「会費滞納」に対する姿勢の意味

     高額で知られる弁護士会の会費ですが、この滞納に対しては、他の懲戒案件に比して、会の姿勢は厳しいといった認識が弁護士会員のなかにはあります。現に、他の依頼者を巻き込んだ金銭に絡む非行事案でも、あまり出されない退会命令が下されるからです。弁護士会の強制加入制度が課されている弁護士にとって、所属会からの追放は、弁護士になる資格はあっても、弁護士として活動できない状態。他の弁護士会に登録を認めてくれるまで仕事ができない、実質的な廃業命令ですから、その深刻度はいうまでもありません。

     いくらの滞納で退会命令になるという明確な基準があるわけではないようです。会としての対応にもバラツキがあるようですが、ある弁護士会理事者経験者によれば、会としては3ヶ月の滞納くらいから、度々、督促を出し、1年経過となれば、相当重大なケースとして受けとめる、としていました。マスコミが取り上げた事案に限れば、日弁連会費と併せて、100万円台後半から200万円超のケースに退会命令が出されています。

     会費滞納に対する厳しい弁護士会の姿勢の理由としては、一応、弁護士自治が挙げられます。日弁連・弁護士会収入の9割を占める会費が、弁護士会の自立と、その公益活動を支える、いわば「弁護士自治の根幹」といった説明がなされます。支払う側の受けとめ方にも、いろいろありますが、表向きこの趣旨を了解しながら、本当の理由は、前記廃業させられるわけにいかない、という縛り、つまりは「そういう制度だから」という納得の仕方をしてきた会員が少なくないのが現実です。

     ただ、今、この会費滞納が、別の形でも注目されています。先ごろ、東京弁護士会が発表した「総合的な不祥事対策」のなかに、こんな文面が出てきます。

      「会費を滞納している会員は、経済的に困窮していることが推察されるため、財務担当理事者とも情報を共有し、定期的に打ち合わせをして調査等の対応の要否を検討します」

     依頼者との金銭トラブルをにらんだ、予防策というべきものでしょうか。弁護士会理事者のなかにも、もともと会費滞納者=不祥事予備軍という見方があったことは事実ですが、それをはっきりと打ち出したものといえます。これには、弁護士のなかにも異論があるとは思いますが、弁護士の金銭絡みの不祥事の実害を、とにかくなんとかしなければならない事態に、「やれることはやる」という姿勢がうかがえます。

     しかし、前記文面でもあるように、会費滞納は経済的困窮を推察する材料なわけですから、要は経済的困窮=不祥事予備軍を認めているということです。だとすれば、いうまでもなく、経済困窮の状況を改善しなければ、根本的な解決にならないことになります。片っ端からいぶり出し、あるいは排除するのでは、追いつかないことも、明白というべきです。

     この滞納件数は、従来から弁護士会が表に出さない数値ですが、昨今の弁護士の経済困窮のなかで、増えてきているという話は伝わってきます。かつてベテラン層の会費滞納に退会命令を出した、弁護士会の関係者は、新聞の取材に対し、「厳しい経済事情の中、やりくりして支払う若手弁護士らに示しがつかない」というコメントを寄せていました。内向きな弁護士自治・強制加入維持という立場からは、こうした言い方になると思いますが、一方で、前記東京弁護士会の姿勢は、不祥事対策として対外的な意味でも、「示しがつかない」ととらえているととれます。

     しかし、冒頭に書いた会費滞納が他の金銭不祥事関係より厳しい弁護士会の対応に対しては、「依頼者のおカネよりも、弁護士会収入の方が重いのか」といった皮肉や、弁護士会の感覚のズレをいう声が聞かれます。これに対し、弁護士会は、「弁護士自治の重要性への理解不足」という説明で、対応できるのでしょうか。そもそも会費を滞納させないで、頑張って守る弁護士自治や、不祥事対策の努力に対するプラス評価よりも、前記したような、弁護士会自身の収入にかかわる金銭問題に敏感というマイナス評価の方が、圧倒的に社会に伝わりやすいのが現実というべきです。もちろん、その一方で、不祥事が増えれば、信用低下は会費滞納者に限らず、弁護士全体に被ってくることです。

      「改革」がもたらした弁護士の経済的な激変と、強制加入制度という縛りのなかで、滞納せずに、それこそなんとかやりくりして会費を支払っている弁護士会員にとっては、なにやら二重三重にやりきれない現実が横たわっているように見えます。しかし、最も肝心なことは、どういう理由を付けたところで、こういう状況が生まれていること自体、依頼者市民にも、何一ついいことはない、ということです。


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    No title

    依頼者の自己責任の貫徹のためにも、事務所財政の透明化、財産状況の開示が必須でしょう。それをみて、依頼者も困窮した弁護士に頼んだ責任を初めて問えます。
    弁護士業界にも外部に対する開示という責任を果たしてもらいたいものです。

    No title

    会費滞納者には3つのパターンがあります。
    ひとつ目は、おおむね75歳以上の一人事務所の弁護士(狭義の老弁)のケースです。彼らは往時の売上がなくなって会費を払えないのですが、認知症かと思わせるほど頑迷で、何度督促してもなしのつぶて。結局、1年以上会費を滞納して退会命令を食らいます。事件屋が事務長として食い込んでいる(非弁提携)のも、このケースが多いといえます。
    ふたつ目は、事務所を馘になった新人弁護士たち(ノキ弁を含む)です。彼らに会費督促の電話をすると「馘になって再就職先がないので待ってほしい」と泣き落としにあいます。それでも引き下がるわけにはいかないので、結局、月額3万円程度の会費を払ってもらいますが、原資は親からの援助か何かでしょう。しかし、現状は悪化の一途で、こういった弁護士に仕事が入るはずもありませんから、やがて持ちこたえられなくなります。
    三つ目は、登録10年~20年を経た中堅弁護士たちです。複数の弁護士が在籍する地元では評判のよい事務所のこともあり、外(依頼人)から見るかぎりでは、資金ショートしている事実はわかりません。ところが、督促の電話をかけると、事務員が応対し、「今、事務所の口座に残高がないので払えません」と居直られます。それでも払ってほしいと言うと、「私たちも2カ月給料遅配なんです。会費が先なんですか。事件報酬が入れば払うと言っているでしょう!」と怒鳴られるんです。
    三者三様の言い分もあるのでしょうが、ストックを切り崩し、親族に無心して事務所を経営するのには限度があります。その意味では、「弁護士自治」というお題目を守るために会費が必要不可欠だと言っても、会員の賛同は得られなくなるでしょう。それが3年後か5年後はわかりませんが、その日は確実に近づいています。
    なお、こういう情勢下においては、依頼人も弁護士をよく観察しなければなりません。なにせ、国民が選択した司法制度改革では、すべてが自己責任なわけですから。

    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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