本当の「メディアの責任」

      「司法改革とメディアの責任」。4月11日付け朝日新聞朝刊「社説余滴」の、この見出しを見て、司法改革関連の論評では弁護士の間からは批判の的になってきた渡辺雅昭氏(元・司法社説担当、現・同紙さいたま総局長)も、司法試験合格3000人方針撤回の現実を前に、何かをお感じになられたのかと思いましたが、残念ながら、そういうことではなかったようです。

     警察や検察に真相解明を求め、犯行に至る動機やいきさつがはっきりしなかったならば「闇が残った」といい、自白の強要など捜査の行きすぎを批判しつつ、無罪判決が出れば当局に猛省を促し、有罪率99%の刑事裁判を「異常」として、誤判は「あってはならない」という――。こういうマスコミの指摘について、渡辺氏は「局面、局面ではもっとも」でも、「社会は、捜査や裁判に何を求めているか、求めるべきなのか」を考え込んでしまったというのです。

     一瞬、この人は一体何を言っているのだろう、と奇妙な気持ちに陥りました。要は、裁判の場は、国民の「納得」を求めることを目的とする場ではない、ということではないですか。国民の「納得」になにやら引きずられ、そのことをきっちり伝えてこなかったことで、混乱しているように見えるのです。彼は、こんな不思議なことも言っています。

      「裁判員制度の導入を機に『裁判は検察が有罪を立証できているか判断する場』との考え方が広がる。微に入り細をうかがって『真相』を明らかにするのが使命だというとらえ方は、過去のものになりつつある。この流れはもはや戻ることはないだろう。それなのにメディア、そしてその報道に接する市民が、これまでと変わらぬ意識であり続けたらどうなるか。両者の溝は深まり、批判と不信の連鎖におちいることになりかねない」

     彼が懸念する「変わらぬ意識」というのは、前提となることを正しく伝えてこなかったことに由来します。もちろん、「納得」を求めることを目的しないことが、彼のいう検察の独善主義や誤判を国民が批判できないことを意味しません。刑事裁判は、あくまで国家に被告人が訴追され、裁かれる場であること。そこで被告人の権利が十全に保護されていること。その大前提があるはすです。「納得」というのであれば、その監視者としての国民のそれは、刑事裁判の場が、その意味で正しく機能しているのかに向けられなければなりません。

     そのうえに立てば、国民が期待し、求める「真相」追究なるものが、この裁判の目的とずれることがあっても、それはある意味、当然であり、それを司法の限界とみるならば、その先はジャーナリズムや文学が、その役割を担うことくらい、マスコミ関係者ならば知らないわけもないはずです。

     刑事裁判の目的というテーマではありませんが、彼は直近の紙上の論評では、「給費制廃止違憲訴訟」に対して「どこまで人々の共感を得るだろうか」という表現で疑問視し(2月13日夕刊「窓」、「『朝日』がくさす本当の理由」)、 昨年8月23日の「社説余滴」では、弁護士増員による市民への悪影響を「物騒な予言」と片付け、彼が今回は自らを諫めている、それこそステレオタイプで、弁護士の「淘汰」で良質が残り、利をもたらすという主張を掲げています(「『質』懸念論への歪んだ論調」)。

     昨日のエントリー(「『国民の納得』の当然の前提」)で、現実がフェアに伝えられることで、国民に「納得されない」という前提は変わるとしましたが、今回にしても、これまでの記事にしても、それらは、まさしくその前提になることを大マスコミが正しく伝えてきたかにかかわる問題です。今回記事のなかで、「振り返って忸怩たる思い」と漏らす彼が、「司法改革とメディアの責任」というのであれば、まず、そのことに気が付くべきであると思えてなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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