「法曹界の論理」とされた合格3000人目標撤回

      「司法試験合格者削減の意味」。7月26日付け朝刊、日本経済新聞「大機小機」に掲載された、この記事の見出しだけを、「改革」の現状を知っている人間が素直に見れば、先月、閣議決定された司法試験合格3000人目標撤回が意味する、「改革」の失敗と、それをもたらした大きな見込み違いに言及している記事を連想するもしれません。

     現に、この記事は、前記目標を、この「改革」の「象徴だった」ことを認めています。しかし、ご覧になられた方はお感じになられたと思いますが、ここで展開されているのは、「聞き飽きた」と言いたくなるような、念仏のごとき、増員必要論のオンパレード。従来からの聞こえてくる推進派論調のダイジェスト版です。

     その内容の問題性については、猪野亨弁護士がブロクで詳細に指摘されていますので、是非、ご覧いだきたいと思います。まさに、その通りだと思います。ちなみに、猪野弁護士は、これを日経の論調として批評していますが、厳密にいうと、この「大機小機」というコーナーは、社説のような社の考えを掲載しているところではなく、一記者の意見、しかも、日経に確認したところ、実は社外の記者も書いたりしているところなのだそうです。

     もちろん、あえてこれを掲載しているところも含め、その内容からいっても、日経の社論と全く齟齬するところはないように思います。どういう立場の記者が書いた(書かせた)かは分かりませんが、「社説」では不都合というわけではなく、やはり社としてのプライオリティ、このテーマのバリュの、これが日経としての妥当な扱いだったと読むべきなのかもしれません。

     猪野弁護士のブログで言い尽くされている感はありますが、一つ付け加えれば、この記事のなかで、表現として最も引っかかったは次の下りです。

      「現状の約2000人の合格者でも、就職先となる法律事務所が不足し、弁護士の就職難が深刻なためというのが理由だ。実務経験の乏しい弁護士が司法サービスを担えば、消費者にも被害が及ぶという。しかし、こうした法曹界の論理は妥当なのだろうか」

      「法曹界の論理」とは、どういうことでしょうか。弁護士の就職難が起こり、法律事務所でのかつてのような修養期間が確保されず、実務経験に乏しい弁護士が生まれ、利用者に被害が及ぶ危険が生まれている、ということの、どこが「法曹界の論理」なのでしょうか。ここに率直に違和感を覚えました。もちろん、「永田町の論理」に代表される、要するにその世界にしか通用せず、一般社会では分からない、あるいは容認されないことを強調する表現を、論者が、ここで何のためにあえて使ったのかは説明するまでもありません。つまりは、弁護士がその保身、自らの経済的な事情を、そのあとに羅列するような増員必要論より優先させている、というイメージの強調です。

     しかし、「実害」の話はどこへいってしまったのでしょうか。記事でも引用しているような、その環境で生まれる弁護士たちが及ぼす影響について、「そんなことは起こらない」「あり得ない」ということの説明は、この記事のどこにもありません。この下りは全くの無視です。見方によっては、この記者の立場からすれば、この「実害」よりも、その後に掲げる増員必要論の方にプライオリティがある、ととれます。つまり、そうした弁護士に当たり、安全か確保されない、あるいは危険な状態おかれる消費者のことは目をつぶってでも、以下の理由での増員を優先させるべきなのだ、といっていることになります。その裏には、「自己責任」という言葉も、彼らに非常に都合のいい形で用意されているように思えます。

      もっとも、猪野弁護士の指摘にあるように、その後に掲げられている、「推進派」お決まりの増員必要論ひとつ一つにも、疑問があります。ただ、根本的なこの前記違和感は、この日経の記事に限らず、「改革」推進派の論調にずっとつきまとっています。そして、大マスコミの論調は、大衆自身に現実問題として被ってくること、被っていることが、実は「国民のため」「市民のため」をはじめとする美辞麗句がちりばめられた、この「改革」のなかで、二の次三の次の扱いになっていることを悟れまいとする姿勢、そのために伝えない姿勢に終始しているように見えるのです。

      「司法試験合格者削減の意味」として、「法曹界の論理」という言葉を目にすることになっていることは、まさにそのことの象徴しているように思えます。


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    市場が弁護士を不要だとしていることは、弁護士デビュー目前の司法修習生の4割(推計)しか就職先が決まらないことから明らかです。

    その4割にしても、任期付公務員や法テラスなどの期限付き就職や給料をもらえないノキ弁など、いわば非正規労働者を含めた数字。

    年々優秀な学生は法科大学院を敬遠していることもご存じのとおりで、今年の法科大学院入学者が2700名なんですから、3000人目標を取り下げたのも「遅いやろ」という感じ。

    これでなお弁護士が足りんと論じる日経コラムは、何が何でも弁護士を増やして弁護士という人種を壊滅させたいという怨念に固まった考えというほかありません。よほど弁護士に反感をもつような体験をされたのでしょうが、たまには、全体としての国民の利益も考えてほしいですねえ。

    こうして、彼らの論理はどんどん抽象化されていくのであり、「法曹界の論理」というのも弁護士に対する反感を喚起させようとする小手先のテクニックです。

    まあ、過ちを認めず、そんなコラムを堂々と載せるのが「新聞界の論理」なんでしょう。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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