「改憲」ベクトルの中の裁判員制度

     国家が「国民」を冠した政策は、要注意といわれます。この言葉が付くことで、あたかもそれが「国民のため」であるように受け取るのは、早計であり、危険であるということです。「国民投票法」などをめぐる議論でもさんざん言われたことですが、この言葉が、実は国民不在の、あるいは軽視の実態を隠す危険をはらんでいるからです。

     これは、要するに、「国民」とか「国民のため」と国家権力が規定したり、喧伝するもののなかに、別の政治的な意図を読み取るのか、読み取らないのかで、国民の判断が分かれるところです。そして、それは司法改革、とりわけ裁判員制度についても、そこが重大な分水嶺であるとみることができるのです。

     国民が司法に参加する。国民の意思が司法に反映し、さらに国民の当事者意識の覚醒とともに、司法への国民の理解も深まる「民主的」な制度。しかし、そこで行われるのは、憲法にも規定がない国民に対する罰則付きの「強制」。「裁きたくない」という思想・信条まで否定した公的活動への動員、「現代の赤紙」といわれるゆえんです。国民の強制に対する耐性実験として役割、そしてその先にあるものという、国家の政治的な意図、あるいは意思を、そこに読み取った時、「民主的」な制度は、がらっとその様相を変えるのです。

     5月22日に東京で開かれた改憲阻止と裁判員制度廃止を訴える全国集会での、斎藤文男・九州大学名誉教授の講演は、このことを考えるうえで、非常に示唆に富むものでした。

     憲法に根拠がない義務化。公権力を持たない民間人を民間人のまま裁判官席に座らせ、死刑判決によって人の命を奪うことにまで関与させている現実。立法・行政で実現されるべき人民統治、民主主義という多数支配に対し、本来、少数者を守りために、民主主義・多数者支配を排除すべきなのが司法であり、国民参加での民主化というのは、司法の独立、法の支配に根本的に反する――。

     斎藤名誉教授は、こうした裁判員制度の問題点を多くの弁護士が問題にしないことに疑問を呈していましたが、さらに同名誉教授は、こうした制度の問題性の先に、国家の政治的な意図・目的を見出します。国家が治安意識を国民に共有させる、司法の治安機関化です。彼は「現代版の国家総動員法」と言いました。そして、さらに彼が指摘する重要な点は、この思想が、まさに今、自民党を中心に進められている、憲法を人権保障のためではなく、統治のためのものにする、人権よりも国家に服従することを優先させる根底の思想とぴったり一致する、ということでした。

     憲法96条改正の先に、9条改正とともに、改憲勢力が視野に入れている非常事態条項の制定。国家の意思によって、人権規定を停止する仕組みを目指しているなかにも、外に戦争ができる「戦争国家」、内に批判を封じる「治安国家」を作り上げる政治的意図がはっきりと浮かび上がってくる、というわけです。

     この流れのなかに、前記裁判員制度の国民への「強制」は組み込まれているということになります。耐性実験であると同時に、もはやこれは「地ならし」というにふさわしいとらえ方になることを斎藤名誉教授の指摘は伝えています。

      「国民のため」の「民主主義の教室」のようにまでいわれる裁判員制度の裏の顔。改憲というベクトルのなかに位置しているという、大マスコミも伝えない、その政治的な意図を読みとるのか、読みとらないのか。本当に国民が今、試されているのは、そのことであるように思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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