若手弁護士が苦しい

     若い弁護士が今、経済的に苦しいということは、どのくらい社会に認知されてきたのでしょうか。大新聞も、その現状を取り上げてきていますが、「なんだかんだいっても、弁護士はもうけているんじゃないか」という定着したイメージのなかで、まだその深刻さが伝わりきれていないようにも思えます。

     どのくらい深刻かといえば、聞こえてくる話は、例えば、弁護士になって最初の3ヶ月くらい収入がゼロ、国選の割り当て分のおこぼれや、弁護士会の法律相談などに殺到、月収は稼ぎだしても20~30万円で、事務所費や弁護士会費を引くと残るのは半分、とか。生活のためにアルバイトをしたいけれど、お金にはならない細かな仕事や、本業の方の仕事探しでそれもできない、とか。そもそも弁護士になっても就職する法律事務所がない。

     弁護士会が若手弁護士を対象に行ったアンケートで、「弁護士会に求めること」として、「生活費の援助」を挙げた人もいたそうです。

     なんで、そんなことになっているんだ、と思われるでしょう。弁護士はこの10年で1万人増えていることをご存知ですか。要するに、数の急増にそれを支える有償のニーズが追いついていないということです。なのに、今後、年間3000人ずつ増やし、現在の約2万9000人をゆくゆく5万人までにしようという話にまでなっています。

     そんな状態でなぜ、増員をやめないのかといえば、政府も弁護士会も経済界も大マスコミも、基本的には、まだ増員してもやれる、という立場なのです。日本弁護士連合会では、さすがに急激な増加の影響を懸念し始めて、現在の年間2000人を下回る数の提言を出す方向で、現在、内部で検討がなされていると伝えられますが、将来的な年間3000人や5万人の旗を降ろすというわけではないようです。もっともあくまで増員派の大マスコミや経済界が、そのペースダウン提言に、どう反応するかは未知数です。

     要するに仕事はまだまだあるんだ、だから今はなんとか踏ん張れ、という話になっています。もっとも大新聞も、あくまでその方向で旗を振ってはいますが、対策となると、官と民で働き口を作れというだけで、具体的な妙案を提示しているわけではありません。

     日弁連は弁護士や修習生を対象に法律事務所、企業・団体、官公庁、自治体からの求人情報をネットに掲載し、求人・求職両面からサポートするシステムを開設していますが、求職数に比べて求人数は少なく、「まだまだ仕事はあるから増員だという企業も、弁護士も求人を出したらどうだ」という声が増員反対派の弁護士の中からは出ています。そもそも弁護士会内が今の増員路線で一枚岩になっているわけではないのです。弁護士の中にも、この問題を深刻に受け止め、増員路線に反対する声はもともと強くありました。このことについては、また別の回にお話しします。

     深刻な就職難に加え、法科大学院の修了で数百万円の債務を抱えて、この世界に入ってくるという金銭不安もあります。これまでの一発試験の司法試験を改め、「点からプロセス」と銘打って、医学部のようなイメージの教育機関の立ち上げに全国の大学がわれもわれもと立ち上げたのですが、根本的に法曹になるのにはお金がかかることになってしまいました。受験生の試験技術への傾斜などが批判された狭き門の司法試験でしたが、そういう意味では、機会としても経済的にも、幅広い人に受験のチャンスがあったという意味で、本音では「前の方がよかった」という法曹関係者も少なくありません。

     二つのことが気になります。ひとつは、今の若手弁護士、ひいては弁護士全体の経済的状況の実態、また増員を含めて、それらが社会にもたらす影響について、増員派の大マスコミの論調の中で、本当のところが国民に伝えられているのかとうか、ということ。

     もうひとつは、弁護士という仕事が、こんな状況だと知った時に、それでも今の若者はこの世界を目指すのか、ということ。もっとも、そうして早々に弁護士界にだれも魅力を感じなくなれば、どんなに旗を振ったって5万人時代なんてこないことになりますが。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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