「通りの悪い話」を抱える弁護士たち

     世の中には、俗に言う「通りの悪い話」というものがあります。一般に理解が得られにくい話のことですが、とりわけ、その当否の判断が被妙になってくるのは、その指摘する立場が関連してくる場合です。

     例えば、正当な主張であっても、発言する当事者の利害を最優先においているものと区別がつきにくい、混同される恐れが強い主張は、少なくとも公的な場面では、通りが悪い。もちろん、当事者の自己弁明・保身にかぶせているととられる主張も同じです。

     要するに、主張されている趣旨・目的を疑われるがゆえに、理解されにくくなるということです。

     確かにこの社会は、そういうものに満ちています。だけど問題は、本来、正当な主張が、そうしたレッテル張りによって顧みられない場合です。

     よくよく弁護士・弁護士会は、この「通りの悪い話」を抱え込むことになっている、と感じます。

     大衆からすると、事件に向き合う個々の弁護士の姿を考えれば、「正当な主張」と考える以上、通りが悪かろうと、およそ徹底的に主張する姿を想像すると思いますし、むしろ「お得意ではないのか」と考えられるかもしれません。通りの悪い主張は「正当でも説得力がない」として、早々に断念する人や、裁判官の心証をとにかく重視する方もいらっしゃるとは思いますが、まあ、その通りかもしれません。

     しかし、こと弁護士・弁護士会と、それを取り巻く世論・マスコミ論調となると、果たしてどうなのか、ということになります。

     とりわけ、司法改革論議のなかで、そういう場面をよく見てきた気がします。例えば、以前にも書きましたが、弁護士増員問題をめぐって、「増えたら質の悪い弁護士が増える」と言っているように、とられかねない発言もそうです。増員賛成派からはもちろん、現実の問題としてそれを理解している弁護士からも、こうした発言は「通りの悪い」、自重すべきものという主張が聞かれました。自治を持つ団体として、自浄作用を疑われる、いわば自らの首を絞める発言、あるいは自己保身のための開き直りととられる、ということです。

     また、弁護士会内で意見が分かれている裁判員制度についても、その憲法上の問題や現実的な課題解消への見通しが立たないことを認め、反対派の言い分に法律家として理を認めながらも、「国民参加」の大義に異を唱えるのは、まさに「通りが悪い」ととらえた方も少なくありません。

     制度スタートを目前に、「ここまできたらとりあえず実施し、チャレンジしたうえでなければ、ノーとはいえない」といった考えた方々もいました。制度によるその間の実害が生じ得ることを考えれば、「やってみて変えればいい」という方法が許されるのかは、専門家としても、疑問があったはずなのですが。

     推進派に属している弁護士のなかにも、「本当は裁判員の強制は疑問だった」「被告人に選択権は認めてもよかった」「最初から国民動員のような無理をせず、小さく産んで大きく育てるという発想でもよかったのではないか」といったことを小声でおっしゃる方もいます。もっとも、これらは現実的に大衆に「通りの悪い話」だったかどうかは疑問です。ただ、確実に大マスコミが「国民参加」の大義を掲げ、「通りが悪い」位置付けにするわけですが。

     当たり前のようにいわれる、裁判の「迅速化」にしても、たとえそれが正当な弁護や適正な裁判に要するものであったとしても、「時間をかける」という主張は、もはや社会的には「通りの悪い話」ととられるといってもいいのかもしれない。

     さて、「通りの悪い話」は、実際に前記したような言う側の隠れた思惑が入っていたり、また、その意図が占める度合いが現実的に高い場合は仕方がないとしても、たまたまそうしたものと勘繰られる要素とかぶった正当な主張の場合、どういう対応がとられるべきなのでしょうか。

     やはり「通りの悪い」主張のデメリットを、正当な主張を成り立たせない絶対的な要素として、いわば説得力のない主張として回避するという選択は、とられます。だけども、常に「通りの悪い」主張を避けて通るとすれば、常にそのレッテルを張られた側が、正義とは無関係に不利になるということを許す社会につながりかねません。大マスコミを通じて、それが意図的に行われることもあり得ます。

     「通りの悪い話」のレッテルを剥がすには、要は精密な論理に立った、丁寧な分析を大衆にうながすしかありません。時に大枠でくくった、単純化したマスコミ論調のおかしさをきっちり大衆に伝える必要もあります。

     その意味で、「通りの悪い話」こそ、プロとしての勇気と根気が問われる場面もあるように思います。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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