「審査補助員」推薦問題への東弁の驚くべき対応

     いわゆる陸山会事件の捜査の過程で、検察官によって内容虚偽の捜査報告書が作成され、検察審査会に提出された問題で、不起訴処分などになった検察官らについて、審査が申し立てられた検察審査会の審査補助員に、東京弁護士会が地検検事正や最高検検事を務めたヤメ検を推薦していたことついて、市民団体「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」から出されていた公開質問状(「東弁『審査補助員』推薦問題の深刻度」)。これに対する、東弁側の対応が、同団体のホームページで明らかにされています。

     既に猪野亨弁護士もブログで取り上げていますが、この東弁の対応には、驚きました。ここまで不誠実な対応をするとは思わなかったからです。5月7日付けの公開質問状で市民団体は、審査補助員推薦の選任基準、推薦、選定の方法、不適任者を忌避する事由等に関して、どのような一般的な基準が設定されているかについて回答を求めていました。これに対する5月10日付けの回答は、推薦を適正・公正な内部手続きのうえにやっているとする、たった3行の回答文に、関連会規を張りつけただけのもの。当然、これに納得できない市民団体側は、今回の推薦を不適切と考えなかった真意等について、改めて5月15日付けで公開質問状を提出しました。しかし、これに対する5月21日付けの東弁の回答も、結局、具体的な選考経過については公表しないとして、実質的な「回答拒否」の姿勢を簡単に伝えただけのものでした。

     これは、相当に弁護士会側の認識を疑われても仕方がない対応といわざるを得ません。端的に言って、前記エントリーでも指摘した通り、この問題が、こんな木で鼻をくくったような対応で済まされるようなものではないからです。そのこと自体を東弁幹部が分かっていないということ自体が驚きなのです。審査補助員は、依頼を受けた弁護士会が、いわば「一本釣り」で推薦しているといわれていますが、そこに市民団体に回答できるような基準等があったとすれば、今回のような事態を生むような不当性について釈明する必要がありますし、そこを認識して放置したのか、あるいは出自と公正さを切り離す「法曹の良心論」で「関係ない」と突っぱねるのか、そこも問い質されているはずです。そこを非公開だからという理由で、いずれの姿勢も示さないということです。

     かつて判検交流問題で裁判所や検察の関係者が繰り出す、「法曹の良心論」による正当化論に対峙して、「らしさ」論つまり国民に疑念を抱かせない中立・公正さを求めたのは、ほかならない弁護士会であり、ミス的な弁明や仮に「法曹の良心論」を繰り出したところで、弁護士会が決定的に中立・公正さの感性を鈍磨させていることを社会にさらすことになるテーマであることは以前書きました。5月15日付けの市民団体の再公開質問状でも、はっきりと「国民に疑念を抱かせない中立・公正さを求めて『判検交流』を批判していた弁護士会の立場と矛盾するものではないかとの疑問は持たなかったのか」と厳しく指摘されています。

     さらに、東弁の対応の決定的な問題は、猪野弁護士も指摘しているところですが、この回答拒否の理由に、東弁が5月21日付け回答の中で、弁護士自治を持ち出していることです。

      「選考過程を公表しないという取り扱いは、弁護士自治にも関わることから弁護士会としては一般的であると認識しています」

     人権擁護のために、権力の不当な介入を排除するというのが弁護士自治の存在意義のはずです。今、東弁にかけられている疑念は、その権力との関係であると考えれば、今回の対応は、どうなのか。逆にここは弁護士自治の立場からも、きっちりと釈明しなければ、それこそ弁護士自治の存在意義そのものが誤解される局面ではないのでしょうか。

     もちろん、権力とは国家権力だけではなく、あるいはその影響を受けている多数派市民も含むという考えには立てますし、その意味では、日弁連がかつて決議している自治の「国民的基盤」論にも危ういところはあります。ただ、それゆえに一律非公開ということでしょうか。当否は別にしても「国民的基盤」論にとっては明らかに矛盾するベクトルですし、その危うさを踏まえても、少なくとも本件は権力の影響を受けた多数派市民の介入とすべきものではないはず。むしろ、弁護士自治からしても、弁護士会として、疑念を払しょくすべく、積極的に向き合わなければならない局面のように思うのです。

     公開質問状が出されたときに書いた、前記エントリーでは、これは弁護士会として簡単対応できるものではない、と書きました。東弁の対応は、簡単でない、難しい回答を迫られた結果、「公正」と言い切って、それを回避したと社会には伝わります。それはまた、一方で「非公開です。ここから先は弁護士自治を信じなさい」ということで社会に通用する、理解される、あるいは理解させるという認識のようにもとれます。

     弁護士会に対してかけられている疑念に、弁護士自治を巻き込む、この姿勢と認識には、驚かざるを得ません。


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    No title

    選考課程を明らかにすると弁護士自治が揺らぐという回答は、
    弁護士自治を害するような特定の意図を持って選考が行われたことを
    自白してるようなものだと思うんですけどね
    意図的な選考でないのならば、その選考課程を明らかにしたところで
    弁護士自治は一切揺るぎようがないんですから

    サヨク系の弁護士の多い東弁にしてからがこの有様だと、
    他の弁護士会は推して知るべしだと思われるでしょうなぁ
    「自治」が許されるのは、十分な自浄能力があるという信頼が背景にあってこそ
    不信を抱く相手に「自治」を声高に振りかざしても、
    特権階級の人間は度しがたいという不信を募らせるだけじゃないんですかね
    この手の不祥事対応で、情報を隠して成功した例を見たことがないんですが、
    そんなことも分かってなくてよく弁護士が務まるものですね

    No title

    是非ともこれを機に弁護士自治を撤廃していただきたい。
    いらんよあんなの、偉そうに一体何様?
    強制加入団体であることを辞めちゃえば良いんだよ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
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    河野真樹
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