法曹三者排除が生んだ「限界」

      「法曹三者だけによる議論にゆだねるべきではない」ということが、今回の司法改革をめぐる論議では、当初からいわれてきました。以前にも書きましたが、司法制度の改正にあたっては、法曹三者の意見一致を努力義務とした1970年の裁判所法改正の際の、参議院法務委員会附帯決議に基づき、慣行化していた三者話し合い路線を見直すという流れです(「法曹三者『合意路線』見直しの結末」)。

     その理由として、表向きいわれたことは、法曹三者は民主的な負託を受けたものではなく、利害関係団体であるとして、事実上、立法を方向付けるのはおかしい、といったものでした。さらに、それまでの法曹養成をめぐる議論の経過などから、三者の論議には時間がかかるということも批判され、とりわけ、その主な原因は、日弁連・弁護士会にあるということもいわれました。強制加入団体として、重層的な意思決定を経なければならない日弁連・弁護士会の対応の遅さが、議論を停滞させるということは、つとに三者間でも在朝二者が批判的に指摘していたことでした。

     今回の司法改革では、あたかもその方向を「利害関係団体」の決定に引きずられない民主的なものにするという建て前や、改革の「抵抗勢力」になりかねない三者による、議論膠着を回避するといったイメージのなかで、その議論から法曹を排除する形が、不思議なくらい三者から強硬な反発が出ることもなく、作られていったのでした。結果として、日弁連は司法制度改革審議会にもオブザーバー参加となっています。

     ただ、今にしてみれば、このことは、とりわけ法曹養成をめぐる改革論議について、別のことも象徴していたというべきです。いうまでもなく、法曹三者が支える司法研修所から、大学が運営する法科大学院へ、その中核を移動させた新法曹養成の設計です。従来、三者が長く話し合ってきた司法研修所教育を中心とした改革論議に根本的な仕切り直しを迫る、法科大学院制度導入には、当然、それにふさわしい、もしくはそれに都合がいい議論の枠組みも用意される必要があったということです。

     結果として、これらに意外なほど法曹界が抵抗しなかった理由は何だったのか――。今になって、法曹界のなかでも、そんな問いかけの言葉が聞かれます。法曹の多くが、たとえ改良の余地はあっても、司法修習の意義や成果を一定評価し、一方で、大学が運営する実績ない法曹養成教育の未来を見通せないなかで、それでもこの方向を受け入れた、その理由を今、挙げるとすれば、一つには法曹を激増させるという決定、そして、もう一つは「改革」の空気とでもいうべきものだったのではないか、と思えます(「法曹養成『プロセス』論が問い直すべきもの」)。

     6月6日開催の法曹養成制度検討会議第14回会議の議事録の公開後、そこでの委員の発言が、様々なブログで取り上げられています( 「黒猫のつぶやき」 「一聴了解」 「福岡の家電弁護士 なにわ電気商会」 「Schulze BLOG」)。そこでの法科大学院関係者の発言については、これらのブログが的確な分析をしているので是非、ご覧頂きたいと思いますが、実はこの会議のなかで、前記「改革」議論の在り方について、委員の和田吉弘弁護士が次のように指摘しています。

      「私はこの検討会議で先送りになった問題が多いのは残念なことだと思いますけれども、やはり法曹三者が当事者として参加した会議が必要だと思います。この10年にわたる司法改革とそれ以前の準備期間の間、特に弁護士会が反対すると議論が進まなくなるということで関係する会議の当事者から弁護士会が排除されてせいぜいオブザーバーとされ、併せて裁判所も検察庁も同様になってしまいました。その結果として,司法の実情に通じた議論がしにくくなってしまったように思います」
      「法曹養成制度を検討する場合に、もちろん法曹三者以外の方の視点も必要で大変貴重であるとは思いますけれども、例えば司法試験の試験科目にしても、法曹実務家を養成する場面での各科目の持つ意味はどういうものなのかという話になりますと、法曹三者でないと実際上議論が十分できないように思います」
      「私は、決して法曹三者が偉いとか偉くないとかいうつもりは全くありません。そうではなくて、法曹養成という事の性質上、実情をよく知っている法曹三者が当事者となって初めて実情を踏まえた十分な議論ができるように思うだけです。もし、失礼に感じる方がいらっしゃるとすれば申し訳ないと思うんですけれども,率直に言って、法曹三者が当事者とならなかったということが、この検討会議を含めこれまでの会議の限界であったように感じます」

     これは的確で、かつ根本的な指摘というべきです。実情に最も通じた専門家を排除した結果が、当然に実情を反映しない議論を生んでいる、と。そして、解決策を先送りした、この会議を含め、「改革」論議の限界なのだ、と。それこそ、今にしてみれば、当たり前過ぎることがもたらした現実です。そして、さらにいってしまえば、「利害関係団体」というレッテル貼りによる排除の先に、実はもっとあからさまな「利害関係団体」による議論を目にしている現実もまた、その限界なのではないかということに気付かされるのです。

     どこに立ち返るのか。そのことが、やはり、この「改革」の最も重要なテーマというべきです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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