疑惑に向き合わない「弁護士自治」

     いわゆる陸山会事件の捜査で、内容虚偽の捜査報告書が作成され、検察審査会に提出された問題で、不起訴処分などになった検察官らについて、審査が申し立てられた検察審査会の審査補助員に、東京弁護士会が地検検事正などを務めたヤメ検を推薦していた問題(「東弁『審査補助員』推薦問題の深刻度」 「『審査補助員』推薦問題への東弁の驚くべき対応」)で、通算三度目になる同弁護士会としての見解が示されました。いずれも、市民団体「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」(八木啓代代表)から出されていた公開質問状に対するものです。

      「当会におきましては、既にお示ししております当会の規則に従い、会長が合理的な方法を判断し、原則として当該名簿の中から審査補助員候補者を選択して推薦しております。当会は、ご意見や情報等を真摯に受け止め、当会の今後の運用について、参考にさせていただきます」

     前記エントリーでも既に書きましたように、1回目の公開質問状に対する5月10日付けの回答は、推薦を適正・公正な内部手続きのうえにやっているとする、たった3行の回答文に、関連会規を張りつけただけのもの。これに納得できない市民団体が出した2回目の公開質問状に対する5月21日付けの回答も、結局、弁護士自治も引き合いに出し、具体的な選考経過については公表しないとして、実質的な「回答拒否」の姿勢を簡単に伝えただけのもの。そして、6月3日付けで提出された三度目の公開質問状に対する回答が、上記の短文です。

     もはや本気で回答する気持ちがないことははっきりと分かりますが、今回の回答も、およそそれで片付けられるものではありません。問題は、会長が「合理的な方法を判断」という点です。市民団体は3度目の公開質問状で、「審査補助員候補者及び指定弁護士候補者選任等に関する規則」第7条第3項「会長は、審査補助員候補者又は指定弁護士候補者の推薦依頼を受けた場合は、原則として、推薦候補者名簿の中から、適切と思われる弁護士会員を合理的な方法をもって選択して推薦するものとする」の規定を引用。この規定がいう「合理的な方法」が、実際にどのようなものでおり、東京弁護士会で、一般的にどのように推薦されているか、今回の推薦がそれに基づいて正当に行われたのかどうかを尋ねていました。そして、今回の選任が、同規定の趣旨に反して、「合理的な方法」ではない方法で行われていたのであれば、その旨を明らかにし、今後、「合理的な方法」による選任に改めることを、社会に対して明らかにすべき、というのが、実に明快なこの質問の趣旨でした。

     東京弁護士会の回答は、実は今回も含めて、市民団体側の趣旨を十分に理解したうえでのものであることは、当然推察できることです。3回目の公開質問状が出された6月3日には、東京新聞朝刊が「公正 疑われる人選」「推薦の東京弁護士会 選考過程回答せず」「『開かれた司法』に逆行」という見出しを打って、この問題を大きく報じていました。それでもなお、今回、前記規定をただなぞり、それに従っているだけ、という回答をしている、その同弁護士会側の真意はどう読みとるべきなのでしょうか。

     前回回答からすれば、適切にやっているという回答以上の、ここから先のことについて、つまり「合理的な方法」の中身に関しては、「弁護士自治」で跳ね返せると思っているのか。当執行部ではなく、当時の会長の判断である、ということで丸投げしようとするものなのか。「合理的な方法」の中身として、会内の委員会等で議事に諮るという手段が想定されており、現に他の弁護士会では行われていると伝えられています。当時の会長がそうした手段を使わずに独断で決めたということなのか、それともなんらかの手段が採られたが「合理的な方法」でないことが発覚することを恐れているのか――。市民団体側も指摘していますが、同弁護士会の回答中、「原則として」名簿の中から候補者を選択しているとしていますが、例外もあるということは果たして今回はどうだったのか、という当然の疑問にもつながります。

     これらは、市民から、すべて今の東京弁護士会にかけられている公正さに対する「疑惑」です。そもそも、これを「疑惑」とは思っていないという感性を、弁護士会執行部が対外的に曝す行動を、東京弁護士会の会員は納得するのでしょうか。やはり、これは弁護士自治の問題になります。選考過程は内部にも非公開とされています。会員にも明らかにしないことで支えられる自治というのも、それ自体、不明瞭な部分がありますが、会内外の疑惑に向かわないことで支えられる弁護士自治が存在しているという解釈でいいのでしょうか。

     同弁護士会の対応は、一体何を守ろうとしているのでしょうか。また、現実に何を守れるのでしょうか。今回の人選で問われた公正「らしさ」への弁護士会の感性。そのなかで生まれている社会の疑惑に対し、弁護士自治を盾に向き合おうとしない東京弁護士会は、今、弁護士自治そのものへの感性も問われ出しているというべきです。そのこと自体が、この国の弁護士自治に対する、社会の目線に大きく影響することを、東京弁護士会の執行部関係者が気付ついていないなどということがあるとは、とても考えられません。


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    だれも弁護士会に自治機能があるなんて思ってないよ。
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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