予備試験「抜け道」論者の心底

     5月21日付け朝日新聞朝刊の見出しには、大きく「『抜け道』急増」の文字が踊っています。今年の司法試験予備試験受験者数が、昨年を2000人以上上回る9224人に急増したことを伝える記事です。「朝日」をはじめ、「改革」推進派の大マスコミは、これまでも識者のコメントや見方という形もとりながら、予備試験について、この「抜け道」という表現を被せてきました。今回の「朝日」の使い方を見ても、カギカッコを付けてはいるものの、さも当然のように、予備試験をこう位置付けているのがはっきり伝わってきます。

     これは、以前も書いたように、「不当性」の刷り込みです。経済的な事情で法科大学院に進めない人のためというのが、制度の本来の趣旨なのに、そうでない人が利用している――。推進派が判で押したようにいう趣旨の話とつなげて伝えられる「抜け道」という表現は、予備試験受験者がその趣旨を踏まえていないという「心得違い」と、それを許す結果となる受験制限のない制度の問題を浮き上がらせます。彼らの「選択」が、あたかも制度の趣旨を歪めているというようにも伝わります。

     この問題をめぐる、ある法律家のフェイスブック上での発言が、今、ネットで話題になっています。

      「今年の法科大学院入学者は2698人しかいなかったのに、司法試験予備試験受験生は1万人を超えるとの報道。日本の法科大学院の学費などは、アメリカのロースクールと比べれば全体として遥かに安く、経済的負担はかなり軽減される仕組みがあるのに、いろいろ理由をつけて予備試験受験者がこれほど多いのは、いかに司法制度改革のことも知らず、手前勝手に『自分だけはできる』と勘違いしているか、とにかく早道でエリートの切符がほしいという人が大勢いることを示している」
      「心の貧困によるものか、または何も知らないで司法試験を目指す人たちが、こんなに多くいるなんて・・・。どういう気持ちで予備試験を受けているの、よく調べてもらいたい」
      「もちろん、ごく一握りの人たちは、何やってもできますが、そんな『ペーパー試験合格』の一発屋を社会が望んでいるわけがないでしょう」(浜辺陽一郎・青山学院大学法務研究科教授・弁護士)

     心底見たりというべきでしょうか。これは、ある意味、「抜け道」「抜け道」という人の本音をよく伝えていると思います。「いろいろ理由をつけて」いるが、「早道でエリート」になりたいと思っている人間たちが、本来、法律家として通過すべき「プロセス」を回避するズルをしているのだ、と。

     いちいち突っ込むのも妙な気持ちになりますが、そうでしょうか。予備試験という志望者の選択は、「改革」の趣旨を理解していない、自分勝手な「勘違い」や打算的なズルですか。しかも、それを「心の貧困」って。

     費用対効果から志望者が、「プロセス」に経済的にも時間的にも価値を見出さなかった結果であるということ、そもそも「改革」の本来の話からすれば、内容においても、合格率においても、それを「プロセス」側が提供できていないことへの「評価」であるということ――。「抜け道」論者は、こういう認識には、絶対に立たないということを、この発言は表明しているようにとれます。「司法制度改革のことも知らず」ということ自体決めつけですが、提供できていないことを棚に上げて、選択しない人間の「心得違い」を言っているようにしかとれません。

     さらに、決めつけというならば、「一発屋を社会が望んでいるわけがない」というのは、一体、何ですか。今、現役法曹として活躍している「一発屋」組を、社会が問題視し、「プロセス」を求めているという話があるのですか。さらに、旧司法試験組と比べて、なるほど「プロセス」を経た法曹は違うという実績は社会に示されているのですか。いや、むしろそれがあるならば、志望者はおカネと時間をかける「価値」を「プロセス」に見出しているのではないですか。

     そこまでいうのであるならば、受験資格化などせずに、堂々と「価値」で予備試験と勝負して、「プロセス」が選択されればいいはずです。しかし、そうではない。強制化しなければ利用されなくなるから。「改革」の趣旨に胸を張って、予備試験「選択」の認識不足や「心得違い」をいう「プロセス」側の、この自信のなさは、どう説明できるのでしょうか(「法科大学院への『評価』としての予備試験結果」 「『予備試験組』合格者の現実」)。

     あるいは「朝日」の記者は、「こんな表現はしない」と強弁するかもしれませんが、根は浜辺弁護士の発言と同じです。「抜け道」という表現での刷り込みには、国民に伝えない現実、あるいは喚起しない疑問が存在しているのです。一体、何のため、誰のためにやっているのか、という問いかけをしなければなりません。

     予備試験受験者急増を、利用する側の「プロセス」に対する「評価」として謙虚に見ようとしない、前記発言者をはじめ「抜け道」論者の姿勢を見る限り、彼らの手によって法曹養成制度「改革」が見直されることは、絶望的であるような気分にさせられます。


    ただいま、「法曹養成制度検討会議の『中間的取りまとめ』」「予備試験」についてもご意見募集中!
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    私は予備試験受験者ですが、はっきり申し上げると、ローより就職に有利、この一点だけの理由で受けました。実際周りもそういう人が多いです。

    No title

    >どうやって損を最小限にするかが現実的な議論だってことは,恐らく異論がないですよね。
    >で,「ローをつぶす」のが,あくまで現実的な策だと言われるんですかね。
    >聞き分けの悪い中小企業のおっちゃんみたいな主張に感じます。

    つまり,「ロー制度を廃止すると,損が最小限ではとどまらないから,ロー制度を維持すべきだ。」こういう論理ですか。

    ロー制度廃止の損って何でしょうね。ロー修了を司法試験受験資格とするのをやめると,多くのローは統廃合され,今までの設備投資は無駄になる部分がでてくるでしょう。しかし,国民に新たなキャッシュアウトが生じるわけではないので,国民に損はありません。むしろローへの補助金が減りますから,国民にとってはメリットしかないでしょう(ただし,その財源は司法修習生への給費に充てるべきだと考えますが,この点は別問題であり,まずは国民に財源が戻るという点でメリットです。)。

    考えられるとしたら,ローの教員や職員の雇用が失われる,つまりロー教員や職員にとっての損です。しかし,ロー教員や職員の雇用のためにロー制度を維持すべきだ,と言っても,全く支持は得られないでしょう。そう主張したいなら正直にそう主張すべきです。「ロー制度を廃止しても国民には損は生じないが,ロー教員と職員の雇用を維持するためにロー制度を維持すべきだ。」と。あまりに自分勝手過ぎて,ロー関係者からも迷惑がられるかもしれません。

    既存の学生に対する損は,それが本当に損てあると評価するに値するなら,経過措置を検討すればいい話です。

    No title

    あ,すいません(笑)

    認識が全く異なると,理解できないですよね。
    理解するつもりもないでしょうし。
    それでいいんじゃないでしょうか。

    だから「ロー潰せ」なんて言えるんだね,って感じます。

    に、日本語でOK、、、

    No title

    「代金が払われてねーぞ。責任取れ!」ってのが現状でも,
    「約束した以上は払われるべきだ」ってのは理想に過ぎない訳で,
    どうやって損を最小限にするかが現実的な議論だってことは,恐らく異論がないですよね。

    で,「ローをつぶす」のが,あくまで現実的な策だと言われるんですかね。
    聞き分けの悪い中小企業のおっちゃんみたいな主張に感じます。

    確かに,議論しても詮無きことですから,意見というより感想ですが,
    旧弁護士像への支持を訴え,恫喝し,同情を引き,無料奉仕の大判振る舞い等で媚びつつ,責任を問われても「うちも被害者だから関係無いさ~」なんて嘯いていて,
    本当に,我々の経営環境は良くなるんでしょうかね?
    とても,そんなイメージは持てません。

    世間?

    >反対派としては,その想定する弁護士像が世間から支持されなかった

    具体的になにを指してるのか全く不明。
    少なくとも「世間」のどこにも、
    「ローにご奉仕できない人間には弁護士にならないでほしい」
    なんて声はないけど。

    あと、正確には「増員派」ってのは現在ほとんどいない。司法改革の計画段階ではいたのかもしれないけど。
    いまだに大増員を続けろと主張してるのは、「大増員派」ではなく、非ロー奉仕者大「減員」派だから。

    No title

    >想定する弁護士像・弁護士業務が大きく異なるのだから,全く噛み合ってないですね。
    ただ,反対派としては,その想定する弁護士像が世間から支持されなかった

    言っても無駄なのかと思いますが、増員派は理想を語り、反対派は現実を語っています。
    想定する弁護士像・弁護士業務が「現実と違う」ことの責任は増員派にあります。

    中途半端にまとめようとして失敗している具体例ですね。

    No title

    大変恐縮ですが,目くそ鼻くその議論に見えます。
    増員派と反対派とで,想定する弁護士像・弁護士業務が大きく異なるのだから,全く噛み合ってないですね。
    ただ,反対派としては,その想定する弁護士像が世間から支持されなかった(認知不足も含めて)という事実は,重く受け止めなければならないと思いますが。

    No title

    法曹増員論者が馬鹿の一つ覚えで唱えていたのが、
    「弁護士も市場で淘汰されるべき」「市場の声に耳を傾けよ!」だったのは気のせいでしょうか。

    市場が弁護士の増員など求めていなかったことは明らかでしょう。
    未だに「掘り起こせば需要はある!」なんて強弁してる往生際の悪い人もいますが、
    どこを掘り起こせば需要が沸いてくるのか具体的に示した人が一人もいない上に、
    掘り起こさなければ出てこない程度の需要しかなかったことを認めているわけで、
    どっちにしろ、増員を喚き立てるほどの必要はなかったことは明らかですね。

    受験志願者という極めて内輪の「市場」でも、法科大学院は見捨てられています。
    記事で出てくる浜辺とやらは、司法改革教を信仰しない不心得者は心が貧困だなどと抜かしていますが、
    信仰する価値のない宗教だということは、受験生という身内にはすっかり見透かされているわけでして、
    だからこそ法科大学院なんかには行かない、それこそが「市場の声」というものでしょう。
    自分に都合の悪い「市場の声」だけは無視するというのは卑怯としか言いようがないですな。

    要するに、受験生という身内の市場からも、クライアントという外の市場からも、
    司法制度改革の理念とやらは否定されてしまっているわけです。
    いい加減、自分の誤りに気付いたらどうかと思うのですが、
    中途半端にエリート気取りの弁護士とか学者は、無駄なプライドが邪魔するのか、
    自分の誤りを認めることができない人が多いですよね。
    それこそ、浜辺某のいう「心の貧困」そのものと思いますが、自覚がないんでしょうね。

    No title

    >現実的・建設的な終着点の描かれた青図はあるのか

    現実的に予備試験に受験生が殺到していますから、『市場主義』による限り、法科大学院が淘汰されることはやむをえませんね。
    逆に、法科大学院教員に実務教育ができないことは世間様にバレちゃってるので、羊頭狗肉の資格商法は現実的ではありません。
    なら、直さなくちゃ。で、いつ直すの。今でしょ。ということですよね。
    間違いを正す(本道に戻す)。きわめて建設的(というか当たり前)と思いませんか?

    え、法科大学院の経営と教員の身の振り方について、ですか?
    何をいまさら心配しているんですか。法科大学院は司法改革の『理念』に基づく素晴らしい教育をしていますから、些末な司法試験受験資格などなくなっても、法科大学院の存立が脅かされることはありえませんっ(キリッ)。
    それに、たとえあなたの法科大学院が廃校になっても、『三振法務博士ですら引く手あまた』の現状なんですから、教鞭をとっておられた先生方の再就職先などあっという間に見つかりますって。

    No title

    今や,バランスが崩れてヤバい感じになっていることは,関係者の共通認識でしょう。となると,どこを押し出し,どこを引っ込めて形を整えるかですが,その作業において,関係者間で鞘当てが行われるのも,自然な成行きです。

    なんか下らない自己弁護を展開されているところを見ると法科大学院関係者ですか?
    バランスが崩れるのは自明でしょう。
    ありもしない「潜在的需要」を盾に不要で無能な法科大学院による粗製濫造の法曹を排出し続けたのですから。
    関係者間でさや当て?そんなのんきな話か。
    もう司法は終わりです。
    間抜けな司法改革論者の責任です。

    No title

    >司法改革という大事業においては~上手く行くはずありません

    そもそも、大学利権強化のためだけに受験資格を不当に制限し、莫大な血税を浪費し続けるだけの政策を上手くいかせてはだめですね。
    実際あなたも司法改革の正当性をなに一つ立証できないわけですし。

    >「ローから受験資格を取り上げろ」なんて言いますが,その主張に,現実的・建設的な終着点の描かれた青図は

    不当な受験資格制限を廃止すべきというのは当然の主張です。
    不当な制限がなくなった後、ローというハコモノがどうなるかの終着点は、ハコモノの中の人達が考えればいいのでは。
    あなたの頭の中では、「ハコモノを延命させる方向でなければ建設的ではない。」となってるのですかね。
    正当な主張をしてる人達は、あなたの脳内で建設的と評されるかどうかなんて全く気にしてないですよ。

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    No title

    いつになく感情的な書き方をされているなと感じました。
    司法改革という大事業においては,すべての関係者がそれぞれ期待された役割を果たし,相互に連携が取れなけば,上手く行くはずありません。青図のデキの悪さが主因でしょうが,今や,バランスが崩れてヤバい感じになっていることは,関係者の共通認識でしょう。となると,どこを押し出し,どこを引っ込めて形を整えるかですが,その作業において,関係者間で鞘当てが行われるのも,自然な成行きです。
    一番の問題は,所詮,司法改革・法曹養成にかかる対立は,世間の人からすれば「内紛」に他ならないのであって,やればやるほど,全体の力が削がれかねないことだと思います。
    件の教員の発言の不穏当さも,危機意識の強さの表れでしょう。捨て置いていいんじゃないでしょうか。

    強硬な人たちは,「ローから受験資格を取り上げろ」なんて言いますが,その主張に,現実的・建設的な終着点の描かれた青図はあるのか,はなはだ疑問です。

    No title

    問題の発言したやつも含めて、弁護士なんてエリートじゃないしー。
    ほっておいても、どうせ法科大学院なんて欠陥商品ですよ。
    欠陥商品であることに消費者も気付き始めましたよ。

    もう、そろそろホームページに、「私はロー卒ではありません」と断りの文句を入れておかないといけないのかな、と思いますけどね。

    言い訳しないといけない世の中になりましたかね。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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