介事業が制約されていることへの疑問があります。事業化に際し、弁護士会に対して、常に規制ということが意識されます。一方で、弁護士会が事業として行う場合に課題となるのは、常に強制加入団体という立場からくるもの。会員の公平な扱いであり、会員の負担であり、会員の意思の反映であり、その観点から、そもそも弁護士会がやるべき事業かどうかです。

     何でも民間事業で、という考え方には賛同できない面はありますが、保釈保証書事業もそうですが(「全弁協『保釈保証書事業』見切り発車への疑問」坂野智憲弁護士「全国弁護士協同組合連合会の保釈保証書事業が仙台弁護士協同組合でも取り次ぎ開始 2%の手数料で事業の継続性・安定性を維持することができるのだろうか」)、一定の基準のもとに民間がやっても問題がないことに、あえて前記したような性格を持つ弁護士会が、会員の意思をよく汲み上げないまま、乗り出すのにも疑問を感じるところがあります。


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    試行錯誤ですが、約2年かけて、NPOでのプチ顧問という制度をスタートしています。ご意見伺えたら、とも思います。よろしくお願いします。
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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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