自民・法曹養成制度中間提言の「感性」

      「国会議員・政治家の感性の方が期待できるのではないか」。「法曹の養成に関するフォーラム」や法曹養成制度検討会議の議論を見てきた人たちのなかからは、最近も、よくこんな声を耳にします。「給費制」をめぐる議論でもいわれたことですが、前記したような会議に参加している有識者の方々よりも、より「改革」の問題性を理解している、あるいは弊害という点でより現実を直視しているととれる、という話です。

     もちろん、こういう視点に立つのであれば、「改革」の問題性の理解や、現実の把握において、前記会議の在り方自体が問われてもおかしくありませんし、さらにいえば、根本的な目的意識の違いまでが疑われることになるのも当然のように思えます。

     前記検討会議第15回の提出資料として、公開されている自民党司法制度調査会の「法曹養成制度についての中間提言」と、検討会議の最終「取りまとめ」案を見比べると、「改革」の弊害に対する認識がはっきりと違うことが分かります。

     法曹人口問題に関して、活動領域の拡大が限定的であることや一定の成果があったこと、「質量ともに豊かな法曹」という路線を堅持するなどの点で、自民「中間提言」は同じ方向を向いていながらも、増員の弊害よりも、「法曹有資格者」の活動領域の拡大の可能性を列挙し、拡大路線堅持を強調している印象の検討会議「取りまとめ」に対し、逆に年間3000人合格の旗を降ろすことにつながる理由として、その弊害をより直視しています。

     とりわけ、注目すべきなのは、検討会議がどこにも触れていない「訴訟社会」化と、司法書士・社会保険労務士といった「法律隣接職」の存在に言及しているところです。

      「当調査会のヒアリングでは、何でも訴訟に持ち込むいわゆる『訴訟社会』への危険性を指摘する声もあった。当調査会としては、日本を一部の指摘されるような訴訟社会にはしない、という方向性を明確にするとともに、現実に起きている訴訟の動向や、国民の法曹関係者に対する認識について今後はこれまで以上にきちんと調査し、把握していくべきことを提言する」

     自民「中間提言」は、合格「3000人」方針を取り下げる理由としても、「訴訟社会」化しないために、「人口が増え過ぎて取り返しのつかない事態に陥る前に冷静な情勢分析が必要」としています。弁護士が「社会の隅々」に登場する「改革」の未来像にあって、「訴訟社会」化というテーマは、最も根本的に大衆がその未来像に背を向けかねない要素をはらんでいるものです。それだけに、「改革」をどうしても推進しようとする側からは、それをあり得ない未来と位置付けたり、なかにはアクセス障害の方を強調して、「訴訟社会化結構ではないか」的な発言までみられてきました。今回の自民「中間提言」は、それとは明確に異なる立場に立ち、「訴訟社会」化の危険性を直視し、それを招来させない方向を前提としています。

     一方、自民「中間提言」は、簡裁代理ができる認定司法書士1万4383人(2012年9月3日現在)、裁判外紛争解決手続を取り扱える特定社会保険労務士の2012年までの累計合格者数1万1425人、さらに弁理士、税理士、行政書士等の存在も挙げ、彼らの法律代理人としての業務範囲が「改革」で拡大していることを踏まえ、「全体として『法曹人口』の概念に組み入れるべき」としています。既に5万人を超える専門家が実働しているなかで、弁護士を激増させる意味が果たしてあるのか、ということであり、彼ら「隣接」の存在を考慮して、法曹人口問題を考えるべき、ということです。

      これは、弁護士を中心とした法曹人口激増を大前提として描き、この国の法的なニーズの受け皿を「隣接」を含めた士業総体として検討していない司法制度改革審議会最終意見書の立場に対する根本的な見直しを迫るものです。逆に言えば、今日の事態は、士業総体を「受け皿」とみて、そこから逆算したものでない弁護士の激増政策の結果であるとみるものであり、そもそもの激増政策の必要性への疑問に結び付くものです(「弁護士と『隣接』の微妙な関係」 「司法書士にとっての弁護士激増」)。

     検討会議「取りまとめ」案には、何度なく司法制度改革審議会最終意見書が登場し、その理念・目標を照らしてみせていますが、自民「中間提言」にはどこにも同審議会が出てきません。同「中間提言」も両論併記的な扱いで、含みを持たせている点はありますが、少なくとも司法審の理念への絶対視や、あたかも当然の前提視するようなところは見られません。司法審「改革」路線の理念そのものが正しかったのかどうかを議論することに、より躊躇がないようにとれます。

     現実を直視すれば、それもまた当然のことだけに、彼らの「感性」が、現在の「改革」議論そのものの問題をも、浮き彫りにすることを期待したくなるのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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