「改革」の「誤ったメッセージ」

     法科大学院協会の中山幸二事務局長が、5月7日に法務省に提出した「法曹養成制度検討会議・中間取りまとめに対する意見」の中に、司法試験合格者年間3000人方針の撤廃に関して、こんな風に述べる下りがあります。

      「いまこの段階で3000人目標を下ろすことは、社会に対して誤ったメッセージとなるおそれがあり、法曹を志望する若い世代を萎縮させるとともに、ようやく芽吹きはじめた、法曹の職域拡大を後退させることにもなりかねない」

     物は言い様、とお感じになられる方も少なくないとは思いますが、この中で一番ひっかかるのは、「社会に対する誤ったメッセージ」というところです。3000人目標を今、取り下げることによる「誤ったメッセージ」とは何なのか。文脈から判断すると、「法の支配をあまねく実現するため」に、弁護士の地域偏在解消と法曹有資格者の職域拡大を行っていくうえでの「法曹人口の規模を示す役割」を担ってきたのがこの目標であり、それは「司法制度改革における理念的な指標」なのだ、というのですから、こうした「法の支配をあまねく実現」も、そのための偏在解消も職域拡大もやめてしまう。さらには、その理念の旗も降ろした、ととられてしまいかねない、というご懸念のように読めます。

     ただ、この言い分には、非常に違和感を覚えます。それをいうのならば、「3000人方針」自体が「誤ったメッセージ」を社会に伝えてこなかったのか、ということを言いたくなるからです。いまさらいうまでもないことかもしれませんが、この方針は、この国には3000人の法曹有資格者が必要であり、それを経済的に支えるだけの法曹のニーズがこの国に存在している、もしくは誕生する、だから2010年にはその数値を達成し得る――というメッセージを社会に発してきたのではないでしょうか。この数値は、「二割司法」同様、この国に眠る大量の弁護士ニーズという幻想につながった。「3000人」という文字だけみた国民は、そこから逆算した、そうした誤った現実を連想してもおかしくありません。それは、現実を一番把握しているはずの、弁護士の中にまで、その気になる人間たちを生み、「改革」を先導したことは紛れもない事実です。

     さらに、この旗を下げることが「法曹を志望する若い世代を萎縮」させるという話も、「法曹の職域拡大を後退」させかねない、という話も、これ自体が「誤ったメッセージ」の発信であることに気が付かされます。今、法曹志望者を最も委縮させているものは何なのか、3000人方針の旗が掲げ続けられれば職域拡大が前進するのか――。「3000人」というメッセージをあくまで正当化する前提に立って、問題視する視点をずらす「誤ったメッセージ」になる恐れがあるものというべきです。

     中山事務局長は、法曹有資格者の需要喚起の必要性に絡めて、こうも言っています。

      「司法制度改革審議会意見書が述べる『社会生活上の医師』としての法曹の役割を前提とするならば、さらなる活動領域の拡大に向けた取組みが必要であると考えられる」

      「社会生活上」という、意味を特定しにくい言葉を伴ったこの喩えは、この国で成立している前提も内容も著しく異なる医師と法曹を、あたかも「同一視」するイメージだけが伝わる、それこそ「誤ったメッセージ」につながる表現ともいえます(「弁護士は医者と同じ?」。なぜか、中山事務局長は、「前提とするならば」という、一応仮定する形をとっています。ただ、これとて、それを前提としない考えや、そもそもこの喩えの妥当性の問題を気付かせるものではないでしょう。「社会のすみずみ」「津々浦々」に弁護士が顔を出す社会を、「身近な」医師の存在を連想させることで肯定する、刷り込みというべきものです。

     法科大学院本道主義を堅持とする側が目の敵にする「予備試験」についても、「経済的事情などにより法科大学院に進学できないか、既に実社会で十分な経験を積んでいるため法科大学院を経由するまでの必要がないと認められる者」という本来の制度対象者以外の、つまりは法科大学院に進学し得るのにしない者たちが利用する現実を厳しく問題視。「予備試験本来の趣旨に適合しないばかりか、筆記試験偏重の傾向を再燃させるものであって、プロセスとしての法曹養成制度を構築するという司法制度改革そのものの趣旨に根本的に反する」という、お決まりの断じ方をして、それを予備試験受験資格制限の必要性へとつなげています。

     しかし、この表現にしても、同様です。彼らが「予備試験」を利用する本当の理由が、経済的時間的負担に見合うだけの「価値」を彼らが法科大学院という「プロセス」に見出していない結果であること、現実は「プロセス」の側がその「価値」で勝負して勝利する自信がなく、強制しなけれは利用されなくなるという脅威が彼らにあり、それこそが予備試験冷遇の本当の意味であること――。あたかも「抜け道」はけしからんという、前記切り口は、果たしてこの現実を伝えるでしょうか。

     今にして、「改革」の旗の一つを降ろすことに、「誤ったメッセージ」になると強弁する中山事務局長の「意見」ですが、改めてこの「改革」は「誤ったメッセージ」に満たされ、そのことに社会は気付かされずにきたということを感じます。


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    こりゃもう戦前戦中の主戦論者なんかをはるかに凌駕するとんでもない大バカ者としか言いようがありませんね。でも今のこの戦禍から日本(の司法)を救うには,戦争をやめる力が必要なんですが,現代日本には制度上も実態上もその力がどこにもないので,戦禍がこのまま続くんじゃないかと思うようになってきました。

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    司法改悪マンセーのバカ相手にするのは、もううんざりです。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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