全弁協「保釈保証書事業」見切り発車への疑問  

     度々取り上げてきた、日弁連が構想し、全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が運用する方向で検討されていた保釈保証事業に関して、久々に大マスコミが報じました(読売新聞5月21日朝刊、時事通信同日11時50分配信)。全弁協が「保証機関」となり、裁判所が「被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えること」を許した場合(刑事訴訟法94条3項)を前提に、保証書を発行する、という、この事業が6月にもスタートするということを伝えるものです。

     既に5月に運用開始といった情報も弁護士会内では取りざたされていたことや、日弁連機関誌「自由と正義」本年5月号でも、開始に向けて制度を紹介する原稿が掲載されたことからも、この時期に、大マスコミが同時に報じたのは、弁護士会サイドから情報が流されたことによるという推察ができます。

     ただ、これらの報道は、なぜかこの事業に関する、ある一点重要なことに触れていません。それは全弁協が契約することを予定していたはずの損害保険についてです。

      「保証機関は、保証金額の一定割合につき、損害保険会社との間で、損害保険契約を締結し、事業の継続性・安定性を維持するものとする」

     この事業について紹介した「自由と正義」2011年1月号の、スキーム案にははっきりとこう書かれ、その図でも保証機関(全弁協)の後ろに損害保険会社が描かれています。ところが、この件が今回のマスコミ報道のどこにも書かれていないだけでなく、前記「自由と正義」5月号にも、一行たりとも触れられていません。スキーム案の図のなかからも姿を消しています。これは、どういうことを意味するのでしょうか。

     没取の際を想定して、全弁協が負うリスクを保険でカバーするというこの案自体が立ち消えになったわけではないようです。現に各地の単位弁護士協同組合ニュースなどで、全弁協幹部が、損保ジャパンという提携予定の損保会社名を挙げて、制度を説明しています(神奈川県弁護士協同組合ニュース2013年3月31日号)。そもそも「事業の継続性・安定性」の維持に必要とした、このシステムをそう簡単にはなくせるわけもありません。

     そもそも保険でカバーするというスキームには、当初から保釈事業に詳しい専門家からも疑問視する見方がありました。構想では保証金の10%の自己負担金と2%の手数料を保証委託者が全弁協に支払う(例:200万円の保証金で24万円)ことになっています。一方、損保ジャパンによる保証割合は保証金額の80%(前記例で160万円)という案が示されていました(前出「自由と正義」2011年1月号)。不透明なのは、没取の場合の求償の問題です。

     裁判所の没取決定が出た場合、全弁協は保証金全額を国に納付することになりますが、委託者に対し、保険の保証額と自己負担金を差し引いた10%を求償するという設計だとすれば、実質、委託者側の保証金の没取による抑止力は、自己負担金を併せても、全体の5分の1の金額分に減殺されてしまうことになります。

     もし、自己負担金を除いた全額を求償して、保釈の抑止力の形骸化を防ごうとすると、損保会社80%の保険金はどうなるのか、という話です。保険の専門家によれば、求償権行使が失敗した場合の保証というのも、保険という性格上、考えにくく、当然、没取に対する保険だろうし、一方、損保ジャパンから80%(前記例160万円)の保険金支払いを受けながら、自己負担金を除いた全額(前記例180万円)を求償することはあり得ないとなれば、やはり10%の求償になり、裁判所の決定した保釈金額の抑止のハードルが下がることは避けられない、ということなります。さらに、前出「自由と正義」2011年1月号のスキーム説明には、「保証機関または損害保険会社は、保証委託者に求償権を行使するものとする」と書かれていますが、損保会社が求償するというのもまた、考えにくい、としています。現実的に全弁協が求償権を行使できるのか、という問題もあります。

     これは、さらに弁護士にとっては、もう一つの疑問につながっていきます。この事業を、全弁協という弁護士の互助団体が担うことです。没取の際に、これを保険ではなく全弁協が補てんするにしても、没取をにらんで、一定額の保険料を損保会社に支払い続けるにせよ、これはすべて組合費から出ている、つまりは弁護士組合員の持ち出しです。そこのコンセンサスは、果たして得られているのかどうかの問題です。弁護士の中からは、全弁協の他の事業と比べてみても、組合員弁護士にとってどういうメリットがあるのかが分からない、果たして前記したような性格のこの団体が担うべきものなのかを疑問視する声も聞こえてきます。

      「本事業は組合員に利用していただく事業である。組合員に本事業を知ってもらい、理解してもらった上で、活用していただく必要がある」

     前出「自由と正義」5月号の記事では、こう述べたうえで、組合員の協力を求めていますが、まず、スタートしてからコンセンサスを得るようにもとれる推進側の姿勢には、転倒しているような違和感を覚えます。

     この制度について、推進する側からは、「人質司法打破」なのだという説明が繰り返されています。ただ、会員自身も首をかしげるいくつもの疑問点があることは、これまでも取り上げてきました(「日弁連『保釈保証制度』事業構想の不思議」 「不透明な日弁連『保釈保証制度』事業構想」 「日弁連『保釈保証事業』の見えない担保力」「潜行する日弁連『保釈保証制度』事業」「保証書に冷やかな米国司法の現実」)。

     保釈保証書がどういう影響を与え、保釈制度の意味もどう変えるのか。さらに、この事業を協同組合が担っていく妥当性をどう考えるのか――。最終的には裁判所の判断次第とはいえ、見切り発車のような制度運用開始の前に、まず、組合員弁護士に問いかけるべきものが、いくつもあるように思えてなりません。


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    テーマ : 刑事司法
    ジャンル : 政治・経済





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    No title

    全弁協がこれをしてるのって、保釈保証協会とかを潰したいというのが行動原理だと思うけどね。

    こんなことで失敗して会員のお金を食いつぶさないようにしてほしいです。

    No title

    >それがその弁護士の方針だからだろ
    バカはそれに騙される、ただそれだけの話
    悔しかったら頭悪い妄想ばっかりしてないで少しは知能を磨きなさい

    自分の依頼者に対し、こういう目線の弁護士が居ると分かっただけでも、全弁協の取り組みは成功なのかもしれませんね。

    No title

    過払い事務所の不正義な「定型的」収入源をリアルタイムにつぶして回ることで、弁護士の信用が低下することを防ぐことができます。
    過払い事務所が保証書事業を使わなくても、被告人が聞きつけて、あるいは被告人の家族が聞きつけて、自ら申し出るようになります。
    そのとき被告人と過払い事務所がケンカすれば面白いです。
    裁判所は過払い事務所が大嫌いなので、過払い事務所に対し裁判を起こせば、まず勝てるのではないでしょうか。

    No title

    過払い事務所は、どこかで「定型的」な収入源見つけないとやっていけないさだめだから、刑事弁護の報酬の一部分についてシャットアウトしたら、ほかでいろいろ理屈見つけるだけだと思いますよ

    だいたい、この保釈保証書を使わなきゃいけない義務はないんですよ
    (これまでも過払い系事務所は保釈支援協会等の融資を仲立ちしてなかったんじゃないかと思いますし)

    No title

    >↓図星?で、あわてちゃった?保証書で済めば、被告人から保釈保証金名目でお金を受け取って、公判終わってから、保釈金に一定の率を乗じた報酬もらえなくなるもんねえ。
    で、具体的根拠は?
    脳内ソースだけって分かってるけど一応聞いてあげるよ
    その反応がソースだとか言い出しかねないけどな、
    この手の妄想癖のキツイ奴は
    >保釈金が高くなると報酬も増えるの?なんで?教えて?
    それがその弁護士の方針だからだろ
    バカはそれに騙される、ただそれだけの話
    悔しかったら頭悪い妄想ばっかりしてないで少しは知能を磨きなさい

    No title

    私は協同組合の保釈保証事業には賛成です。
    過払い事務所が、保釈金の21%を報酬にすると謳っています。
    保釈金が高いほど被告人の利益にはならないのに、弁護人は保釈金が高い方が嬉しいというのは利害相反を招きます。
    まあ、数年でモラルハザードにより手数料収入よりも支出が上回り事業として行き詰まるでしょうが、上記の事務所のやり口を防止できればそれで意味があるのではないでしょうか。

    No title

    ↓図星?で、あわてちゃった?保証書で済めば、被告人から保釈保証金名目でお金を受け取って、公判終わってから、保釈金に一定の率を乗じた報酬もらえなくなるもんねえ。
    保釈金が高くなると報酬も増えるの?なんで?教えて?

    No title

    保釈報酬に簇がる、ね…
    どこからそんな珍妙なことを「聞く」ことができるのか
    おつむの中身が見たいくらいですな
    刑事弁護報酬の仕組みすら知らないなら黙ってれば良いのに
    変な電波の受信しすぎは健康によくないですよ

    No title

    過払いにとち狂った弁護士らが、残業代に群がり、今は刑事弁護の保釈報酬に群がっていると聞いています。
    こういうのをたたきつぶすためには面白い制度なのかもしれないですが、そのメリットに比べてデメリットの方が大きいですね。
    制度があるというだけで、実際には利用されず、ただ、保釈を人質に法外な報酬を取ろうとする悪質弁護士との関係で関所になるというのであれば、それでも良いのかもしれません。

    No title

     莫大な事業損失が生じるリスクに保険を掛けても意味はありませんから,保険構想が潰れたのはある意味当然の成り行きでしょう。
     記事を読んで一瞬心配になりましたが,実際にはほとんど利用されないまま形骸化していくだけで,あまり心配する必要はないのかも知れません。考えてみたら,保釈金も払えない(≒保釈の弁護士費用も払えない)被告人に保釈保証書制度の利用を勧めても,弁護士側には何のメリットもありませんし。

    No title

    驚きですね。賛同する理由がありません。
    モラルハザードの解消方法すら説明聞いても、解消できると思いませんし。
    少なくとも賛成の意思表示をした事実はありませんし、意思表示を求められた記憶もありませんね。

    No title

    ずっと関心持たれていましたね。
    私も、つい数日前、ヤフーニュースで見て知ったぐらいで、日弁連が何らの照会もなく進めたことに驚いています。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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