アンフェアな存在としての会長声明

     日弁連・弁護士会の会長声明というものに関して、会内でずっと耳にしてきたのは、個々の会員意思の反映の問題です。会長声明は、もちろん会長個人の考えではなく、文面からも明らかなように、団体の長として、政策提言や要望にかかわる団体としての意思表明です。なぜ、それが個々の意思の反映で問題かといえば、いうまでもなく、そこに表明さている方向に賛同できない個々の弁護士の意思があるにもかかわらず、統一化されているという印象を会員が持つからです。それが、強制加入団体としての意思表明の在り方としてどうか、ということにつながっていきます。

     報道されている日弁連会長の声明をみた依頼者・市民が、全国の弁護士の統一的な意思の方向をそこに読み取っているのに対し、会員が弁明ないし注釈を加えざるを得なくなったという話も、これまで少なからず耳にすることがありました。建て前としては、憲法改正など「政治的に意見が分かれる問題」とされる意思表明について配慮し、「人権侵害」というテーマで括れる範囲でそれを実行してきたとされていますが、それにしても会員意思としては、積極・消極両方からの批判が出される結果にもなってきました。

     一方で、もし、対立する意見を公平に汲み上げるならば、この意思表明自体の意味が、なくなるというとらえ方もできます。組織として方向性は示せない、あるいは極めて抽象的になり、意見が割れているだけの表明になりかねない、と。しかし、見方を変えれば、「司法改革」という、「相対的多数」という言い訳もきかないような、会内世論の対立案件では、まさにそういう扱いになること自体当然のはずです。したがって、本当にこの会員意思の反映に配慮するならば、最大公約数的で抽象的な意思表明でもするのか、そんなもの意味ないとしてやめるか、ということになるのもまた、当然のように思えます。

     法曹養成制度検討会議の「中間的取りまとめ」に関して、4月12日に出された山岸憲司・日弁連会長の声明は、どうとらえるべきでしょうか。声明は、「法曹志願者の減少をはじめとする様々な問題に対する処方箋」として不十分な点として、①合格「3000人」方針の事実上の撤回は評価しつつ、当面の合格者数の減少・漸増が明確でない点②司法修習生の経済的支援の在り方について具体的措置検討が必要な点③法科大学院への公的支援の見直し方策強化にとどまっており、定員削減・統廃合に向けた法的措置を設けることについては先送りされかねない点④法曹の活動領域拡大に向けた国の積極的な取り組み、司法試験受験回数制限緩和、予備試験の在り方、司法修習充実の検討が残っている点――を挙げています。

     要は全体的に具体策に欠けるということを指摘していますが、日弁連としても、特別具体的な提言をここに盛り込んでいるわけではありません。合格者数にしても、1500人を打ち出してはいません。しかし、全体的に抽象的なこの声明は、「最大公約数的な配慮」とは位置付けられないものでもあります。②に関連して、「給費制復活」を正面から掲げていないことに、日弁連が事実上、この旗を降ろしたととられることを指摘する声がありますし(「一聴了解」)、そもそも③④の法科大学院本道主義を前提とした指摘は、会内で大きく意見が分かれている点です。

     さらに、基本的なことですが、声明には、「法曹の役割拡大」という文字が2箇所出できます。①の点に関連して、「就職難」といった状況から、これに対する「真摯な取組」が必要とし、この「司法改革の理念」に検討会議が検討を深め具体化せよ、としています。

     司法審意見書にあっては、21世紀の我が国社会の司法の役割の重要性が飛躍的に増大し、事前規制の廃止・緩和等に伴い、国民の間で紛争が起きる、そのために「公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決される仕組み」の整備が必要になるとし、この司法の役割増大に応じて、法曹の役割も増大する、様々な分野で幅広く活躍することが、「強く求められる」としています。あくまで「役割」を作るという話ではなく、「求められる」社会が必然的にやってくるという描き方です。

     増やしてしまった法曹の数をなんとかするために、「役割」を作るという話が、そもそも誰のため、誰が望むものなのかという、この「改革」のおかしさを、これまでも書いてきましたが、やはりここでも当たり前のように書かれている「役割拡大」に取り組まなければならないという内容に、率直に違和感を持ちます。今、起きている「改革」の誤算ととれることは、この「司法改革の理念」とされるものの描き方自体の問題ではないのか、本当にある種のリスクを負ってまで、それを国民が求めているといえるのか、どうしても、そのことがもう一度問われ直されていいように思うからです。そして、こう考えている弁護士は、いまや少なからず存在していることも確かです。

     現実的なことをいえば、もはや会長声明に公平な「会員の意思」反映を求めている会員がどれだけいるのかは疑問です。「そんなものだ」と、もはや諦めともとれる、冷ややかに見ている会員の声も聞きます。ただ、たとえ意見が分かれていても、会員意思の反映に忠実な弁護士会の意思表明がなされる唯一の社会的な意義を挙げるとすれば、それは専門家ですら、この点については、意見がはっきりと分かれているということが正確に伝えられることです。

     その意義に自覚的でない弁護士会の意思表明が、場合によっては、国民のフェアな判断を阻害する方に力を貸すことになることにも、果たして自覚的であるのか、そのことは問われていいように思います。


    ただいま、「法曹養成制度検討会議の『中間的取りまとめ』」についてもご意見募集中!
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    No title

    今回の会長声明は山岸本人の意見と同じだろう。
    傀儡とか腹話術とかいう言葉も出ているようだが、今の日弁連会長は法科大学院まんせーであることはみな知っている。
    まるで、選挙の時だけ原発は廃止しますと言いながら政権を奪回した途端、原発推進しますと言っているどこかの政党みたい。
    それにしても日弁連会長選挙の時だけ、大衆向けのマニュフェストを展開しているのに、それに騙される会員って、どうしようもないバカ?
    まあ、前回は対立候補も残念な極左の弁護士で、それまでの行動が会員の失望を強めてきたから、こういう結果なのだが。
    本当に次の会長選挙で、法科大学院と敵対し、出来れば日弁連を解散することを公約に掲げる候補が出てきて欲しい。

    No title

    今回の会長声明を起案したのは、担当委員会の中の法科大学院関係者なのではないかと感じます。

    こうやって、腹話術みたいにして会長の発言として発表することで、あたかも自分たちの意見が弁護士の総意のようにして語る手法が使われるんですよね、日弁連って。

    No title

    >公平とかデュープロセスという言葉を世の中で最も理解していないのは実は弁護士ではないかと思います。

    自分の意見は,自分(or自分たちの思想を根深く色濃く反映した団体)の名前を出して,自分(or団体)のBLOGで言えばいい。
    仮に,自分or団体の意見を,会長の名前を使って(隠れ蓑にして)発信しているとしたら,そいつらは怖くて自分の名前も名乗れない単なる卑怯者or集団だろ?

    そんな卑怯者or集団の意見など,世間の全うな人たちから,反感を買うことはあっても一瞥もされないのはいわば当然だと思うよ。

    No title

    会長声明があたかも会員の多数の意思を繁栄しているかのように誤解されることを悪用する事例は毎年存在します。
    日弁連だけでなく、単位会においても同じことが言えます。
    公平とかデュープロセスという言葉を世の中で最も理解していないのは実は弁護士ではないかと思います。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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