弁護士の「同族意識」

     弁護士、あるいは裁判官、検察官を含めた法曹といわれる人々には、ある意味、「同族意識」といえるようなものがあります。これは、大きく二つの要素があります。

     一つは同一の採用と養成過程を経ていること。この世界では、「統一試験・統一修習」という言葉が使われますが、同一の司法試験に合格し、同一の司法修習を経てきた、ということへのこだわりがあります。要するに、俗に言う「同じ釜の飯を食ってきた」という意識といってもいいと思います。

     司法修習の「期」が、何期生であるかということが、経歴のなかで、そうした関係での先輩・後輩という、一応のこだわりどころとして、この世界で語られてきたのも、そうした意識と無縁ではないようにみえます。

     そして、もう一つの要素は、「法律」もしくは「法律家である」ということだと思います。自らが法律のプロとして、「法律家」としての同じステージで議論できる、ということ、もしくは「法律」という、いわば「共通言語」で話し合える関係に対する意識です。あるいは「リーガルマインド」という言葉でくくる人もいるかもしれません。

     お互いの立場が違っても、「法律家」としては、少なくともここは理論的に通じるはず、ここは否定できないはず、という見方をする時があります。また、相手方の弁護士に対して、「弁護士である以上、一応、理論立てはしてくる」という身構え方をしますが、そこには同じステージで理論を闘い合わせる同士という、感覚があるように見えるときがあります。

     しかし、この弁護士の意識、とりわけ「同じ釜の飯を食ってきた」という意識がある関係自体が、大衆からは誤解されたり、弁護士の不信感につながっている面があります。要するに、相手方弁護士とのなれ合いを連想させてしまうからです。

     以前にも書きましたが、民事事件での当事者が、自らの弁護士に持つ不満の代表的なものの一つとして、相手方弁護士と裏でつながっていて、当事者の知らない所で裏取引が行われ、当事者ではなく、弁護士同士のウインウインの落とし所に導かれているという思いがあります。

     弁護士同士の話し合いで出た、和解での落とし所の説得を、相手に対して要求を通してくれるのではなく、こちらに妥協を迫るものとだけ見てしまう時、そこに弁護士同士の「なれ合い」の結果ではないか、という疑念が生まれてくるのです。

     もちろん、こうした依頼者が考えているような関係が、全く存在していない、と断言はできません。ただ、現実とは別に、そう見えがちであることは、弁護士も市民も念頭に置かねばなりません。

     「なれ合い」とみられる関係が、実は当事者にとっても利を生む場合があることを谷川樹史弁護士がブログで書いています。要するに弁護士同士が感情的に対立すると、和解のタイミングを逃すなど当事者に不利益になる場合もあり、双方が感情を入れない関係であってこそ、冷静に当事者利益を考えた解決点が導き出される、という趣旨のことを述べています。「なれ合い」というのではありませんが、「いい関係」はマイナスとは限らないということです。

     その通りかもしれませんが、やはり、ここは大衆には分かりにくく、弁護士にとっての要注意ポイントであることは間違いありません。

     また、前記した「法律家」としての共通認識としては、弁護士を含めた法律家自身の認識も多少変わってきているかもしれません。何度も書いているように、弁護士を含めた法律家は、もともとさまざまな立場、さまざまな論理で、自らの正当性を主張して議論する人びとではありますが、この度の裁判員制度をはじめ司法改革をめぐる論議では、かつての法律家同士ならば、とりあえず大方共通の認識に立てたレベルについて、意見が食い違うということに驚く法律家の意見を多数聞いてきました。回を改めますが、裁判ではない場面で、「共通言語」が成立していない状況は存在します。

     ところで最近、前記したような弁護士の経歴で、「期」を付記することについて、「いかにも業界内だけて通用するような慣習はやめるべきではか」という意見も聞かれるようになりました。それこそ大衆から、弁護士同士の「なれ合い」や、階級的上下関係にとられるマイナスをいうものだと思います。

     統一試験・統一修習と同様、「期」はむしろ「同じ釜の飯を食った」者同士として、法曹同士では、ある意味、親しみをもって語られ、表記されてきた面もあります。それをやめるべきという意見が、それこそ法曹界の中から聞かれること自体、その案の現実的な効果は別として、大衆の目線に対する弁護士の感度が、やはり少しずつ変わってきたのかもしれません。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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