「圧力士業」という危険な存在

     弁護士に関する一般市民の話には、しばしば「圧力」というテーマが登場します。多くの場合、相手側に登場した弁護士に関する、批判的な内容です。ネットでも、それを問題視する意見は見られ、その内容も中には、「脅迫された」といったようなものまであります。

     しかし、いうまでもないことかもしれませんが、こうした主張には、慎重に耳を貸さなければなりません。弁護士としては、当然の行動が、往々に「圧力」としてとられてしまうということもあるからです。例えば、相手側弁護士が相手当事者との接触禁止を求めることや、内容証明で回答期限を切ることを威圧的行為ととらえる人もいますし、さらに、表現にもよりますが、法的な手段や主張として、当然の選択肢や見通しの提示が、「脅迫ではないか」ととられるケースも、実際には存在しています。

     一方で、同業者からみても完全にアウト、懲戒案件に相当するような、対応が存在することも事実です。ただ、むしろ厄介なのは、そのギリギリのところも含めて、アウトなのか、セーフのか、はたまた前記のようなこちらの全くの認識不足なのか、そこが市民側には分からない、区別が付きにくいというところにあるようです。

     このテーマで、強く市民の意識の背景にあると感じるのは、どういう対応であれ、弁護士だけに、そこは強固な反論、弁明、さらにいえば、「抜け道」が用意されてしまうという、弁護士に対する不信感の存在です。理屈のプロが、言葉巧みに、行為を正当化するだろう、そこには素人は太刀打ちできないのではないだろうか、と。弁護士会に持ち込んでも、「身内のかばい合い」で逃げられてしまうだろう、という懲戒への不信感、さらには弁護士を相手に闘ってくれる弁護士がいないと嘆く声もあります。

     そもそも弁護士の登場自体は、既に一般の市民にとっては、相当な「圧力」であるという人もいます。相手側の弁護士が出てきたということは、当然に、このトラブルが別の段階に入ったという強烈なメッセージとして伝わりますし、当然、こちらも弁護士をつけることも含め、新たな対策を余儀なくされます。

     これにしても、一面、交渉に応じない相手に対しては、弁護士としてはむしろ伝えるべきメッセージであり、法的な話し合いの場に引き出す効果を肯定的にとらえることもできるわけですが、現実はそうとばかりもいえません。根耳に水であったり、言いがかりであればなおさらですが、法的問題に発展するようなトラブルにご縁がない多くの市民からすれば、弁護士の登場は、不当な主張に理屈をつけてふっかけられるのではないかという警戒感に身構え、動揺させられる事態でもあります。

     実は問題を複雑にするのは、逆に社会の認識として、この「圧力」そのものに、弁護士の役割を期待する人がいるということです。弁護士が登場する、あるいは弁護士が付いているという「圧力」が、法的な正当性以前に、交渉を有利に進める、相手を黙らせる武器になると考えている人々です。いうまでもなく、法律関連士業のなかで、資格として与えられている「力」から、いわば最も「圧力士業」としての期待感を被せられ、一方で、それがゆえに不信感と警戒感とも結び付いてしまうのが、弁護士という資格であるといえるのです。

     そうであれば、結局、目に目をとばかり、これに対抗するために、弁護士を必要としなければならなくなり、それがまた、必然的に弁護士登場の場面を作ることにはなります。ただ、その場合、対抗する弁護士がまっとうでなければ話にならない。相手側と気脈通じていたり、彼自身が法的正義というものや弁護士の使命に対して自覚がなければ、市民は頼る場を失い、二重被害の犠牲者にもなり得ます。

     増員政策や新法曹養成によって、弁護士の経済環境が激変し、その中で、経験がない新人が、ブラックな企業で採用され、会社に都合のいい意見を出すために利用される危険が指摘されています(「企業『新人弁護士』採用の不安な一面」)。弁護士を利用する側が、本来の法律の専門家としての知見をそこに求めるのではなく、前記した「圧力」の武器として、弁護士バッヂを利用するということです。そして、なかには、新人に限らず、それこそ商売として、そのニーズに積極的に応えようとする弁護士も現れてしまう。あるいは前記ギリギリのグレーな対応に、「プロ」の弁明を伴って。

     こう見てくると、すべては弁護士の自覚、「質」次第ということになります。「圧力」を弁護士が確信的に利用するにせよ、利用されるにせよ、これらは、市民・社会にとって、やはり弁護士という仕事が、一つ間違えれば、外部から是正しにくい、非常に厄介で危険な資格になり得ることを示しています。弁護士に厳しい試験や訓練、さらには特別な職業倫理が求められる「資格」の本当の意味を、社会がそこに見出すことは、非常に自然なことです。

      「質」の良化を競争と、市民の自己責任にゆだねつつ、社会の隅々に弁護士が登場するという「改革」の先に待っているのは、われわれが「圧力士業」としての弁護士に、遭遇しないで済む社会なのか、それともより出会う危険がある社会なのか――。そういう視点も必要であるように思えます。


    ただいま、「法曹養成制度検討会議の『中間的取りまとめ』」「弁護士の質」についてもご意見募集中!
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    No title

    弁護士の登場がさらなる弁護士の活躍の場を生み出し、泥沼の紛争化する?
    司法改革で国民が望んだことなんでしょ?
    で、こういうと心得違い?
    すでに、おかしな裁判しているな?と思うケースがいくつかありますよ。

    No title

    たいへん興味深いお話です(長文失礼します)。
    弁護士からの受任通知ひとつとっても、実は、いろいろな工夫の余地があります。
    電話・FAX・通知書・内容証明・速達等の方法の選択、相手方の選択、タイミングの選択のほか、通知書であれば表現にも気を配ります。たとえば、前略・謹啓・時候の挨拶等の導入部分、事実の指摘の仕方と評価、どこまで要求するか、条文・判例を引くか、それとなく話し合い(和解)を求めるか、強気(脅し)のスパイスをどの程度入れるか等々。
    このように工夫を凝らすのは、もちろん依頼人の利益(交渉上の優位)を図ってのことですが、それだけではありません。紛争の行く末を見通し、最終的に依頼人のみならず相手方にとっても社会的に見ても妥当な良い解決に導く布石にするためです。初手から本来無用な相手方の反感を買えば、その事件は収まっても相手方の気持ちは収まらず、良い解決(根治)につながりません。ですから、受任通知を受け取る相手方の心情(反応)を推測し、それに配慮することは必要不可欠です。
    したがって、受任通知ひとつとっても、そこには料理人のような繊細な配慮が必要で、最初のうちは作成に2時間以上かかって当たり前でしょう。逆に、書きなぐったような受任通知や脅しめいた表現を多用する受任通知をいきなり送りつけられた方が、弁護士という人種に対してきわめて強い嫌悪感を持たれるのは至極当然のことです。
    私はイソ弁時代に、今は亡きボスから書面の書き方を教わりました。何度も何度も朱を入れられて訳が分からず腹を立てたこともありましたが、最近になってようやく、あれが社会に求められているOJTだったと感じます。古手の弁護士でも平気で脅迫めいた受任通知を送る人がいて辟易しますが、若手にはそのような修練の機会さえ与えられていないのだとすれば、本当に残念です。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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