「多様性確保」失敗のとらえ方

     2004年に2792人にいた法科大学院に入学する社会人の数は、2012年には689人と4分の1以下に減少、全入学者に占める割合も、48.4%から21.9%に半減しました。一方、法学部以外の学部出身者が入学者全体に占める割合も、この間、34.5%から18.8%に減っています(「法曹養成制度の理念と現状」)。

     多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院が、「学部段階での専門分野を問わず」受け入れ、「社会人等にも広く門戸を開放する必要がある」と、司法制度改革審議会の最終意見書が規定した、法科大学院による「多様性確保」策は、この数字からも実現していない、明らかに失敗というべきです。

     なぜ、こういうことになったのか。このことももはや多くの人には分かっていることです。一口に言えば、現実的に法科大学院は彼ら社会人たちにとって選択しにくい、あるいは選択できない制度だからです。経済的時間的負担がのしかかる、司法試験受験条件とされる、この「プロセス」は、彼らにとって司法試験をよりチャレンジしにくい存在にしました。加えて、法学未修者がこの「プロセス」で合格にたどりつくことは容易でないこと、というよりも、「プロセス」にとって、それが容易でなかったこともはっきりしました。

      「多様性確保」の旗を掲げながら、実は法科大学院という制度の現実は、どんなに「プロセス」の効用や理想を並べられても、司法試験にチャレンジしようとする社会人には、冷たい存在だったということです。このことは、旧司法試験を経た、弁護士の多くが、本音の部分で感じているはずです。この間、法科大学院の現状をみて、「もし、自分のときに、法科大学院修了が受験条件化されていたり、給費制がなかったりしたならば、今頃、弁護士なれていたか分からない」という声を、何人もの弁護士から聞きました。

     在学中から受験して実力を試せ、さらに社会人になってからも、働きながらコツコツと勉強して何度でも気力の続く限りチャレンジできる旧制度の方が、「広く門戸」を開いているのは、はじめから明らかでした。この「プロセス」の「多様性確保」といううたい文句に、内心は首をかしげながら、「改革」の季節のなかで、異論を唱えなかった人も沢山いるはずです。それでも、社会人としてチャレンジし弁護士になった苦学組の中には、せめて「予備試験」ルートを広く確保すべきとして、その冷遇策に異論を唱えた人もいました。

      「法科大学院 『多様な法曹』のために」

     7月2日付け朝日新聞朝刊は、こうした見出しで、今回の法曹養成制度検討会議の最終的な「取りまとめ」を受けた社説を掲載しました。司法試験合格率2割台で、法科大学院は行っても法律家になれる確証がない。法曹人口が増え、合格しても就職がない。志願者も減っている。だから、検討会議が法科大学院再編と合格者3000人という目標撤回を打ち出した――。こんな現状認識につなげて、「朝日」は前記「多様性」の問題を持ち出します。

      「改革が求めたのは、新しい法律家像は、知識はもちろん、洞察力、説得力、人権感覚、国際的視野を備えた存在だったはずだ。現実には、法科大学院に飛び込んだ社会人、理系出身者など司法試験で苦戦している。実務が想定した講義や外国法、法曹倫理などの科目は、司法試験に直結しないからと学生に軽視されがちだ。旧制度に戻りつつあるのではないか」

     前記のような現状認識に立ちながら、「朝日」は、そこから「改革」を見直すのではなく、なお司法審「改革」路線から未来をみようとしているようにとれます。その無理といえるものは、これに続く現実問題として、では、どうすべきか、という「朝日」の言い分からよりはっきりしてきます。

      「法律家をめざすひとり一人の強みを評価する」よう、司法試験の在り方を考え直すべき。合格3000人にこだわる必要はないが、法律サービスは社会の隅々に行き渡っておらず、「法的な助言があれば防げたかもしれないトラブルはあとを絶た」ず、明石市のような弁護士職員を採用し、お年寄りの相談に応じるなどの実践もまだまれ。「必要なとき、当たり前に法律家を頼れる、そういう工夫の余地はまだまだある」――。

     これは、何も言っていないのと同じではないか、と正直、思ってしまいました。前記社会人、理系出身者「苦戦」の下りもそうですが、どうも「朝日」は、司法試験の方に、「多様性確保」失敗の原因を持っていこうとしているようにさえ見えます。あとは、いつもながらの「まだまだ必要論」で、「3000人」目標設定の失敗からも目を逸らさせる「改革」路線擁護論です。

     前記したように、この「プロセス」がどのように社会人志望者たちに受けとめられ、「プロセス」の「多様性確保」が失敗したのか――。そのことを「朝日」は、直視せず、また、直視する視点を読者に提示しません。「朝日」は文中、「司法試験の合格者を早く出すことだけが、法科大学院の使命ではない」などとも言っています。司法試験志望者たちが抱える現実問題を全く考慮しないばかりか、「多様性確保」のために、何が一番望ましいのかではなく、別のものを守ることを前提に、具体的な見通しもない「多様性確保」策とその必要性を掲げているように思えてなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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