弁護士独立の「夢」が語られる違和感

      「法律事務所で勤務経験がない弁護士でも大丈夫ですか」「いきなり独立する弁護士を弁護士会は最近、推奨しているのですか」。こんな質問を市民からされることがありました。「即独」(ソクドク)といわれる現象が一般に知られることになっていることをうかがわせるものですが、こちらの回答は微妙なものになります。

     大丈夫というのは、市民として信頼に足るかどうかという意味だとすれば、いくらソクドクで業務をこなせている弁護士がいたとしても、かつてのような修養期間の意味を考えれば、その比較において、もちろん「不安」はあるといわざるを得ません。だからといって、一概に大丈夫でない、とは言い切れないし、そもそも信頼に足るかどうかを、このことだけで判断できない、とはいわなければなりません。

     一方、弁護士会の姿勢としては、別に推奨しているわけではないけれど、支援はしている、という回答になります。推奨していないものを支援はするのか、と問われれば、現実問題としてソクドクする弁護士がいる以上、放置はできないのだ、と。

     ただ、そんな疑問を抱いている市民が、この文面を見たならば、どんな風に思うのかな、と考えてしまいました。日弁連主催で7月1日に予定しているシンポジウム「若手弁護士独立の実践論」について、日弁連ホームページ上の案内文には、こう書かれています。

      「この時代、早期に独立して、『夢』の実現に向けて邁進している弁護士がいます。いったい、彼らは、どのように独立したのでしょうか?そして、独立後、どのように仕事をしているのでしょうか?このシンポジウムでは、様々なタイプの実践例を通して、若手弁護士の独立の方法論を考えます」

     日弁連によれば、このシンポはソクドクを含む早期独立をテーマにしているそうで、若手会員向けに独立の可能性について、前向きな材料を提供しようとするものであることは分かります。既に定員はいっぱいで、若手の関心の高さもうかがえます。ただ、これを見る限り、日弁連がソクドクを含む早期独立を「推奨している」ようにも、実践例によっては「大丈夫」といっているようにも、とられて何も不思議ではありません。

     注目しなければならないキーワードは、「夢」です。どうも、現在の若手弁護士の窮状に対して、「改革」を推進、肯定する側が、この言葉を宛がおうとするものが見られます(「『贅沢品から必需品へ』という現実味」 「『格調』を重んじ『夢』を与える『フォーラム』」)。

     今、ソクドクを含めた早期独立をした若手弁護士のなかに、「『夢』の実現に向けて邁進」している人たちがいないとは思いませんし、あるいはこのシンポで実践例の発言を予定している方々は、そうなのかもしれませんが、果たして現状は、この言葉で括りきれるのでしょうか。法律事務所に就職して、かつて先輩たちが経てきたような修養期間を確保したいのは山々でも、就職できなかったり、仮に就職できてもソクドク同然の扱いに、現状、仕方がなく独立の道を余儀なくされた若手たちの存在を考えたとき、この「夢」という言葉には違和感が漂います。

     つまりは、今、語るべきは「夢」なのかどうか、あるいは「夢」だけでいいのだろうか、と。この状況を推奨しているのでなければ、修養期間が破壊されている現在、それを経ずしての独立は、基本的には依頼者・市民の安全という面において、望ましくはないが、それこそ現実問題として安全確保のための支援はせざるを得ない状況にある、という立場を弁護士会ははっきりさせてもいいように思うのですが、そうでもない。

      「改革」以前にも、地方弁護士会でソクドクは存在していたという話はあります。ただ、よく話しをきけば、地域の弁護士同士のつながりのなかで、やはり一応の修養環境が担保されていたという事実もあります。現在の独立の状況は、そうした当時とは全く異質の環境のなかで起こっていると語る弁護士もいました。可能性もさることながら、何が一番望ましい形で、取り戻すべき形なのか、そのことが「夢」の話からは伝わってこないのです。

     冒頭の市民とのやりとりの最後は、決まって市民側のこういう疑問にたどりつきます。「何でこういうことになっているの?」。こちらとしては、また、長い説明をしなければならなくなります。

      「夢」を語ろう、という先輩弁護士たちの声が、窮状のなかの若手を元気付けようとするものであったり、「泣き言を言っていても仕方がない」という諦念に基づくものであったとしても、冒頭の市民の声をきくにつけ、そのなかにある「不安」と、それを生み出しした根本原因たる「改革」の問題を直視していない、ととられる余地はあるように思えてなりません。


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    即独で成功するなんて特異な才能と運と財産がないと無理で、そういう人はもともと就職する必要がなかった人でしょう。就職にあぶれた修習生に即独勧めるのは間違ってますよ。

    No title

    なるほど。そうであれば,文脈で誤信することがないように,「悪夢」と明記した方が親切ですね。

    「この時代、早期に独立して、『悪夢』の実現に向けて邁進している弁護士がいます。」

    と正確に記載すべきでしたね。

    No title

    いいんじゃないですか?悪夢だって「夢」であることに違いはないですし。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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