増員という「実験」の結果

     司法試験合格者数、あるいは実質的には弁護士の数をめぐり、散々いわれた「需給制限」「需給調整」といった批判論を、いまだに目します。いまさらおさらいするまでもありませんが、これは制度批判というよりも、むしろあからさまな弁護士批判に結び付けられてきました。つまりは、弁護士が数を制限することで、自らの保身のために、競争を回避してきた、その心得違いを言い、「甘えるな」という論調です。他の業種を引き合いに出した「特権批判」であり、逆にその「甘え」の構造のなかで、利用者は低額化を含めて、本来、享受できるサービスを享受できないてきたことを連想させるもの。したがって、要は悪いのは、そういう形を守ろうとしてきた従来からの弁護士の姿勢ということになります。

     ただ、かつて「改革」の当初、「ギルド批判」などといわれた批判論のなかで、これがいわれたのと、現在それがいわれることとは、意味が違うようにも思えます。何が違うかといえば、現在、「改革」の「実験」的結果が既に出ているからです。

     2010年に年3000人という司法試験合格者を出すという目標は達成できず、現在においてもそれを達成する見通しには立てません。これまでの数を大幅に増やす計画は、実際にそれを増やすだけの弁護士の需要が、この国になかったことを取りあえず証明し、その大幅増員を支える法曹養成制度の費用対効果とあわせた現実の前に、弁護士は志望されなくなった――。

     前記の「需給制限」「需給調整」批判は、基本的に志望者を「受からせろ」論と表裏をなしていますが、弁護士の激増政策は、「制限」「調整」以前に、志望者が「受けたくない」状況を作り出したということです。

     それがはっきりしていても、なお、いわれる前記批判論を、今、どう考えるべきなのでしょうか。その中身をみるとは、一つは、それでも「受けさせろ」論が道を開くという見方で、それに慎重な弁護士たちに従来からの保身的なイメージを被せるものです。合格者を増やせば、志望者が返って来るという、法科大学院を維持したい方々も拠っている見方です。ただ、いうまでもありませんが、これをいうためには、弁護士界敬遠の真の理由が主に「合格率」の低さにあると言い続けるか、それとも理由は弁護士の現状にあるが、これが増員によって飛躍的に好転するという予想に立つしかありません。

     しかし、前者は弁護士の現状に全く目をつむるものですし、後者は、増員弁護士が「需要」を生み出す、作り出すという前提に立たなければなりません(「jLawyers &httpsジュリナビ」ツイート)。しかし、それが成り立たないことは「実験」が証明したとみることはできます。増えた数に比例して、弁護士の需要が生み出されるという話にはならなかった、ということです。

     ここから先、「それでも」とおっしゃる方の弁護士批判は続きます。つまりは、需要開拓の努力不足、「甘えだ」と。推進派大マスコミの基本的な立場も、ここにあります。しかし、これはどんどん当初の話からは遠ざかっていく感覚に襲われます。競争が市民に弁護士のメリットを享受させるという話が、いつのまにか市民が弁護士の需要開拓のターゲット、しかもかなり無理に需要を引き出される対象になる。少なくとも、市民が増員弁護士に対して、増えさえすればお金を投入する用意がある、という状況ではないことも、この「実験」が証明したと考えれば、ここから先、「競争」の名のもとに何が行われるのか。市民が考えるべきことが、おいしい弁護士サービスの利の話か、それとも「生き残り」策に利用される危さかは、いうまでもないことに思えます。

     もともと弁護士が必要な社会がやってくるという話が、それが簡単に来ないとなると、「掘り起こせばある」という話に。それも危ういと分かっても、今度はペースの問題だ、ミスマッチだ、という話にどれだけ説得力があるのかは疑ってかかっていいはずです。弁護士が必要な場面があそこにもある、ここにもあると言ってみたところで、全体的に見て、需要がないところで、仕事をしようなんて思わないという見方の方が、よっぽど分かりやすい現状説明のように思えます。

     もちろん、「受けさせろ」論のなかで聞かれる「能力的に適格性のあるものには全員資格を」といった考えが、現状からして、そもそも増員につながるとは限りません。むしろ、純粋にその考えに立って法曹界側が関門を設けたとすれば、現状からすれば、実力勝負で逆に現在の2000人どころか、従来の500人程度に合格者は減るかもしれないという皮肉な見方をする人もいます。それが予想されるがゆえに、いや資格などゆるくてかまわん、すべてはその先、と、またぞろ「資格」の関門ではなく、「競争」による良質化のメリットが強調されるわけです。前記「能力重視合格」論が、「競争」良質化メリット論と並べていわれることの非現実性も、また、この「実験」ではっきりしてきているというべきです。

     弁護士「甘やかすな」論を強調される方は、それがどこまでも国民の支持を集めると思っていらっしゃるのか、あくまで前記に対する反論を「国民に通用しない」とその意思を忖度する主張を掲げます。ただ、さすがに「競争」頼みの無理な見通しと、「資格」の保証なき危うい未来、さらにそのしわ寄せを市民の自己責任に転嫁する方向を前に、それでもメリットの方を支持するとはとても考えられません(「弁護士『甘やかすな』論の影響」)。

     あえて、ここで度々「実験」という言葉を登場させました。ただ、この言い方に抵抗がないわけではありません。それは、本当にこの結果は、「実験」しなければ分からなかったのか、そして、それは既に大きな取り返しのつかない結果を生んでいるのではないか、という気がするからです。もちろん、この「改革」は、「実験」を意識していたものではなく、もっと強い理念的な確信に基づいて始められました。そうであればこそ、いまだに「実験」の結果を認められない方がいるように見えますが、それでいいのか、ということも根本から問われる必要があります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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