決別すべき「弁護士不足」論の発想

     法曹養成制度検討会議の中間的取りまとめは、その主体を「法曹」から「法曹有資格者」に変えながらも、相変わらず、企業、国家公務員、地方自治体、法テラス、国際案件などを列挙し、そこでの有用性を指摘した活動領域の拡大路線を掲げています。そこでもはっきり指摘されているように、司法制度改革審議会の「法の支配」を全国にあまねく実現するための弁護士の偏在解消とともに、打ち上げた「社会の隅々」への進出必要論の維持です。

     ただ、結論から言えば、現在の司法試験年「3000人」目標の旗印撤回が現実のものとなった状況が突き付けているのは、当初、いわれた偏在解消を含めて、こうした局所的な法曹、とりわれ弁護士の有用性、あるいはその可能性をもってして、果たして現在のような弁護士全体の大量な増員が肯定できるのか、あるいは支えきれるのか、という問題ではないのでしょうか。いわば、「木を見て森を見ない」発想の失敗です。

     この増員政策に対して、弁護士のなかに、この発想の無理を見抜いていた人たちがいなかったわけではありませんでした。しかし、それでも多くの弁護士たちが、この発想に立った政策の旗を振る側に回ったのには、いくつかの事情があります。

     一つには、楽観論。弁護士の経済的な状況が、今に比べて安定し、それなりに仕事があるという感覚を多くの弁護士が持っていた。2006年以降の、いわゆる「過払いバブル」も、そうした楽観的な見通しを後押ししたともいわれています。

     もう一つは、こうした局所的なニーズに対するアプローチの仕方の問題です。弁護士会のなかには、もともとも全体を増やさなければ、局所に行き渡らないという発想がありました。人権派といわれる弁護士のなかで、増員論を古くから唱える方々も、「全体を増やさなければ、人権問題に取り組む弁護士も増えない」ということを主張される方がいらっしゃいました。また、その他の局所的ニーズに対しても、「裾野を広げなければ頂上は高くならない」という言い方もありました。

     偏在対策をはじめ、その他の分野にしても、数が増えれば「有志」が増えるという考え方と、押し出されるように他の分野に流れる人間が生まれるはず、という考え方が、どこか混在して、この方向を受け入れる見通しを生んだように見えます。さらに、そこには、「木」を無視しないという、正義感も被せられたとは思います。

     ただ、逆にいえば、このアプローチは、本当に適材適所主義に立って、分野の需要の量を考えて、そこに対応すべき弁護士を個々にどのように養成するかという視点ではない、という点で、一口で言えば、粗雑な感じがします。増員任せ、増員依存の発想にとれます。

     ここで、気になることを、一つ付け加えなければなりません。果たして、当時、この弁護士を激増させるという政策が、多くの国民が求めたものだったのか、ということです。「改革」論議のなかで「社会的要請」として括られ、当然の前提とされてきた拡大路線ですが、本当に社会が求めていたのか。局所局所でそうした声があったとしても、それを本当に多くの大衆が求めていたという事実があったのかどうか。およそ、偏在問題以外に、弁護士不足が社会問題化していたといえる事実は存在していたのかということです。

     この「改革」が、いわば「下から」の要請で起こったものでないことは、弁護士会内の推進役の中心にいた中坊公平氏が、当時から認めていたところでした(「『改革』への期待感という幻影」)。要は、大衆が求めたものではないが、必ずや大衆のためになる、という発想を、弁護士会内「改革」推進派が唱え、また信じ、進めてきたものということができるのです。

     このことを、この政策を受け入れ、旗を振ってきた弁護士たちは、よく知っていたはずです。つまりは、本当に「下から」ではないことを知りながら、いつのまにか「弁護士不足」解消が、あたかも社会全体が求めているような、「隅々」論に没入してきたのではないか、ということです。

     いまだに弁護士界のなかには、前記中間的とりまとめと同様の、「改革」の拡大路線そのものは、間違っていないという、「弁護士不足」論を掲げる方々は沢山います。しかし、この中にこそ、基本的に決別すべき「改革」推進論の発想があるように思えてなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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