「先送り」批判の真意 

     予備校講師の発した一言が、意外な流行語となった「今でしょ」。ピークは過ぎた感じですが、弁護士を含めて、「こんな人までが」と思うような方々が、話しのオチのように、この言葉を使って、周囲の笑いを誘っているのを度々目にしてきて、世の中には、この言葉を当てはめて指摘したくなるような「先送り」事案が、どれだけ存在しているんだ、という気持ちにもさせられました。

      「先送り」の問題とは、「実害」の問題と言い換えることができます。じっくり検討・議論すべきものは、必ずしも「先送り」批判には当らないわけですが、その判断基準はいうまでもなく、結論が先延ばしされることの「実害」。慎重な議論の必要性も、その「実害」の前に根拠を失う場合があるわけで、最終的には、「先送り」当事者が、そこをどこまで認識しているのか、あるいは直視するのかにかかっていることにもなります。

     前身の「法曹の養成に関するフォーラム」で1年、その後、多くの委員をそのまま横滑りさせて10ヵ月議論してきた法曹養成制度検討会議が、最終的な「取りまとめ」を発表しました。しかし、司法試験年合格3000人の旗を「現実性を欠く」として降ろすことを提言しながら、新たな数値目標を掲げず、今後の法曹人口、法科大学院、司法試験、司法修習の在り方について、新検討体制でさらに2年、調査・検討する方向を打ち出しました。検討会議はこの事態を「遺憾」としていますが、要は、大半の問題は結論に至らず、積み残しといっていい状況です。

     これを6月28日付け日本経済新聞朝刊が「社説」で取り上げました。タイトルは「『2年後』では遅すぎる法科大学院の改革」。弁護士の数が10年で1.7倍になっても仕事の需要は伸びていない。就職難によって事務所で実務を通した教育がなされず質の低下が危惧されている。法科大学院修了生の合格率は低迷。入学者はピーク時の半分に。こうした実情で2年後に結論を出して、それから制度を作り実施では改善まで何年かかるのか。学生や志望者たちにこれ以上の不安や迷いを与えてはならない。就職先がないのは大学院離れにつながる。多様な人材の危機だ――。

     まことにごもっともな「実害」への認識を並べた「先送り」批判です。ただ、「改革」の旗を振り、「改革」の制度設計への疑問を喚起してこなかった大マスコミの責任を、直視しないのか、という問題はひとまず置いたとしても、この社説には、ひっかかるところがあります。

      「司法改革の制度設計そのものに問題があったことを指摘しながら、肝心の具体的な改善策は先送りしてしまった」 
      「『身近で使いやすい司法』を実現するために法曹人口を増やす方針は間違っていないが、現実的でなくなった数値目標をいったん取り下げるのはやむを得まい」
      「よりよい司法を目指したはずの改革だったが、むしろ多様で有為な人材を確保できない危機に直面している。一刻も早く新たな道筋を示すことが国の責任である」

     制度設計に問題はあった、数値目標も現実的ではなかった、でも、「身近で使いやすい司法」「よりよい司法を目指した」改革だったのだ、と。理念が正しかったことを所与の前提とするような、この書き方には、相変わらずの「刷り込み」手法がみてとれます。法曹人口増にいたっては、それが「身近で使いやすい司法」の実現に必要なことは、疑うまでもないといった扱いです。

     これには、前記並べられた「実害」と、チグハグな印象を持ちます。ここまで「実害」を認識しながら、この制度設計を生み出した理念、「身近で使いやすい」司法とは、「改革」がどういう未来図の下に描き出したのか、それをどう社会的要請と規定したものだったのか、「社会の隅々」に弁護士が登場する未来をそれと結び付け、それを増員政策で実現させるという発想自体に誤りがなかったのか。そして、一体誰がそれを求めたのか――。そのことを、一度、疑ってみるという視点には、なぜ立たないのでしょうか。これはそうした疑問への目線を、国民に極力喚起しない、相変わらずの大マスコミの姿勢にとれます。

     同日の日経朝刊は、別面で「新人弁護士 見えぬ未来」「合格者増 仕事求め行列」という見出しのもと特集記事を掲載し、若手弁護士の窮状を詳しくレポートしています。そこでも「司法制度改革の一環として導入された法曹養成の新しい仕組みが当初の狙いを外れて漂流している」と書き、どう見てもこうした状況が、「改革」の「実害」ととれる内容なっています。

     ただ、このシリーズのタイトルは、なぜか「法曹誤算」。これは単に、編集者のセンスの問題かもしれませんが、現状が何やらこの世界を選んでしまった若手法曹の誤算であるととれるタイトルには違和感があります。これを「改革誤算」とつけないところに、前記したような意図を読みとるのは、考えすぎかもしれませんが、大マスコミが「先送り」批判を繰り出しても、「改革」論議が、本当に立ち返るべきところ立ち返ることは、「先送り」している印象を持ってしまうのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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