「弁護士のため」という疑念

     明石市が任期付き職員として弁護士5人を採用して1年。弁護士が活躍できる「受け皿」を、自治体も含め広く開拓しなければならないとする、日弁連内「改革」推進派の期待を背負い、その積極姿勢が話題を提供してきた弁護士でもある泉房穂市長の姿勢(「弁護士資格職員採用自治体への期待と懸念」 「明石市・顧問弁護士全員解嘱という選択」)に、市民が冷やかな目線を向け始めていることを、地元紙が伝えています(5月4日付け神戸新聞・明石版)。

     同市弁護士職員は2人が市民向け法律相談、3人がコンプライアンスや政策法務等を担当。昨年度、法律相談実績は市民センターでの相談等計161件、顧問弁護士に依頼していた市職員の相談333件、訴訟・調停5件もこなし、外部弁護士への報酬・報償費は一昨年度の986万円から昨年度は343万円に。しかし、こうした実績に対し、5人の年間人件費は約4千万円で、相談を県弁護士会に委託し、訴訟は顧問の方が安い、と。

     ただ、記事が伝えているものは、こうした費用対効果の問題だけではありません。冷やかな目線の背景に、次々と明らかになった泉市長による弁護士の重用・厚遇ぶりと日弁連への接近がある、と同紙は指摘します。

      「弁護士職員の弁護士会費(最大月額19万5千円)の公費負担や、顧問弁護士への規定の13倍の報償支払いは『身内』への甘さを露呈し、日弁連やその政治団体と連携する『全国弁護士市長会』の設立呼び掛けなどは『市政が弁護士業界の主張に利用される』との懸念を招いた」
      「複数の市幹部は『市長の言動や施策に、弁護士は全てにおいて有能という意識を感じる』と話す」

     つまり、泉市長の姿勢、施策の方向が、「市民のため」よりも、「弁護士のため」ではないかという疑念です。同記事のリード部分の括りでは、「弁護士の就職難に頭を抱える」日弁連と「気脈を通じ、自治体弁護士採用増の旗振り役として奔走」市長の姿勢が「疑念を増幅させている」とはっきり書かれています。

     弁護士職員の貢献度は前記のような数字だけ現れないとか、その能力評価については、おそらく市長側にも言い分があるとは思いますし、それこそ市長の奮闘に期待している「改革」推進派の弁護士側からすれば、「実績を示すことで疑念は払拭されていくはず」といったお決まりの反論が用意されるとは思います。

     ただ、一方で、この記事が伝える状況のなかに、やはりこの「改革」が示す方向性、弁護士の「受け皿」を自治体に「開拓する」という発想の限界もしくは無理を読み取ることもできます。要は、こうした方向が、やはり純粋に市民ニーズから逆算されたものとは受け取られない、別の言い方をすれば、こうした方向を期待する弁護士側が思っているような形で、市民がこれを受け入れ、また期待するわけでは、必ずしもないということを示しているようにとれるのです。

     これは、明石市の政策に限ったことではありません。増員ありきの「改革」で、既に「就職難に頭を抱える」側が繰り出す、弁護士活用の拡大を前提とした「開拓」は、依然、当初、この「改革」が描いたような、「当然に」彼らを必要としてくれる社会を前提とし、それを信じて突き進む。それがゆえに、こうした利用者側の等身大のニーズとの間に、ギャップが生じるということは、起こるべくして起こるといってもいいように思えるのです。

      「弁護士収入:2割が年収100万円以下」(5月9日付け毎日新聞朝刊)  「弁護士収入:増えた人数、業務は減 事務所維持で借金も」(同 大阪版)=ともに毎日5月8日配信。弁護士の経済的窮状を伝えた、この新聞報道が話題になっています。こうした報道によって弁護士の直面する現実が繰り返し伝えられるほどに、あるいは「弁護士はそれでもなんだかんだいっても儲けている」という社会にある認識が変わり、そのイメージも塗り変わっていくかもしれません。

     しかし、同時に、この記事も伝えているように、その原因が「訴訟数増加や役所・企業への弁護士進出で弁護士の仕事が増えると想定」して弁護士を激増させた見込み違いにあることも、はっきりと認識されていくことになります。だとすれば、弁護士側の必死の「開拓」が、その見込み違いのしわ寄せととられるのもまた、無理ない話といえます。「見込み違い」という根本に立ち返らず、「増員ペースの問題」とか、「まだまだニーズが眠っている」という推進派の主張の先に、前記明石市で起きているようなキャップ、さらには「利用されているのではないか」という疑念が生じることは、もはや避けられないように思えるのです。

     泉市長は,今月11日に東京で開かれる法科大学院協会主催のシンポジウム「法科大学院修了生の活躍と今後の課題」に出席し、「地方自治体での活躍と更なる期待」と題した報告を予定しています。あるいは、「改革」に対する期待とそれに応えることに対する強い使命感が市長のなかにあるのかもしれませんが、現実から遊離した「改革」の期待感が先行し続けることだけは、どこかでやめなければなりません。


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    No title

    需要は行政にある、地方自治体を開拓せよ、といった主張をする方はいますね。
    たとえば、日弁連市民会議議長の北川正恭氏(早稲田大学公共経営大学院教授)
    「兵庫県明石市の市長とか、あるいは近畿弁護士市長会ができましたが、そういったところを通じて相当力を入れていただければ、需要はいっぱい行政側にはあると思います。」
    http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/judical_reform/data/shiminkaigi35.pdf
    ちなみに、同じく神戸新聞で、明石市長が明石市の公金でもって北川正恭氏と懇親会の席を設けたことが報道されたことがありました。

    No title

    明石市がそんなことになっているとは露知らず。
    むかしむかし、弁護士を受け入れてもらうため、明石市の担当部署と意見交換したことがありました。そのときの担当者のご発言は、だいたい以下のとおりでした。
    「弁護士さんですか。そんな偉い方に来ていただいても、うちには仕事はありませんよ。裁判ないですからね。」
    「行政の手伝いですか。でもうちが調べるのは河川法だとか道路法だとか細かい行政法規ばかりですよ。それに詳しい弁護士って聞いたことないし、そもそも通達があるうえ、中央に有権解釈を聞けば済む話ですからね。」
    「待遇も問題ですよね。人事制度を見直さなければならない。今までどおり、必要に応じて弁護士会や顧問の先生に頼めば済むことですからねえ。」
    ほかでもないその明石市が弁護士を雇ったというんですから新鮮な驚きです。
    1,2年目の弁護士では法律相談さえまともにできず、市民からも市職員からも総反発を食うと思いますが、杞憂ですかね。
    ともあれ、「弁護士は偉いんだ」という上から目線の改革路線には閉口です。

    No title

    今回の記事は、2月19日付けの記事「自治体に採用される「任期」の意味」から続けて読むとわかりやすいですね。
    明石市長は、職員の反発や市民の顰蹙を買っても、さして気にもしていないのでは?
    彼らが目指しているところは、障がい者雇用制度のように、法律による弁護士採用の義務付けだと思われます。
    弁政連幹部と明石市長との談話の中では「一万人の弁護士を行政機関に送るんだ」との発言もあったようですが、阿部泰隆先生が指摘されている、弁護士の能力と自治体側のニーズのミスマッチの問題なんて、微塵も考慮していないのではないでしょうか。
    あまりに一方的な発想のように思えます。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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