東弁「審査補助員」推薦問題の深刻度

     5月7日付けで、市民団体が東京弁護士会に対して、ある公開質問状を提出しました。この団体とは、音楽家で作家の八木啓代氏が代表を務める「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」。いわゆる陸山会事件の捜査の過程で、検察官によって内容虚偽の捜査報告書が作成され、検察審査会に提出された問題で、昨年、関与したとされる検事らを刑事告発した団体です。

     しかし、最高検察庁は「記憶が混同した」とか「虚偽とは知らなかった」といった検察官らの言い分を採用し、昨年6月、田代政弘検事を嫌疑不十分の不起訴処分・減給、他の検察幹部は嫌疑なしの不起訴処分・戒告とし、田代検事は辞職。これに対し、市民団体は、東京第一検察審査会に審査を申し立てましたが、今年4月、田代元検事の虚偽有印公文書作成・行使、偽証罪に対して、「不起訴不当」、その他について「不起訴相当」の議決。これによって、田代元検事について、検察が不起訴処分を出せば、この件で関係した検察官について、刑事裁判上はお咎めなしが決定することになりました。

     今回出された公開質問状は、この件で、東京弁護士会が検察審査会に審査補助員として推薦し、実際に審査にかかわった弁護士に関するものです。審査補助員とは、検察審査会長の指揮監督を受けて関係法令やその解釈を説明、問題点の整理、法的見地からの必要な助言を行う補助者的な立場の人間で、弁護士の中から事件ごとに1人が委嘱されることになっており(検察審査会法39条の2)、今回の「改革」で強制起訴制度とともに導入されたものです。

     問題は、その審査補助員にこの事件で、選ばれた弁護士というのが、地検検事正や最高検検事を務めたヤメ検だった、という話なのです。

      「同弁護士は、検察に長年勤務し、検事正等の要職を務めた『検察OB』であり、検察官の職務上の犯罪が審査の対象となっている事件の審査補助員としての中立かつ公正な立場で助言を行える人物とは考えられない。当会としては、そのような人物が、貴会から審査補助員として推薦されたことについて、その選任の公正さに重大な疑念を持つものである」(公開質問状)

     当然といえば、当然すぎる主張です。市民団体は、こうした認識の上に立ち、東京弁護士会に対し、審査補助員推薦の選任基準、推薦、選定の方法、不適任者を忌避する事由等について、どのような一般的な基準が設定されているかを回答するよう求めています。

     この質問状に対して、東京弁護士会がどう対応するのかは、現在のところ分からないのですが、同弁護士会にとって、これは簡単に対応できる問題ではありません。審査補助員は、依頼を受けた弁護士会が、いわば「一本釣り」で推薦しているといわれていますが、そこに市民団体に回答できるような基準等があったとすれば、今回のような事態を生むような不当なものであることは明らかですし、それを放置したことも、それを運用して今回推薦したことの不当性は問われます。前記弁護士の経歴を知らなかったことは、あり得ないわけですから。

     もし、分かって運用したというのであれば、「関係ない」という言い方も、あるいはあるかもしれません。出自と公正さを切り離す、法曹の良心論です。ただ、かつて判検交流問題で裁判所や検察の関係者が繰り出す、そうした正当化論に対峙して、「らしさ」論つまり国民に疑念を抱かせない中立・公正さを求めたのは、ほかならない弁護士会でした。そう考えれば、ミス的な弁明や仮に「法曹の良心論」を繰り出したところで、弁護士会が決定的に中立・公正さの感性を鈍磨させていることを白日のもとにさらすのは避けられないというべきです。

     しかし、問題はここではおさまらない、いや、むしろここではないかもしれません。弁護士会に対する社会の疑念は、より積極的な関与の事実であるとみることもできるからです。

      「それにしても、東京弁護士会には全国一多数の弁護士が所属しており、候補者は多数いたと考えられるにもかかわらず、検事正まで努め、最高検察庁検事まで努めたことがあるヤメ検を、よりによってこの事件で推薦したことについて大いに疑問がある。すなわち、第三者から見て、古巣である検察庁との関係で恩義を感じて、甘い結論に誘導したと疑われるような人物を弁護士会が検察審査会に推薦したことは、推薦の在り方に対して疑念を持たれることになったからである」(山下幸夫弁護士「検察審査会の闇について考える」)

     問題になっているのは、いうまでもなく、審査員に対する誘導です。小沢一郎氏の事件では起訴相当へ、今回逆にその回避への誘導が疑われています。それは、当然、この組織の意見が、別の意思によって大きく左右にふれてしまうということと同時に、市民の判断の反映ではない、むしろ、その看板のもとに別の意思が貫徹されていることへの疑念です。その現実に、弁護士会が「確信的」も含めて関与しているということになるのです。

     実は八木代表のブログには、小沢事件の起訴相当をめぐっても、その時の審査補助員に関して、不可解な選任があったことを山下弁護士が明らかにしていることが紹介されています(「八木啓代のひとりごと」)。

     検察審査会を傷つけまいとする大マスコミが、この誘導というテーマに関して、筋違いに腰が引けている感じがしますが、この件でも積極的な関心を今ところ示しているようにはみえません。しかし、東京弁護士会が今、問われているのは、ミスとすれば、市民には理解できない、とてつもなく感性が鈍磨しているととられるミスか、それとも、八木氏も前記ブロクで指摘しているような、とてつもない「ブラックボックス」としての不正義であるということを、弁護士会は深刻に受けとめる必要があります。


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    東弁は市民の声に応えてね 浮上せるなり補助員疑惑 東弁「審査補助員」推薦問題の深刻度 元「法律新聞」編集長の弁護士観察日記 5月8日 >東京弁護士会が今、問われているの

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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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