弁護士必要論の「片思い」

     日弁連が2006年から2007年にかけて、全国の中小企業1万5450社を対象に行った弁護士ニーズ調査というものがあります。予想される法曹人口の急拡大をにらみ、弁護士のニーズ発掘の可能性を探ることが念頭にあった調査でしたが、その結果には、はっきりとした一つの現実が浮かび上がることになります。

     弁護士を利用したことがない企業は、全体の47.7%。その理由は、「特に弁護士に相談すべき事項がないから」74.8%、「弁護士以外への相談で事足りているから」21.9%、「費用がかかる・費用が高いから」15.7%、「日ごろあまり接点がないため頼みにくいから」13.6%、「弁護士は探しにくいから」5.3%。

     この結果に、弁護士会内の「改革」推進派のなかには、それなりの衝撃をもって受けとめた方もいらっしゃると伝えられますが、一方で、多くの弁護士の反応は、そうでもなかった。つまりは、一般の弁護士の肌感覚としても、中小企業の弁護士ニーズの現実は、このくらいのものだと認識していたようにとれました。

     これからのニーズ拡大をにらむ以上、主に対象としたいのは、利用経験がないとしたほぼ半数の企業。その7割以上は相談することがないとしています。費用の低額化、アクセス改善が実現したとしても、それが拡大につながるのがどのくらいの企業なのか、この結果ははっきりさせています。あとは前記7割について、弁護士の新たな利用活用方法を提案し、「相談すべき事項」を創出するしかないことになります。この分野から、弁護士増員の現実的な可能性を導き出すためには、それらの成功先にどのくらいのニーズが生まれ、それが弁護士にとってどのくらいの経済効果があるかを考えなくてはなりません。

      「検討するまでもなく期待できる数値ではない」という声が弁護士から聞こえてきました。しかし、どうも調査を行った日弁連関係者の受けとめ方は、これまたそうでもないようです。調査結果報告書の問題の部分の評価は、次のようなものでした。

      「特に、弁護士に相談すべき事項がない、弁護士以外への相談で足りているとする比率が相当高いことから、弁護士に相談すべきことは特別なことと考えている企業が多いことがわかる」

      「頼むことがない」と言っているのに、それをまだ「敷居の高さ」のせいにしているようにもとれます。逆にいえば、アクセス障害除去の先に、眠っている、本来弁護士に頼みたいニーズが浮かび上がってくるはずということでしょうか。

     ネットでも見られますが、日弁連は、 「中小企業での弁護士の活用法」というパンフレットを作成していますが、そこにもこうあります。

      「中小企業の経営者の皆さんは、私たち弁護士に対して『トラブルが起きたときに頼む先』、『敷居が高い』というイメージをお持ちではないでしょうか。このパンフレットは、経営者の皆さんに、弁護士は『企業経営のサポーターである』ことをご説明するために作成しました」

     これらを弁護士側の努力として評価される方もいるかもしれませんが、これは明らかに現実とずれている。むしろ、弁護士を活用してもらいたいという気持ちが前面に出てしまっている「片思い」のようにすら見えてしまいます。そして、この「片思い」のような必要論と活用論は、中小企業対象に限らず、弁護士側から聞かれる、弁護士増員に伴うニーズ論のなかで、実はずっと耳にしてきたように思うのです。

     おそらく中小企業同様、「特に頼むことはない」「足りている」と思っている市民が多数の社会を、大量の「泣き寝入り社会」と既定し、「掘り起こし」の名のもとに活用方法を提案する。さらにアクセス改善と、(弁護士会内では強調されてきたわけではありませんが)低額化が実現されることで、ニーズは拡大する――。それらの成功のもとに描かれたのが、まさしく弁護士増員社会とみることができます。「泣き寝入り」を含め、弁護士が必要な場面がこの社会があったとしても、その見積もり方には、多分に「片思い」といえるものはなかったでしょうか。

     眠っているはずの弁護士の必要性と、アクセス障害除去で、弁護士増員政策は成り立つということを、日弁連・弁護士会は、内にも外にもアピールしてきましたし、少なくとも「改革」推進派の方々の基本的なスタンスは、今も変わっていません。しかし、「片思い」にも見える必要論が、どこまで社会の意思と現実を反映しているのかに、そろそろ正面から向き合わなければならないように思います。


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    需要なんて言っても、タダならきいてみようか程度の話だけで、とても需要とはなりえません。
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    そんなバカげた、仕事と言えないボランティアのために弁護士を増やしたのかな?と、疑問の尽きない毎日です。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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