弁護士の「顧客満足度」

     顧客満足度という言葉が、弁護士の口からもよく聞かれるようになりました。もっとも、この言葉自体の歴史はそう古くなく、1980年代にアメリカで使われ出して以降、普及したとされているものですから、こういう意識や視点そのものが、かつての日本の弁護士になかったとか、希薄だったということを、前記変化だけから読みとることはできません。

     しかし、一方で、この言葉に当たる意識や視点をかつての日本の弁護士が、現在と同様に持ち合わせていたのかというと、それも疑わしいものがあります。ここに増員政策と、そのなかで競争を意識し出した弁護士たちの、一サービス業としての自覚の芽生えをみる人も少なくないと思います。ただ、あえて弁護士がこうした意識から、離れていた要素を挙げるとすれば、そこには別の意識があったようにも思えます。つまり、それは、いうなれば自分たちは最終決定者ではないという意識。弁護士は依頼者のために万全を尽くすという建て前でやっている。しかし、たとえ万全を尽くしても、最終決定者が裁判所である以上、顧客の満足は得られないことはいくらもある、ということを弁護士は知っているのです。

     もちろん、常に問われるべきは、弁護士がその万全を尽くしているか、尽くしたかであるわけですが、ただ、逆に言えば、弁護士の万全は悲しいかな常に結果に対する顧客の満足に一致するわけではない。むしろ、時には、弁護士からすれば不当に、結果の不満足が弁護士への不満になって被さってくる。弁護士は顧客に満足してもらいたいと思っても、少なくとも結果の満足から逆算したものが、100%自らの能力や努力の評価につながらない、ということを、どこかで意識している仕事といえます。

     このことは、最近でも、弁護士から時々、耳にすることです。有り体にいえば、同様のケースで、およそ同じような、プロからみて相応の落とし所というべき結果になった場合でも、依頼者によって受けとめ方が全く違うことがいくらもあるのが、弁護士の仕事だということです。「結果は満足するものではありませんが、先生はよくやって頂いた」という反応ばかりではない、という話です。仮に顧客満足度だけを数値化して、弁護士の質を評価するシステムがあったとしたならば、「多くの弁護士はやりきれないはず」という人もいました。

     いうまでもなく、顧客満足度を弁護士が強く意識し始めているとすれば、それ自体が依頼者・市民にとって、悪いことであるわけはありません。むしろ、「万全」ということの方に、弁護士の自省がより向き出したということもできます。実際には、「結果が出ているのに顧客満足度が低い弁護士」と、「結果が出ていないのに顧客満足度が高い弁護士」がいて、前者は「依頼者へのプレゼンに失敗している」ことがある、「非常にもったいない」事例だと書いている弁護士のブログ(「相模川の弁護士2.3」)がありました。やるべきことをしていて、十分な弁護活動なのに、依頼者から信頼されない原因の中に、依頼者への説明の不適切さや不十分があるという指摘です。

     もっとも、弁護士にとっても、依頼者にとっても、難しいのは後者の方のように思います。結果が出ていないのに、顧客が満足するという状況が、弁護士の努力や「万全」が正しく伝わったプレゼンの結果なのか、それとも「万全」ではなかった弁護士の仕事が隠された結果なのか。このどちらかによっては、話が全く違ってきます。

     顧客の満足度の大きな要素は、やはり裁判での「勝ち負け」であるとする見方からは、勝訴率こそ弁護士の評価につながっていい、もしくは判断材料にしたいとすることが、一般にはいわれますが、多くの弁護士はそれに否定的であり、また日弁連の規程でも広告として表示できない事項とされています(弁護士の業務広告に関する規程4条1項)。

     和解をどう考慮するかということもありますが、勝訴率が正当な評価につなげられない決定的な要素として、「勝ち筋」しか受けない弁護士が、現実には存在するということがあります。勝ちそうな案件しかやらないという弁護士と、負けることは分かっていても引き受けて出来るだけの成果を上げようとする弁護士。勝訴率で劣る後者の弁護士の評価が下がるのが正しいのか、という話です。弁護士にはいろいろなタイプがいるわけですが、同業者として、前者のタイプを見抜いている人は結構います。

     弁護士の努力や能力が、顧客満足度に直結しない、あるいは直結しないことがままあるのは、基本的には、その仕事が、より社会のなかにある「欲望」に直接かかわる仕事であるからという説明もできるかもしれません。納得してもらったうえで進められた先の結果が、最終的に納得されないことがあるのも、それこそこの仕事の宿命として受けとめている弁護士は沢山います。

     弁護士にはできるだけが頑張ってもらいたいことに変わりはありませんし、「万全」を求めるのもまた当然ですが、弁護士という仕事の特殊性は、ここにもあるように思います。


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    そう言えば「顧客満足度9・%」とかいうウソを垂れ流すサルが居ましたね。
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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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