「経済的支援」のプライオリティ

     先に行われた法曹養成制度検討会議の「中間的とりまとめ」に対するパブリック・コメント募集で、寄せられた3119件の意見のうち、2421件という、回答者の突出した関心度が示されたのが、法科大学院生・司法修習生への経済的支援というテーマでした。その多くが給費制復活を求めるものだったことも明らかになっています。

     利用者の視点に立つならば、今、何に一番手をつけなければならないのかは、本来、このことだけで明白になっているといえます。そして、利用者の視点というのは、当然、今、法曹養成制度と法曹界にとっての、喫緊の課題、あるいは最大のピンチというべき、法曹界が選択されない、つまり人が来ないということに、直結していることもまた、既に多くの人には分かっているはずのことです。

     このことを前提に、7月16日の法曹養成制度関係閣僚会議決定を見れば、このテーマに対する内容の、あまりのシンプルさ、あるいは、その冷やかさは、違和感を通り越して、異様な感じすらします。検討会議「取りまとめ」にあった、 分野別実務修習での実務修習地へ移転料支給、 集合修習期間中の司法研修所内の寮への通所圏内に住居を有しない者の入寮、法科大学院での学生指導などでの収入確保を認める修習専念義務緩和という、形ばかりといってもいいような「支援策」をそのまま忠実になぞっただけ。「経済的支援」とはいいながら、財政措置的なことについては、今後、検討するという話もありません。

     このベースとなっている検討会議「取りまとめ」に、なんとかこの「経済的支援」をここではっきりと打ち出すべきである、という、一部委員による最後の要求、というより打ち出さないことへの最後の「抵抗」が行われたことが、6月19日開催の検討会議第15回会議の議事録で明らかにされています。

      「経済的支援のところをここできちっと出すべきだと思います。もちろん、関連があって、在り方とか地位の問題とかって、そういうのは検討しなくちゃいけないことは事実だと思います。しかし、ここは経済的支援のところですので、特に司法修習のところは、経済的支援については今ここでまとめられなければ、前に書いておられたように、なおいろんな課題があるので財政的なものも含めて見直しを検討するとかいうようなものをここへきちっと入れていただきたいんです。そうしないと、何となくはぐらかされたような感じなんですよ。ここのところは,経済的支援というのを項目で入れていただいているし、パブリック・コメントでも相当出てきているわけですから」。

     委員の田島良昭・社会福祉法人南高愛隣会理事長が、座長の佐々木毅・前学習院大学法学部教授にこう詰め寄ります。佐々木座長も説明していますが、検討会議「取りまとめ」案の方向は、「司法修習の在り方について検討する中で、必要があれば、司法修習生の地位及びこれに関連する措置の在り方や兼業許可基準の更なる緩和の要否についても検討する」という形で、これ以上具体的な言及はしないというもので、いわばお茶を濁しているものでした。「これで取りあえず収めておきたい」という佐々木座長に、田島委員は食い下がります。

     田島委員「もし、今のお話がそうだったら、それは佐々木先生らしくない。今までずっと私が一番尊敬していた佐々木先生は常にいろいろ施策を検討するときには必ず財源をきちっと見据えて議論しろって教えて下さいました。私は先生からのそういうお話聞いて非常に尊敬していたんですよ。であるから、余計、これは先生が本当に思っているとは思えないんです」
     佐々木座長「いやいや、まあそういう話になるとちょっとややこしい話になる……」
     (中略)
     田島委員「ほかのところはやっぱりちゃんといろんなことで、2年後までに検討してこうやってやりますよというようなことは相当入れておられるんですね。ここは財政的な……」
     佐々木座長「財政的な予算的な事柄については、より制約された環境の中で、書くべきところを書くという環境に置かれているということは御理解いただきたいと思います」
     田島委員「それ、分からぬでもないんですけれども、これ何度も前から言っているように、ここはやっぱりきちっと何らかの検討をしていきますよと、経済的支援については」
    佐々木座長「ただ、我々の会議はこれで終わるものですから、検討していきますよということはやっぱり次の会議体に譲るわけですから……」
     (中略)
     田島委員「それはもう本当に納得できないですね。それはやっぱりきちっと、こういう問題が存在するということは,存在していて、次に検討を期待するというぐらいでもいいですから、つなぐものはやっぱりしておかないと、大体パブリック・コメントであれだけ多く出てきているわけですし、70%ぐらいの人たちは経済的支援について述べておられるのですから」

     激しい応酬に、井上正仁・東京大学名誉教授が割って入り、このやりとりは一方的に打ち切られます。分かるのは、「財政的な予算的な事柄」に対して、打ち出したくない、あるいは打ち出せない「検討会議」としての立場です。

     この後、国分正一・東北大学名誉教授から出された「経済的支援」という文言を記述に加える修文案に対し、鎌田薫・早稲田大学総長が反対し、「法曹養成制度をめぐる議論の最も重要な論点が修習生に対する経済的支援であり、これがずっと今後も継続して重要な議論として語られ続けていかなきゃいけない、ここでの非常に強い認識だという印象を与える提案」になることへの、違和感を指摘する場面も登場します。これもまた、この会議に参加した法科大学院側委員の本音でもあるように思います。

      「経済的支援」が志望者を取り戻すための本質論ではないと言い切るのならば、少なくとも、その負担を越えるものが、この「プロセス」から提供されるという見通しがない限り、当然にその間の「実害」を想定しなればなりません。もっとも、負担を越える妙味が利用者に提供されることがあったとしても、やはり、法曹養成が経済的に耐えられる人間だけの制度でいいのか、という問題は残るはずですが、それは「継続して重要な議論として語られ」るべきテーマではない、という扱いに、果たしてなるのでしょうか。

     これから議論されるなかで、あるいはそこに参加する人たちのなかで、「経済的支援」というテーマが、どういうプライオリティをもって扱われるのか、ということに関しては、相当注視する必要があります。


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    要するに財政基盤を論じるには財務省を座敷に上げないといけない。だけど、それは嫌だ。文科省と大学だけで制度設計するんだという意思表示ですね。
    どんな改革であろうと財政基盤が必要なことは明らか。なのに、鎌田とか井上とかは、自分たち(大学)さえよければいい。より良い司法なんて二の次です。
    そういえば司法制度改革でも、弁護士だけ増やして裁判官や監察官は増やさないから、それがボトルネックになって裁判の迅速化は進まない。そして、司法制度改革にあてがわれた僅かな予算は、無能教員の雇用確保のため法科大学院が総取りする。
    彼らには恥も外聞もないようです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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